SS-31-2.
お風呂にも入って、お互いさっぱりした所でベッドに入る。明日はデートだから、ゆっくり休もうと言って二人で横になった。時計を見ればもうすぐ日付けが変わる所だった。眠い? と聞かれ、まだ大丈夫です、と答えればじゃあ日付けが変わるまでは起きてたいねと言ってくれた。
「誕生日だからね。藤花ちゃんの」
「ありがとうございます」
「なんか不思議だね。去年は一緒に過ごせなかったから」
「お忙しかったですから」
「それでも。過ごせば良かった」
カチ、とスマホのデジタル時計の表示が切り替わる。部屋のアナログ時計が綺麗に縦に二つ、長針と短針がそろった。
「お誕生日おめでとう」
律さんが目を閉じ、私の頰を包み込む。暖かい。あぁ、今年は。この人の近くで誕生日を迎えられて幸せだ。
「律さん、ありがとうございます」
「こっちこそありがとう」
「? なぜお礼を?」
「ん。まぁ、そのうちね。横になったばかりだけど、ちょっと待っててね」
ベッドの近くにあった戸棚を開けて、小さな紙袋を差し出される。
「これ……?」
「プレゼント」
「あ、開けても良いですか?」
「どうぞ」
水色の袋の中には、また小さな箱が入っていた。ドキドキしながらそれを取り出し、ラッピングを解く。そして、中に白い箱がまた出てきた。
「あ、あの」
「なに?」
「きっ、緊張で手が震えるのですが」
「そ? 開けてみてよ」
「はい。すぅ、はぁ」
深呼吸してその箱を開く。
「本当はね。迷ったんだ」
律さんが口を開く。
「こういうのは、人を縛る物でもあるし。受け取る側も気を遣うでしょ? だから、ならべくやめようとは思ってたんだ」
箱の中で鎮座するのは、小さなアクセサリー。
「でも。藤花ちゃんが観月のやつを指にしているの見て。何してんのあいつ、って思ったのも事実なわけで」
クリスマスの時に頂いたネックレスと同じ色。そして、石の部分にゆるく動きのあるデザイン。
「我慢がきかなかったっていうのが、理由の一つ」
「……」
「もう一個の理由は」
私がじーっとそれを眺めていると、律さんは箱からそれを取り出し私の右手を取る。
「きっと。藤花ちゃんに似合うと思ったから」
右手の薬指にはめられた、ホワイトゴールドの指輪。キラキラしていて、私の指には勿体ないくらい。お互い向き合って、律さんがその右手の指先に口付けを落とす。
「喜ばれなくても、喜ばれても。やっぱりあげて良かった」
「……り、律さんっ」
「なに?」
「これっ、これ! ありがとうございますっ。すごく嬉しいです」
「良かった」
「私、あの縛られても良いんですっ。律さんにされて嫌だなんて思いません」
「すごい事を言ってるけど、自覚ある?」
「あります! だから、その。私が言いたいのは」
お礼と、歓喜と、そして。
「愛してます」
「……」
「今の私は、気持ちを伝える事しか出来ませんが。その。嬉しくて、私も律さんを愛してるって……!」
いつもよりも。静かに。そして、ゆっくりと。両の掌が頰を包んだ。目を閉じ、呼吸が合わさり絡む。触れ合った唇は、なにかに誓いを立てるような神聖すら感じた。時間にしては数秒、だけど私はいつも以上に長く感じたのだ。
「そういう台詞は、男に格好つけて言わせてよ」
「私だって、格好つけたいです」
「参るね、本当に」
律さんはそう言って私を抱きしめた。指にきらりと光る指輪は静かに光り輝く。
「あのさ。藤花ちゃん」
「はい?」
「引っ越しの事なんだけど」
「はい」
「ちょっと広めの部屋に住もうと思ってる」
「はい。そうなんですね」
「ああ。だから……」
藤花ちゃん一人増えても、大丈夫、だと思うんだ。
「……は」
「契約、来年で切れるんでしょ。だったら、あと一年考えて……」
「ま、待って。それ、どういう」
こんな所で、こんな状態で。なにを言い始めた? それは、つまり。
「藤花ちゃんさえ良ければ、一緒に住もうか」
突然、目玉が飛び出るかと思った。




