魔法 1
「ふあーあ、よく寝たあ」
翌朝、フィーラは起きてすぐに大きく伸びをした。
そして
「へくしゅっ」
小さなくしゃみ1つ。
「うー、やっぱり湖の側は冷えるわねえ」
腕をさすりながら、ゆっくりと上に飛んでみる。
昨夜は結局、疲れてそのまま眠ってしまったのだ。
土の上で寝るのは初めてで、体が強張っている。
ほぐすようにゆっくりと腕を回し、もう一度大きく伸びをした。
「…やっぱり、夢じゃなかったんだな」
視界に入る小さな手。
そして背に感じる、はばたく羽。
「まあ、もう今更驚きはしないけどね」
湖の上に飛んでいき、水をすくって顔を洗う。
朝の澄み切った空気で冷やされた水は、肩を縮めるほど冷たかった。
「そういえば、カルはどこに行ったんだろう?」
起きてから今まで、あの少年の姿が見えない。
「散歩かなあ?
まさか、おいて行ったとか?
そんな、裏切られた…!」
1人で妄想を暴走させていると
「誰に裏切られたの?」
後ろから声をかけられた。
振り返れば
「カル!」
両手に1つづつ果物を持った彼が立っていた。
「どこに行ってたのよ」
ふよふよと飛んで行けば
「おはよう、フィーラ」
流れるように、キスされた。
ぽんっと、空気が抜けるような音とともに、人間に戻る妖精。
「ちょ!?なにすんの!?」
「なにって…朝の挨拶」
けろりと返され、少女は赤い顔をそらす。
「あー、やっぱりかわいいなあ」
「見ないでよ、変態!」
「ひどっ!?」
言い合っているうちに、少女は妖精に戻った。
「あ、そうだ。
はい、朝ごはんあげる」
思い出したように、カルは果物を妖精に差し出した。
「とってきてくれたの?」
「うん。おいしいよ」
リンゴに似ているそれを、フィーラは恐る恐るかじってみた。
「おいしい」
リンゴよりも柔らくて、甘い。
始めて食べるものだが、彼女は気に入ってもう一口食べた。
(そういえば、昨日からなんにも食べてなかったわ)
思い出した途端に、お腹が空いてきた。
(どんな時でも、お腹は減るものね)
自分で自分のたくましさに、彼女は妙に納得を覚える。
ふと、顔を上げると
「おいしい?」
ニコニコと、うれしそうにカルは彼女の食べる様子を見ていた。
「カルは食べないの?」
「うん。オレはさっき1つ食べたから。
それに」
「それに?」
「フィーラが喜んでるの見てる方が、楽しい」
「またそんなこと言って。
食べないと後からお腹すくわよ」
少年の体に、果物1つはどう考えても少ないだろう。
もっと食べなさいと彼女が言えば
「お腹空かないから」
あっさりと彼は首を横に振った。




