廃村に潜る者 7
「ふう」
カルは安心したように息をついた。
「よかったよかった」
「ちゃんと帰れるかしら?あの子」
「大丈夫じゃない?来れたんだから。帰れるでしょ」
あっさりした考え方に
「カルって、結構単純なのね」
フィーラは少し呆れた。
すると
「そうだよ!オレは単純なんだよ」
カルは嬉しそうに妖精を肩から降ろした。
花を包むように優しく、柔らかく、両の掌でフィーラを乗せる。
「だから誓ったことは絶対に曲げない」
「へ?」
「だから、怖がらないで。
お化けでもなんでも、オレが守るからさ」
ゆっくりと、小さな額に少年はキスをした。
少女に戻ったフィーラを愛おしそうに見つめて、彼女の手を取りその指先にキスをした。
「どんな時でも、手を繋ぐから、離さないよ。
不安も、恐怖も、オレが背負う。
だから、笑っていて」
「か、カル…」
頬が熱くなる。
フィーラは体を固くした。
胸の中がもぞもぞとする。
おさまりが悪くて、むずがゆくて
「な、なんでキス…するのよ」
「伝えたいから。妖精は気持ちを伝えたいとき、抱きしめたりキスしたりするんだ」
つまり、純粋な好意。
カルが向けるのは、彼女を大好きだと言う気持ち。
桃色の瞳がそれを物語っていて、そこに映る少女は
「ば、ばかじゃない!?」
何故か少し怯えた様に手を振り払った。
「人間は、そんなこと簡単にしないのよ!」
(そう、あたしは人間。本当は、妖精なんかじゃ…ない)
流されてはだめだ。
そう思うのは本心なのに、彼女の胸は痛んで、何故だか泣きたくなった。
「それに、そうやってあたしを守ろうとするのは、女神が連れてきた存在ってだけでしょ。
利用価値があるだけ。
あたしも、1人じゃどうしようもないから一緒にいるだけ。
それだけなんだから!!」
顔が見れなかった。
自分の言葉で、自分が傷ついているように胸が痛い。
カルは今、どんな表情をしているのか、見るのが怖かった。
息を荒くつき、やがて妖精になっても、カルは何も言わなかった。
沈黙が恐ろしくて恐る恐る顔を上げると
「うん、そうだね」
カルは背を向けていた。
空を見上げて、怒った様子もなくいつもの調子で
「早く行かないと本当に日が暮れるね。
行こうか」
ゆっくりと歩き出した。そしてすぐに止まって振り返り
「行こうよ。フィーラ」
笑顔で手を差し伸べた。
「う、うん…」
妖精は、手を取れなかった。曖昧に頷いてそれから少年の隣に飛んでいった。




