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秘密をあばけ  作者: omi
行く先は神に任せた編
17/46

SSー12.純白の糸巻きを紫に染めて


その後ろ姿を見つめると、どうしても抱きつきたくなる。笑った顔を見ると、どうしても愛しさで溢れてしまう。この一年、律さんの事を見てきた。彼を見ていると穏やかな気持ちになるどころか、気持ちは荒れるばかりだった。いや、荒れるとはちょっと違うか。気持ちは溢れて止まらない、激情のような思いが私を覆っている。この渇きはどうやったら癒えるのだろうか。


「大丈夫?」


そうやって助けられたのは、二度目だ。


「さ……観月さん」

「ははっ。学んだね。壁を一枚感じるよ」

「どうしたんですか?」

「とてもナンセンスな質問だね。それでも律さんの彼女かい?」


隠す事なく直球できた。やっぱり気付いていたんだ。私が律さんの彼女だって。とんでもない猫かぶりだったんだなと思いながらも、その性格が隠されるよりはマシか、と感じる。


「えーと、では。なんでここにいるんですか?」

「不合格。その質問もこの場に適してないね」


なんなんだ、この人は。黙って立っていれば多少見てくれは良いものの。観月さんは私に向かって手を挙げた。なに、挙手? 恥ずかしい、目立つじゃないか。なんだっていうんだ。観月さんの手の平に収まっている物を見つめる。

どこかで見たような箱、ラッピング。


「大事な物を落とした子に、手を差し伸べに来たってところかな」

「ーー!」


驚いて鞄を探ると、ない。私があの日律さんに渡しそびれてしまったもの。つまり、クリスマスプレゼントだ。


「年も明けたというのに、後生大事に持ち歩いているの? 渡してないのかい?」

「な、なんで!」

「買い物してる時に、ぽろっと落としてたよ。気をつけないと」


あの日、結局、律さんは朝早くに帰ってしまったので、渡しそびれてしまったのだ。それからどのタイミングでも渡せるように、ずっと鞄に入れていた。


「ありがとうございます。助かりました」


お礼を言って私が手を伸ばすと、ん? と首を傾げられる。私もそれに倣って首を傾げる。


「あのプレゼントを……」

「あぁ。返して欲しい? そうだなあ……」


観月さんはニコリと笑って、私に言った。


「そんな簡単に返すと思う?」

「なっ。私のですよっ」

「拾ったのは俺だよ」

「それは! ありがとうございます! でも!」


両手を差し出して、強めに言ってしまう。


「私のです」

「へぇ。案外、気弱な子というわけでもなさそうだね。あのさ。律さんに最近会った?」

「最近……は。会ってないですが」

「だよね。これ、渡してないくらいだもんね?」

「何が……言いたいのでしょうか」

「君さ、律さんの彼女なんだよね?」

「そうですよ」

「だったら、律さんの今の状況、ちゃんと知っといた方がいいんじゃない?」


ガツンと、頭を叩かれた気分だった。痛い。

私だって律さんに会いたいのは山々だ。メッセージのやり取りはしている、電話も時々。ただ、会えていない。私と律さんの休みが被らないから? お互い忙しいから?

振り返ってみる。違う、そうじゃない。

会う話になると、途端に話が逸れるからだ。


「どうして……」

「ーーだからさ、って。泣かないでよ、俺が泣かしたみたいじゃん」

「泣いてないですよ」

「鼻水出しながら言っても説得力ない。えーと、あ、これ」


そう言って差し出されたのは一枚のハンカチ。あれ、意地悪かと思ったら意外に親切。


「それ、律さんのハンカチだから。使って良いと思うよ。ついでに返しておいて」

「な、なんであなたが持ってるの……?」

「さて。なんででしょう。細かい事考えるんだったら、律さん本人に聞けば良いんだよ」


青地に小さなドットの入ったハンカチ。律さんに似合う色。遠慮などせずに、それで目尻を拭いた。


「それ、託したからね。あーあ、こんな事、するつもりなかったのに」

「う、うん……? ありがとう?」

「なんで、疑問系なわけ? じゃあ俺、行くから」


去り際に、そういえば。と。こちらを振り返り疑問を投げかけられる。


「何で、観月って呼ぶの? 前は朔って呼んでいたのに」

「だって」

「なに?」

「朔さんって呼んでいたのは……貴方が、朔、としか名乗らなかったから。そう呼ぶしかなかったんじゃない。それに、朔って呼ぶと律さんが」

「なに?」

「すぐに観月でしょって訂正するから、観月さんで良いかなと」

「あ、そう」


じゃあね、と。観月さんは去って行った。


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