廃村に潜る者 3
「突然ごめんね?でも、珍しいものが見えたからさ、話しかけたくなって」
いたのは、浅黒い肌に金の瞳。
カルと同じくらいの、ぼさぼさの黒髪の少年だった。
服装は身軽そうで、きっちりした服の多いここでは少し浮いて見える。
「初めまして。
俺はアングレカム。
長いからアングって呼んでくれよ」
言いながら当たり前のようにカルの隣にどっかりと腰を下ろした。
フィーラは警戒するように、カルの肩まで舞い上がり隠れるように相手を見た。
そんな彼女を、
「すっごいなあ。本当に妖精だ。へえ、まだいたんだな」
物珍しそうに彼はじろじろと観察してくる。
「あんた、名前は?」
「オレ?カルだよ」
「そっか。カルは妖精付きなんだな」
「妖精付き?」
カルが首を傾げれば
「あれ?知らない?妖精は基本的に群れで動くけど、中にはほかの種族とくっついて行動する奴がいるんだよ。
そうして妖精と一緒に行動する奴を、妖精付きって言うんだ。
妖精全体の数は、アネモネの所為で減ってるけど、妖精付きに守られてる奴はまだそれなりにいるらしいぞ。
そうは言っても、珍しいことには変わりないがな」
ペラペラと得意そうに喋りだす。
「それにしても俺、妖精付きの奴初めて見たなあ。
珍しくてつい声かけちゃったよ。
迷惑だった?」
「ううん。そんなことないよ」
「お!いいこと言うねえ!
よーし、友達になろうぜ?
カル、旅人だろ?俺もなんだよ」
馴れ馴れしく肩を組んできても、カルは嫌な顔1つしない。
「右へ左へ。気の向くままに。
旅って楽しいよなあ」
はっはっは、とアングは楽しそうに勝手に喋る。と、ふいに思い出したように笑顔を仕舞う。
「そういえば、カルはマナに詳しい奴探してんのか?」
「盗み聞き?」
フィーラがあまり面白くなさそうな顔になる。
アングはわざとらしく申し訳なさそうに眉を下げた。
「聞こえたんだよ。でも、当たりだろ?」
「うん、できれば、土のマナについて詳しい人を探してるんだ」
「ちょっと、カル」
あまりにも警戒心のない彼に、フィーラはささやく。
「知らない人とあんまりしゃべっちゃだめよ」
「知らなくないよ。
名前知ってるもん」
「そうじゃなくてねえ」
フィーラの言っている意味は、カルにはあまり分かっていない。
そんな彼に、アングは言う。
「それっぽい奴、知ってるぜ」
「本当!?」
くいついたとばかりに、にっとアングは唇を釣り上げる。
「ああ。
この町から半日くらい行ったところに、廃村があってな。
そこには地下にいく階段があるんだけどそこに閉じこもってる奴が、マナに詳しいって聞いたことあるぜ」
「そうなんだ!じゃあ、行ってみないと!」
「それ本気!?」
言うと同時に立ち上がったカルに、フィーラは目を向いた。
「どう考えても、怪しいわよ!
もう少し考えよう!?」
「信じるかどうかは、あんたらに任せるよ」
アングは人の良さそうな顔で言う。
「これは、同じ旅人同士のおせっかいだと思ってくれよ」
「うん!ありがとう!!
行こう、フィーラ!」
カルは手を振って走り出した。
「待ってよ!怪しいってば!」
騒ぐ声が遠ざかるのを聞きながら、アングは笑顔をひっこめる。
「怪しくないよー。
本当かは、分かんないけどね」
そのつぶやきは、誰にも届かなかった。




