墓守 2
「ひぎゃあ!?」
驚いたフィーラをちらりと見て
「お静かに、おねがいします」
ぼそりと言って、墓を埋める作業に戻って行った。
「やっぱり、あの人怖くない?」
無表情で黙々と同じ作業を繰り返す墓守を見て、妖精はカルにささやく。
「なんか、とって食われそうな雰囲気よ」
年はおそらく20代前半くらいだろうか。
抜けるように白い肌と、腰辺りまで伸びた黒髪。
うなじのあたりで無造作にまとめられており、前髪にいたっては長すぎてほぼ目元が隠れている。動きに合わせて見え隠れするその瞳は銀灰色で鋭い輝きを持っていた。
おまけに表情筋が死んでいるのかと思うほど、感情の読み取れない顔。
淡々と話す低い声。
見ているだけでも近寄りがたい雰囲気を放っている。
「人を見かけで判断しちゃダメだよ」
「カルって、友達多そうよね」
「いっぱいいたよ!」
「あ、そう」
気さくに明るく話すなどとは無縁の学校生活を思い出し、妖精はこっそり泣いた。と
「あの…」
手を動かしながらヒースが言った。
「見られていると、その…動きにくいんですが。
見ていても気持ちの良いものではないので、別の所で時間をつぶしていただけませんか」
迷惑だということだろうか。
相変わらず無表情だが、口ぶりから2人がここにいることを喜んでいないことは伝わってくる。
それならば、言う通り離れようとカルの方を見れば
「嫌なんかじゃないよ!」
彼はすでに墓守の側に行っていた。
「ねえ、お兄さんは死んじゃった人をもう一度戻してあげてるんでしょ?
オレも手伝うよ!
スコップの予備ないの?」
キラキラした桃色の瞳で見つめられ
「…はあ」
ヒースは少年から一歩離れた。
「ありがとうございます。
けれど、結構です。
私が汚れた一族と思って気を使っているのでしょうが…」
「汚れた一族?」
即座に反応したのは、フィーラだった。
「え?はい…」
「あ、ごめんなさい」
言ってすぐに後悔した。
(しまった。
ゲームとかで重要そうな単語につい、反応する癖が出てしまったわ)
でも、とカルの後ろからそうっと顔をだしてヒースを見る。
(こういうところに出てくる汚れた一族って単語がすごく気になる)
俗世とは切り離された地下の世界。
そこに1人住み続ける墓守の男。
複雑な設定や過去をどうしても期待してしまう。
「ねえ、汚れてるってことは、あなた、見えないところに傷があったりするの?」
「いえ、ないですが…」
「じゃあ、封印されてる力とか持ってるの?」
「とくには…」
「じゃあじゃあ、普通は持ってないような魔法の力があったりとか?」
「身に覚えがありません」
(えー、なにそれ)
フィーラは期待外れとばかりに肩を落とした。
「それじゃあ、あなた、ただの怖い人じゃない」
言ってまた後悔した。
「あ、ごめんなさい」
謝ったが
「怖い人、ですか」
心なし、ヒースのスコップを動かす手が遅くなった。
「フィーラ、失礼だよ」
カルがたしなめる。
「う、つい本音が…」
ごめんなさいと妖精はもう一度謝った。
「構いませんよ。怖がられてるのは慣れてますので」
本当に気にしてないのか、表情だけでは分かりかねた。
けれど、怒っていると言う訳ではなさそうだ。
正直、汚れた一族という言葉がまだ気になっていた妖精だが
(どうやって聞こうかしら)
こういう場合はなにかしら複雑な理由があったりするのがお決まり。
(下手に聞いて傷をえぐるようなことにでもなったら…)
失礼な発言をした手前、どうにもためらってしまう。
そんな彼女の心配をよそに
「ねえ、お兄さん。
さっきの汚れた一族って何?
お兄さん、別に体は汚れてないよ?」
(カルーー!!)
ためらいもない彼の純粋さに、妖精は旋律を覚えた。
ヒースの反応はと言えば
「ご存じないのですか?
墓守という職に就いている時点でお察しがつくと思ったのですが…」
「そんなの知んないよ。
妖精には、自分達以外の種族の風習なんて興味ないもん」
「おかしなことを言う少年ですね」
ヒースは首を傾げつつも、教えてくれた。
「単純なことですよ。
墓守というのは、汚れた仕事なんです」




