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秘密をあばけ  作者: omi
幸せはどこにある編
38/46

SSー28.君に見せばや、我が想い


宣言通り、部屋に連れ込まれたのは言うまでもない。車で迎えに来てくれた律さんは、観月さんに世話になったな、と声をかけた。


『思ったより早かったですね』

『近道してきただけだよ』

『律さん。俺、本当に余計な事は言ってないですよ』

『そうか』

『余計な事をしたのは、むしろ滝沼のご子息かと』


そう言って告げ口した観月さんに、律さんは、あいつか……とぼそりと呟いていた。観月さんに挨拶をして、そうして、二人でお邪魔しました、と家を出る。


私は律さんの車に乗り込んだ。律さんの車は赤い車だった。わぁ。結構目立つカラーだなぁと思った。そして、車を走らせながら、車内は無言、静かである。なにから話すべきか悩んでいると律さんの方から話しかけてくれた。


『必要なもの、ある?』


突然そう問われ、言われた事の意味が分からなくて、首を傾げた。必要なもの……? 生活用品の事だろうか。車だからついでに買い物に寄ってくれるという事だろうか。トイレットペーパーはこの間、買ったばかりだし冷蔵庫にも食料はまだある。ラップは……もう少しでなくなりそうだ。


『女の人って、泊まるなら色々必要じゃない?』

『へ……』

『コンビニ寄る?』


一瞬、なにを言われているか分からなくて。数秒考えてみて、そういう事か! と気付いた。あわあわと慌てていれば、隣で律さんが吹き出した。


『そんな慌てなくても。さっき言ったでしょ。部屋に連れ込みたくなるって』

『でも本当にそうするとは……!』

『会ったらそうなるのは必然的かなって、俺は思っていたけどね。他の男の家に行って、その後、そのままお家に帰すなんて。俺はそこまで心の広い男じゃないし』

『なっ』

『分かってる。羊羹食べて、お茶飲んだだけでしょ? でもね』


赤信号で止まる。そのまま横に流し目で見られた。



『存分に観月の香りがする君を、そのまま帰せると思う?』



そう言われては、なにも言い返せないのであった。そんなに近くにいた訳でもないのに、車、お家とお邪魔して匂いが移ってしまったのだろうか。確かに、観月さんからは柔軟剤の匂いはしていたが。それが移ってしまったのだろうか。


『じゃ、コンビニでいいね?』

『あ……はい』


私が返事を返せば、律さんは満足そうに頷いた。

コンビニに寄って、律さんのお宅に着くと真っ先にお風呂場に連れて行かれた。そして、はい、と。バスタオルを渡された。先に入っちゃって、疲れたでしょ? と言われて確かに疲労困憊であった。私は大人しくバスタオルを受け取りお風呂に入る。

体も頭も洗って、湯船に浸かりながら極楽のひと時を過ごす。


「ふあぁ……」


気持ち良い。緊張と、疲れた体にお風呂は最高だった。熱いお湯に浸かりながら、そういえばドレス着てた時の靴、ヒール高かったなぁと思い出せば、ぴりりと足首に痛みが走った。




「お風呂、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「……あの?」

「ん。やっぱり大きかったかな、その服」


それ、と言われたのは私が着ている律さんのお洋服だ。トレーナーをお借りしたのだけどやっぱり律さんの体は大きくて。袖余るし、丈は太もも半分くらいまでの長さである。ズボンに至ってはずるずるだ。


「ズボンも捲らないとダメだったね?」

「それはもう。はい。お腹周りは紐で留めるタイプで良かったです」

「それはなにより。……ん?」


私のめくったズボンの裾を見て、不思議そうに首を傾げた。


「細く、赤くなってる」

「あぁ、これですか? これは靴擦れですよ。ほらアンクレットストラップ、あれの痕です」

「あぁ。かかとも擦りむけてる」

「靴擦れですね」

「はい、じゃあそこに座って」

「はい?」

「それ。そのままにしとけないでしょ。薬箱持ってくるから」


大人しくしててね、と言われて私はソファに腰掛けた。

しばらくして、茶色の木箱を持って律さんが戻ってきた。久しぶりに見る形状の薬箱。子供の頃に実家にも、同じような物があった。その中から消毒液と脱脂綿とピンセットを取り出す。


「本格的ですね」

「怪我はよくするからね」

「……そう、ですか」

「なにか聞いた?」

「え、いや。その……滝沼さんから、律さんがSPだとは聞きました」

「あいつは昔からお喋りなんだよね」

「その、びっくりしました」

「驚かせたね。でも、ほら。民間企業だし、ボディーガードって言った方が親しみやすいかな。よく映画とかで見るのとはイメージが違うかもね」

「それでも」


ピンセットで脱脂綿を掴む律さんのその手を見つめる。


「怪我はするんでしょ……?」


私の絞り出すような声に目を丸くして、そしてふっと微笑んだ。


「まぁね。でも多くないし、危険な事も少ないから。心配しないで」

「でもっ」

「それより俺は藤花ちゃんの事の方が心配。傷、痛そう」


私はソファに座っており、律さんは床のカーペットに跪いた。その左手で私の足を手に取ると、消毒液に浸った脱脂綿をピンセットで丁寧に掴み、そして。


「いっ」


容赦なくソレを傷口につけられた。しみる、いたい。ちょん、と傷口に何度もつけられて、手当てだとは分かっていても痛い、しみる。


「しみる……っ、律さん、痛いです!」

「我慢して。消毒だから」

「や、いたっ……やだぁ」

「そんな声出さないの。おそろしいな」

「なに言ってんです……かぁ!」

「暴れないの。あとちょっとだから」

「あ、う、んぅ……痛っ」


律さんは眉間にしわを寄せながら、消毒を続ける。眉間にしわを寄せたいのはこっちです……! はい終わり、と。かかとに絆創膏を貼られる。


「い、痛かったけど。ありがとうございます」

「……」

「律さん?」

「他は?」


下から見上げられる。いつもと違うアングルに違和感を覚える。


「他、とは?」

「怪我してないの?」

「靴擦れ以外は大丈夫です」

「そう。良かった。じゃあこれからするのは、手当てじゃないから」

「え」


そう言って、再び足を取られた。


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