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秘密をあばけ  作者: omi
行く先は神に任せた編
18/46

SS-13.燃えた百の果実を食べた?


会おうと思った。律さんに会いたくて、自ら電話をかける。何コールかして、律さんが電話に出た。会いたいと強く思っているせいか、声を聞けただけで苦しいくらいに、胸が締め付けられた。


「会いたいです」


第一声がそれだったせいか、律さんが電話の向こう側で息を呑む音が聞こえた。今どこ、と聞かれてもうすぐ自宅の最寄り駅の一つ手前の駅ですと伝える。すると、そこで降りてと言われ首を傾げつつも、そこで降りる。今から俺が言った通りに進んで、と。駅を出て電話越しに言われた通りに歩みを進めた。徒歩にして五分ほど。わりと大きめなマンションが見えてきた。


「なんだか大きなマンションに着きました」

「中入って待ってて。オートロックだから、その手前で」


すぐ行く、と言われて待つ事十分。自動ドアの開く音と共に現れたのは、少し着崩れた律さんだった。


「りっ」

「来て」

「は」


そのまま解錠されて、エレベーターに乗り込み九階へ。その中の一室の鍵を開けると、私を中に通した。そして。


「どうしたの」


と聞かれながら、力一杯抱きしめられる。


「りつさ」

「ちょっと黙って」


そちらから聞いてきたのに! 理不尽な切り返しに反論を試みるがそれは無駄に終わる。その柔らかで強引な口付けで黙らせられる。ふわふわ暖かくて、苦しい。幸せなのに、苦しいだなんて変わってる。おかしい。


「りっ、さ」

「はっ」

「んぅ……!」


お互いに、会えなかった時間を埋めるように重ね合った。もし、律さんも会えない分寂しいと感じていてくれたなら嬉しい。存分にお互いを確かめ合ってから、唇を離す。そして律さんに手を引かれて中へと入った。


「はぁ……」


ため息をつかれて、びくりと肩が上がる。すると、お茶淹れるから座ってと。ソファ席に誘導された。


「ええと」

「あぁ。手洗いうがい? 洗面所はそこ出て左ね」

「あ、はい」


そうではないのだが。

とりあえず手洗いうがいを済ませて、再びリビングに戻ってくると、すでに温かな紅茶を淹れてくれていた。ミルクや砂糖は? と聞かれたのでストレートでと答える。


「ずっと会えなくて悪かったね。大丈夫だった?」

「? ……はい」

「何か変わった事でもあった?」


優しい声で問われる。あぁ、どうしたら良いんだろう。まず、何から言えば良いんだろう。会えたら言いたい事、聞きたい事、沢山あるのに。


「律さんの、お家。初めて来ました」

「そうだね。あまり片付いてないけど」

「会いたいって電話に応えてくれて嬉しかったです」

「……当然でしょ」

「律さん」


名前を呼ぶだけで、苦しい思いがこみ上げる。どうしてこんなにも、胸が締め付けられるのだろう。渇きは、どうしたら満たされるのだろう。



「藤花ちゃん。ちょっとオデコ……」

「やっ」

「やっ、て……」


目の前がゆらゆら歪む。あれ、なんだろうこれ。頰に何かが流れてゆくのを感じる。それがなんなのか、いまいち分からないまま、私は思った事をそのまま口走っていた。


「律さんは、どうしてキスばっかりするんですか!」

「は……」


我ながら、ストレート過ぎただろうか。でもしょうがない。ずっと気になっていたんだもの。


「キスは、暖かくて、気持ち良いから良いですが……それだけで、なんで、いつも、やめちゃうんですか!」

「藤花ちゃん? ちょっと落ち着きなさい。ほら紅茶飲んで」

「逸らさないで下さい!」


律さんの頰を手で挟んで、その瞳を見つめる。綺麗で、優しくて、ずっと見ていたいその瞳。


「この前だって、会いたい話になったら、逸らすし!」

「とう」

「キスしかしないし!」

「あのね」

「私はそんなに! 律さんにとって、魅力、ないですか……」

「ーー」


言いたい事を言って俯くと、頭上からため息が聞こえた。やってしまった。こんな面倒な事を言って、律さんを困らせたくないのに。でも、言わずにいられなくて。やっぱりどうしても、この人の心を知りたくて。


「藤花」


名前を呼ばれただけで、舞い上がってしまう。


「えーーん!」

「そうやって、男を籠絡するなって言ったでしょ。忘れた?」


今度は律さんの両手が私の頰を挟んで、奪うように口付けが降ってくる。触れては僅かに離れ、再び深く重なる。その熱に律さんの腕を反射的にぎゅっと握れば、それが合図かのように僅かな隙間から舌が絡んでくる。熱くて、柔らかくて、気が遠くなりそうだ。


「はっ、」

「藤花が言ってるのは」


とさっ、と。ソファに倒される。律さんが上で、私が下になっている。


「ここから先もして欲しいって事?」


どろりと内側から何かが溢れた気がした。その感情を、気持ちを、人は何て呼ぶのだろう。


「は、い」

「良いよ。してあげる。でも」


律さんの顔が近付いてきて。その吐息が首筋にかかる。そして、その低くて色のある声音で囁かれた。


「正気の時にね」

「正気……?」

「風邪かな? 熱あるでしょ?」

「熱……? ないですよ」

「気付いてないの? 舌、すっごく熱い」


ひぇ。何言い出すんだこの人。


「だから、風邪が治ったらね。俺も万全じゃないし」

「万全じゃない?」

「ほら」


律さんが右手を挙げて、それを見せる。包帯巻いてる。


「それ、どうして」

「ちょっと仕事でミス。だから、最近はずっとデスクワークでね。藤花ちゃんに心配かけたくなかったから、会わないようにしてたけど逆効果だったね」


その言葉を聞いて、膨らんでいた気持ちがいきなりシューっと萎んだような気がした。律さんの手、包帯ぐるぐる、いたいのかな。


「いたい、ですか?」

「いや。もうそろそろ完治するところ。大丈夫……だから、そんな顔しないの」


私はどんな顔をしていたのだろう。律さんが、ちょっと困った顔をして私の頭をぽんぽんと叩いた。私の風邪なんて、熱なんて、大した事ないけど。律さんのソレはきっと大怪我で、自分がいかに勝手な事を言っていたのか反省した。


「ベッド、連れて行くからね。今日はゆっくりお休み。明日また話そう」


ふわりと浮上した感覚に、体を委ねながら律さんの匂いに包まれて安心して目を閉じた。


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