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秘密をあばけ  作者: omi
幸せはどこにある編
33/46

SSー24.純白の墨入れを汚す女神よ


会場に戻ると、今日の主役は見当たらなかった。まぁ、こう人が多いとなかなか見つけられないものだ。落ち着いて、辺りを見回す。逢引に出かけていない限り、いるはずなのだが。


きょろきょろしてみると……いた。誰かの肩を叩いて、和気藹々と話をしている。随分と笑顔だ。そんなに気を許したような顔で、一体全体、誰とお話しているのか。ちろりと目をやれば、そこにはいつでも一番会いたい人がいた。


「変わってないなぁ……相変わらず、とっつきにくい」

「失礼だね。処世術だよ」

「しかしまぁ、元気そうでなによりだ。雪」


律さんが、主役と話していた。あの二人、知り合いだったのか。いや、仕事関係で知り合いなのかな? にしても、随分と親しげだ。前からの知り合いとか?


「なんだ、雪。彼女とは別れたのか」


なっ……んという、気になるフレーズ。彼女、というのはこの場合、きっと私の事ではないのだろう。昔の彼女かな。そうか……そうだよね。彼女くらいいたよね、昔、の恋人。


「あぁ。知ってるだろ?」

「人伝てに聞いただけだ。でも、今でも仲良いじゃないか」

「友達に戻っただけだ。俺達はそれが良い」

「友達ねぇ」


意味深に呟く主役。私……こんな話を盗み聞きして良いのだろうか。なんだか胸がざわざわとしているのを感じて、両手をぎゅっと握りしめていると。


「おや。君は確か」


咄嗟に目を逸らしたが、彼は私の存在を認知してしまったらしい。

四つの目がこちらを向く。ひぇ。見つかった。主役には見つかっても良かったけど、律さんには見つかりたくなかったのだが。


「また会ったね、お嬢さん」


主役が私にそう話しかけると、律さんは驚くほど普通に、知り合いか? と、主役に話しかけていた。


「あぁ。さっきも会ってね。可愛らしいお嬢さんだろう?」

「あぁ」

「でも恋人がいるみたいだから。ナンパはダメだからな」

「へぇ」

「ほら、お前のところの。なんて言ったかな……月みたいな」

「あぁ、観月?」

「それそれ。そいつの」

「それ嘘だから」

「は?」


律さんは私の隣に歩み寄ると、まるで見せつけるように私の肩を抱いた。そして、憮然と言い放つ。


「どういう経緯かは知らないけど。この子は俺の」

「俺のって……」

「そのままの意味ね。じゃ、婚約挨拶頑張って」



そのまま肩を抱かれて、早足で会場から連れ出される。律さんの歩くスピードが早くて、思わず足がもつれそうになるが、頑張ってそれについていく。メインホールを出て真っ直ぐ、左に曲がって突き当たりをまた右に曲がる。そうしてそこにある扉を開けて、部屋に押し込まれた。なんだなんだと、部屋の中に入れば控え室のような場所だった。


「りっ」

「藤花」

「はいっ」

「ここで、なにしてるのかな?」


距離を詰められて、目の前に律さんが立つ。目が座ってらっしゃいますよ。落ち着いて下さい。


「あの、ですね。少し事情が、ありまして」

「ふぅん。藤花はここにお呼ばれでもしてたわけ?」

「いえ、そうではなくて」

「で、観月が恋人なの?」

「律さん! 話が噛み合ってません!」

「いいよ、そんなの」


ぐいっ、と。腕を引かれて律さんの大きな腕に体を身を包まれる。


「藤花の恋人は俺でしょ。なんで、観月の名前が出てくるわけ?」

「それは、ですね。私が今日の主役に絡まれている所をですね」

「なに、今日の主役って。そんなふざけた奴どこにいるの」


さっき喋ってました! と言いたいのにその綺麗な顔が徐々に迫ってくる。あ、と思った瞬間には唇を塞がれていた。


優しいキスではない。奪われるような、こちらの動きを封じるような、少し強引なものだった。けれど、今の私はそれが嫌だと思えなくて。むしろ、もっと、と思ってしまって。律さんの首に腕を回した。


ぴくり、と。律さんの体が動く。離された唇。律さんの視線が徐々に指先に落ちていき、少し目が細まった。


「これは?」

「あ、それは」

「これも観月?」

「や、あ」


すっ、と。指輪を指から抜かれて近くの机に置かれる。そして、指輪のしていた手のひらにちゅっと口付けを落とされる。


「なんでこんなのしてる?」

「それは……んっ」

「こんなの、まるで藤花が観月の恋人って言ってるみたいだよね」

「そんな事……っ」


唇が、徐々に指先に移動する。指の一本一本に口付けが落とされた。そして、なにを思ったのか突然抱き上げられて近くの机に座らせられる。自然と私と同じか、少し低いくらいに律さんのお顔があって、いつもと違う目線にどきどきする。


「観月の恋人じゃない」


律さんの両手は机についており、私の動きは封じられている。


「俺の、だろ」


手首の内側を強く吸われて、そこに鬱血痕が残されたのだと気付いたら、頰に熱が集まった。前にも律さんにコレをつけられた時も、確か観月さんが関わっていたな。律さんは、ヤキモチ、妬いてくれているのだろうか。人並みに、妬んだりすると言っていた。もし、律さんが今も嫉妬していてくれているなら嬉しい。どきどきする。


「律さん」

「本当に、藤花ちゃんは目が離せないね」

「う……」

「こんな指輪、付けたらダメだからね」

「は、はい!」

「……藤花」


首筋にすりっと寄ってきて、まるで吐息交じりに言葉を紡ぐ。恥ずかしいのか、それともなんなのか。近寄ってきた律さんはとても熱っぽい。


「なんでしょうか?」

「……好き」

「あ、え、は!」

指輪(コレ)は俺から返しておく。だから、藤花ちゃんは気にしないで良いからね」

「え、あ」

「返事」

「はいっ」

「それから、その服」


目線が上から下まで動いていて、服を眺められているなと思った。思わず感想を聞きたくなって、スカートの端を掴み律さんに尋ねた。


「これ。どうです? ちょっとパーティーっぽいです?」

「……」

「律さん?」

「あぁ。すごく可愛い」


あれ、聞き間違いかな。なんか、律さんらしからぬ言葉が……? いつもなら、似合ってるよ、とか、可愛い可愛い、とか。ちょっと嘘っぽく言ってくると思ったのだけど。


「その姿をもうちょっと見てたいけど」

「え!」

「なに?」

「いえいえ!」

「仕事、戻らなきゃ。藤花ちゃんまだ時間ある?」

「はい。今日は一日お休みですから」

「俺も会場内いるし、参加してるなら食事でも食べてゆっくりしててよ。ブュッフェスタイルだから。ローストビーフもあるよ」

「わ、食べたいです」

「それで、帰りは一緒に帰ろうか」

「はい」

「何かあれば声かけてね」


最後に唇にキスをされて、律さんと会場に戻った。ちらりと手首に残された痕を見て、頰が熱くなるのを感じながら私はローストビーフの元へと急いだ。


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