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秘密をあばけ  作者: omi
幸せはどこにある編
36/46

SSー26-2.


それは、小ぢんまりとしていたが立派な一軒家だった。二人で住みにはちょうど良いが、三人で住むには狭いくらいの微妙な大きさだった。私がここは何処でしょうと尋ねれば、観月さんが俺の家、と答えたので奥さんは? と尋ねたのは仕方がない話だと思う。


「出て行った」

「え!」

「嘘。いるわけないだろ。いいから上がれば?」

「……タチの悪い冗談は嫌いです」


そう言って、車停めてくるから中入っててと言われ、鍵を渡された。これは一体全体どのような状況なんだろう。

扉を開けて玄関で靴を脱ぎ、左側の扉を開ける。リビングとキッチンが広がっていた。キッチンには必要最低限であろう、フライパン一つだけが置かれていた。食器は見当たらない。おそらくあの戸棚に入っているのだろう。

一人暮らしにしては、大きなお家だ。というか、一人暮らしで一軒家ってなんだ。そうそうない話だ。


「ご実家ですか?」

「いや。一人暮らしだけど」

「そうですか……」

「そんな所で立ってどうしたの? 座れば?」

「あ、はい。じゃあ失礼します」

「ほうじ茶と緑茶。どっちが良い?」

「じゃあ、ほうじ茶で」


観月さんが戸棚から茶筒を出して、きゅぽんって音と共に蓋を開けた。


「ーーどうして一人で帰ろうとしてたわけ?」


特になんの前触れもなく、話の続きを進めてくる。


「言わないとダメですか?」

「言わなくても良いけど、気になるから」

「……」

「で?」

「……観月さんは恋人っています?」


お湯が注がれる音がした。


「ーーいない、が。好きな奴はいる」

「へえぇ。もしかして律さんだったりして」

「……」

「無言にならないで下さい。冗談です」


コトリと机に湯呑みが置かれて、ついでに切り分けた羊羹を出してくれた。あっ、栗が入ってる。


「おほん。それでですね。なんと言ったらいいんでしょう。つまり、その。私は醜い生き物なんですよ」

「なんの話?」

「私の話です。……律さんと山名さんがお付き合いされていた事はご存知です?」

「あぁ。君こそ知ってたんだ」

「ついさっき」


羊羹を黒文字で切り分けて口に運ぶ。とても美味しい。これどこの羊羹だろう。


「驚いたんですよ。あと、嫉妬、したんですよ」

「そう」

「当たり前なんですよ。元恋人がいるだなんて。あんな素敵な人なんです。分かってるんです。でも、それが、こんな身近にいるなんて」


それが、私の、一番引っかかっている原因。


「嫉妬している姿、見られたくなかったんです」

「どうして?」

「どうしてって……そんな醜い顔、見られたくないじゃないですか」


観月さんはほうじ茶をすすった。少し間を置くと、再び口を開く。


「べつに醜いとは思わない」

「嘘ですね」

「嘘じゃない。それだけ好きだという事だろ」


目から鱗だった。そんな事を言われるとは思っていなかった。


「俺は嫉妬を、醜いものだとは思わない」


その一言で私は救われたような気持ちになった。そして彼ーー観月朔という人がどんな人なのか、それが一つ分かった気がした。


「俺はあの人に幸せであって欲しいと思う」

「……なぜ?」

「あの人には恩があるから。幸せでいて欲しいと思う」


そのためには、きっと。君が必要なんだと思う、と。とても苦い顔をして言われた。


「苦い顔しすぎです」

「まだ認めたくないだけ」


なんですかソレ、と。私は観月さんを笑った。


「お話、聞いてくれてありがとうございます。意外に優しいですね!」

「意外は余計だよ。早くそれ食べて。食べ終えたら送ってく」

「むぐ」



ゆっくり味わいたいのに。観月さんももう話す事はないと言わんばかりに、もくもくと食べ始めた。

彼に聞いてみたい事はあった。だけどそれは私にとって恐ろしい内容だった。しかし、今聞かないと後悔するような気がして。こんな事を彼に聞くのは卑怯だと分かっていても、聞かずにはいられなかった。



「観月さん」

「なに?」

「一個聞いても良いですか?」

「答えられる事なら」

「……山名さんは、今でも律さんを好きだと思いますか?」


ぴくりと反応して。観月さんの動きが止まる。そして。


「さぁ。ただ」

「ただ?」

「あの二人の間に、強い絆みたいな物があるのは確かだと思うよ」


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