廃村に潜る者 8
なんとなく、気まずい思いをしながら並んで廃村を探索していく。
横目でちらりと妖精は隣を見る。
「ん?どうかした?」
カルはいつも通りの気楽そうな顔をしている。
「なんでも。なにも見つからないなあって思っただけ」
妖精は目をそらす。
「うーん、確かにそうだよねえ」
カルは空っぽの家を覗き込んで見る。
床がはがれ、伸びきった草が家の中にまで浸食している。
「そうだなあ…」
道にも、背の高い草がはびこっている。
「多分、こっちじゃないね」
カルは周りを見ながら何度か不意に方向を変えて歩き続ける。
「なんでこっちじゃないって分かるの?」
「気配がないから」
人がいれば気配が残る。
ましてこんな人の手を離れた場所だ。
誰かが通れば草は倒れるし、もし家を使ったなら埃が消えているはずだ。
なにもないなら、何かがある場所を探せばいい。
その考えで最終的に彼らがたどり着いたのは
「お墓だ」
「お墓ね」
十字の木々が地面に突き立てられた場所だった。
日はすっかり沈んで、月明かりの下で、名前の掠れた十字架が頼りなさげに立ち並んでいる。
不思議なことに、古びてはいるがどの墓にも小さな花が1輪づつ供えられていた。
そして、墓場の中央の地面に木製の扉があった。
取っ手もあり、周囲の土は払われていて、いかにも今でも使っていますと言いたげな雰囲気だ。
「開けるよ」
カルは言いながらそれを持ち上げた。
中には、石でできた階段が地下に向かって続いている。
緊張気味にその中を覗き込む妖精をよそに
「行ってみよう」
ひょいっと、カルは中に進んで行った。
「ちょっと、もう少し用心しようとかないわけ!?」
「大丈夫そうだよ?」
「それは行ってから分かっただけでしょ!」
全くもう、とぶつぶつ言いながらも妖精はカルの後ろをついていく。
階段はそこまで長くはなく、程なくして扉にたどり着いた。
「カル、今度こそ慎重に…」
「お、開いた」
「だからさああ!!」
ぶん殴ってやりたい衝動に駆られる彼女を隣に、カルは目を輝かせた。
「すっげえ!!」
扉の向こうは、光にあふれていた。
外に通じていたわけではない。
宝石であふれていたのだ。
ルビー、エメラルド、クリスタルにサファイア。
他にも様々な色とりどりの宝石が土の壁や天井から生えていた。
その1つ1つがほのかな光を放っている。
触れると、ほんのり暖かい。
「すごーい」
フィーラは素直に感心する。
宝石に彩られた道。
まるでおとぎ話に出てきそうな風景。
この先はしばらく通路になっているらしく、幻想的な風景をカルと妖精は進んで行く。
「これ、どういう仕組みなんだろうね」
カルはつん、と近くの宝石をつついてみる。
「なんとかして少し持ち帰れないかな」
売ることを考えるカルと
「どうかしらね」
うっとりと生返事を返すフィーラ。
やがて通路が終わると、開けた場所にでた。
言うなれば、宝石の大広間。
そこも宝石の光に照らしだされ、美しいの一言に尽きる景色が広がっていた。
ただし
「え?なんでここにもお墓?」
「うわ、不気味ね」
ところせましと並べられた十字架の群れに、2人は足を止めた。
照らし出された光景は、なんだかちぐはぐだ。
と
―ザク―
奥から音が響いてきた。
「誰かいるのかも」
とたんに走り出したカルを
「だからもう少し、慎重に行動しなさいって!」
叱りながらフィーラは追いかけた。




