SSー18.幸運の証よ、その葉を数えておくれ
「律さんとは長いの?」
その一言には様々な感情が混じっていたように思う。疑問とか、悲しみ、とか、嬉しさ、とか。でもその一言に何故そんな物が混じっていたのか。それを考えてみても、私には一つの答えしか見出せない。
「一年くらいお付き合いしてます」
「そう、一年か」
静かにコトリとコップを置く。
「長いようで短いね」
私は、試されているのだろうか。
どうしてこんな事になったのかというと、二度ある事は三度あるんですよ。
もうすぐバレンタイン。そろそろチョコレートを買いに行こうとショッピングモールに繰り出した。バレンタインの季節になると、そこではチョコレートフェアがやっていて、なにか美味しい物がないか探しに行ったのである。これには、ちょっとした理由がある。
昨年、律さんにあげたのは購入したチョコレートだった。それで律さんに、買ったんだ? と、どう取ったら良いか分からない問いかけをされたのだ。その時はチョコレートを渡すのはマズかったのだろうか、嫌いだった? それとも迷惑だった? でも付き合っているし……とか。色々考えたものだけれど。結局、その答えはこの間判明した。
『今年も買うの?』
『その予定です。ほら、バレンタインフェアで売ってるチョコレートって美味しいですし』
『ふぅん。美味しいけどさ』
突然、頬杖をつきながら私の顔を見上げてきた。
『俺は藤花ちゃんのケーキが食べたい』
『私の……手作りって事ですか!』
『そう。去年も手作り食べたかったけど、せっかく買ってきてくれた藤花ちゃんの気持ちも大切にしたかったし。……だからってわけじゃないけど、今年は手作りが食べたいな』
それはお願いじゃなくて、決定事項だったように思う。しかし、私のケーキなんて美味しいわけでなく……こう人並みというか。本当に、少ない材料で何処まで美味しく出来るか挑戦してるみたいな所あるし。律さんに食べてもらえるようなものが作れるか怪しいものである。
というわけで。
失敗した時の保険でこうしてチョコレートを買いに来たわけではあるが。どうしてこうなったのか。自分でもわからない。
どうして観月さんとお茶する羽目になったのか、わかる方がいたら挙手を願う。
「他人の恋愛に口出す気はないけど。ただ、律さんが君と付き合っているのは、どうしてだろうって」
「どうして、って」
「律さんなら選び放題なのに。どうして君だったんだろうかって。純粋な興味」
「それは、私が律さんを好きだからですよ」
それ以外に理由がない。
「私が律さんを好きで。律さんもそれに応えてくれた。そういう事です」
「そう、それ」
「え?」
「律さんは君を好きじゃなさそうなのに、付き合ってるのは理由があるのかと思って」
「……」
図星を突かれたような気がした。いや、図星だなんて思わない。だってあの時、約束した。
「好きじゃないなら付き合わないですよ」
「本当に?」
本当だ。だって、約束した。私を好きじゃないならフッて下さいとお願いした。それは、これから先もそうだ、と。約束したのだ。だから、律さんの気持ちは疑わない。嫌われていない。嫌われていない?
それはおかしな言い回しだ。私は嫌われていない、律さんは私を好きでいてくれる、こうであるべきだ。
だけどもし。律さんは私を嫌ってはいない、だけど好きでもない、けれど付き合っている。これならば。私はどうすべきなのだろう。
「本当に律さんは君の事が好きなの?」
「それは、貴方に関係ない」
「そう。でも君とはよく会うから気になって。あぁ……ごめん。泣かないで」
「泣いてませんよっ」
「そう? 答えが分かったらぜひ聞かせて。俺が聞くとあの人良い顔しないから」
にこりと笑っていたけれど、目は全然笑っていなかった。あぁ、そうか。これはあれだ。つまり。
「観月さんは、律さんの事が大好きなんですね」
「突然、なに?」
「だって、そうじゃなきゃこんな風に私になにかを言いに来たりしないでしょ?」
律さんの事を心配しているが故の、結果。分かりにくい愛情表現。
「私は律さんをちゃんと好きですよ。それに、律さんはきっと」
秘密は多くても。
「私に嘘はつかないと思うから」
もうすぐバレンタイン。私は自分の想いを彼に伝えようと一つの決意をした。




