魔法 2
「味は感じるんだけどね。
土でできてるからかな?
空腹感がないんだ。あと、痛みも」
驚いて、フィーラは食べるのを止めた。
「なんか、ごめんなさい」
昨日の出来事が思い出されて、フィーラは俯く。
「なんで?
便利だと思うけどなあ。
別に、全部の感覚がなくなったわけじゃないし。
それに」
すっと、顔を近づけ、カルはフィーラの額に口をつけた。
「へ?」
きょとんとする彼女に向かって
「柔らかくてあったかーい!」
果物を放り投げて抱き付いた。
「これが感じられるなら、全然オッケーだよ!」
「なにがよ!?この変態!!」
「あ、戻った」
カルが抱き付いたまま、フィーラに笑いかける。
「なにが戻ったのよ」
「悲しそうな顔、消えたね」
「はあ?」
確かに、先程まで彼女の胸をしめていた重い感情は消えている。
「でも、笑ってくれるともっと良いんだけどなあ」
ぽんっと、少女は妖精に戻る。
ポカンとしているフィーラに、カルは優しく言う。
「確かに、フィーラにしてみればいきなり連れてこられてびっくりすることいっぱいだよね。
オレもさ、いっぺんに色々起きたから今でも信じられないよ。
でもさ」
おちた果物を拾い、土を手で払う。
「妖精の時には1つだってもてなかった物が、2つも持てる。
フィーラを守れるようになった。
腕はとれてもすぐにくっつく。
案外、いいこともあるよ。
フィーラはどう?」
さらさらと、風が彼の髪をなでる。
少しづつ、朝もやが晴れていく。
「どう?って…」
「楽しいこと、おもしろいこと、1つもない?」
きっと、今日はいい天気になるだろう。
「ないなら、オレが作るよ。
フィーラを一杯笑わせて、興味を持たせて、目をキラキラで一杯にする!!
オレがいるよ。
それじゃ、だめかな?」
「ダメなんて…」
真っすぐな瞳。
フィーラはなんとなく俯いてしまった。
うれしくないわけではない。
けれど、何故だろうか。
素直に喜べなかった。
「ダメなんて、言ってないじゃない」
そう答えるだけで精一杯。
それでも、カルはうれしそうに笑ってみせた。
「食べよう」
果物を差し出す。
「おいしいからさ」
「うん」
確かに、果物は、おいしかった。
けれど、最初に食べた時より、少女の口の中ではほんの少し味が変わっているような気がした。




