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秘密をあばけ  作者: omi
幸せはどこにある編
31/46

SSー22-2.


そして、律さんのお仕事当日。その日の前日に律さん宅にお泊りしていた私は、朝からその姿を拝むのに成功した。藤花ちゃんが寝ている間に行こうとしたのに、と。苦笑まじりに言われて、そんな事はさせません、目に焼き付けますと言葉を返した。


『すごく似合ってますよ』

『そう? だとしたら藤花ちゃんのセンスが良かったのかな』

『とんでもないです。そして眼福です。行ってらっしゃいませ』


私が玄関まで見送ると、律さんは可笑しそうに笑いながらすかさず目元にキスを落としてきて。行ってきますと言って出て行った。……本当に私のツボを押さえている。


それから時間にして約三十分後。準備をして、そろそろ律さんのお家を出ようと立ち上がる。机に置かれた鍵を見て、顔がにやけた。合鍵、預かっちゃった。その事実だけで幸福に満たされる辺り、我ながら単純だなぁと思う。

そんな事を考えていると、机の上のスマホが震えた。着信だった。


『律さん?』

『あ、繋がった。藤花ちゃんまだ俺の家にいる?』

『あ、はい。今、出ようとしたところでしたが』

『あのさ、悪いんだけど……』


そう言って律さんは、仕事場にネクタイピンを持って来て欲しいとお願いしてきた。あれ? と思って見回せばいつもの小物置き場に私のあげたネクタイピンが、確かにあった。どうやらお忘れになったようだ。


『お願い出来る?』

『良いですよ。どちらに……』


そうして、私が律さんの仕事会場にネクタイピンを届ける事になったのだ。会場はそんなに遠くなく、律さんが言った時間には間に合いそうだった。


会場の近くに着いたら連絡して、と言われたので会場周辺で律さんに連絡を取る。すると、ちょっと待っててと返事が返ってきた。待つ事数分。


例のスーツを着た律さんがこちらに走って来た。どうやら打ち合わせ中に抜けて来たらしく、すぐに戻らなければならないらしい。私はすぐさまネクタイピンを渡した。


『こんな所まで悪かったね』

『今日、お休みですから。大丈夫です。気にしないで下さい』

『ん。慌ただしくてごめん。行くね』


そうして、遠く離れる背中を見つめた。律さん、こんな大きな会場でどんなお仕事するんだろう。取引先に挨拶とか? あんなにかっこいい格好をした律さんだ。きっと女性はときめくだろうな……。私はくるりと踵を返す。そして、それがいけなかった。


『きゃ……』

『わっ』


まさか、そこにスレンダー美女がいるだなんで思っていなかった。尻餅こそついていないが、よろけてしまったようで私は慌てて謝った。


『ごめんなさいっ、大丈夫ですか?』

『ええ。平気よ。……あら』

『はい?』

『いいえ、なんでもないわ。それより、貴女』


がしっ、と。手を掴まれて。


『ちょっとお話しない?』

『はい?』


以上、これが美女との出会いまでの回想である。舞台は再び現在に戻る。


「あのー。何故このような格好を……」

「あら。だって、このパーティーはドレスコード必須だもの」

「そうですか……いやいや! 私、やるなんて言ってないですよ!?」

「でも、雪の事は気になるんでしょ?」

「それは……はい」

「あいつの仕事姿が見たいっていう貴女の願いが叶って、私は貴女という人手が増えて。万々歳じゃない?」

「ん……そうですが」

「危ない事にならないよう、私は近くにいるようにするから。だから、ね?」


そうお願いされると、弱いのである。しかも、この人律さんと同じ会社の人だと言うではないか。茶色の髪はお団子に束ねていて、姿勢はすごく良い。綺麗。こんな人にお願いされたら、皆コロリといってしまうのではないか。


「んー……わかりました。でも、私はこの服を着てなにをすればいいですか?」

「助かるわ! それを着て、会場に潜り込んで、この写真の男が会場からいなくならないように、見張って欲しいの」

「潜り込む……?」

「あっ、参加ね。参加。その男はね、今回のパーティーの主役なんだけど」

「主役?」

「婚約お披露目パーティーね。その主役なんだけど、なんか婚約者とは別の女と逢引しようとしてるらしくて」

「逢引!」

「そう。その男が会場からいなくならないように見張りたいの。まぁ、これはオマケみたいな仕事内容なんだけど……」

「?」

「それでも、頼まれたからにはやるしかないから。ね、お願い出来る?」


本当に人手不足なのか、頼み込んでくる姿に邪なものは感じない。天秤にかける。律さんの仕事っぷりを見る事。そして、この人の仕事を手伝う事。律さんがなんの仕事をしているか、私は知らないけれど。天秤はやはり律さんに傾いた。


「一個だけ聞いて良いですか?」

「なに?」

「どうして私に声をかけて下さったんですか?」


私の問いに、彼女はにこりと美しく笑って。


「貴女が、雪の、恋人かなって思ったからよ」


それはどういう意味なのか。

いつから思っていたのだろうか。はじめからなのか、温泉旅行の時なのか、はたまた今日気付かれたのか。そして、どうして律さんの恋人だから頼むのか。謎は沢山あったけど、私はそうですか、と言葉を返して頼まれ事を引き受けたのであった。


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