SSー11-2.
「ひっ」
「どうせ、観月がテキトーな事言ってると思ったけど。藤花ちゃんよそよそしいし。何かあったと思うでしょ。だからさ」
話して、と。耳元で囁かれた。あぁ、ダメだ。こんなの、まるで甘いお菓子だ。欲するのを止められない。
「ちがうんです……私が、律さんを見かけてしまって。その」
「見かけた? どこで?」
「あの、可成町の三九デパートの近く」
「ーーもしかして、俺、女性といた?」
「……はい」
「……そう。見られてた、か」
「ごめんなさい。その見るつもりはなかったのですが。見てしまって、その後、ちょっとこう目眩がですね。してしまった所を朔さんに助けて頂いたんです」
「え?」
「あ、倒れてないです。大丈夫です。それで一緒に喫茶店で休んで」
「は?」
「それで、私が律さんのか、彼女って朔さんに言って良いかわからなくて」
「良いに決まってるでしょ」
「はいっ。それで、誤魔化してしまった事が律さんに伝わってしまったのだと……」
一部始終をしどろもどろになりながら伝えた。律さんは、んー、と。考えあぐねるように唸った後、まず、と一声を放った。
「目眩って言ってたけど、気分は大丈夫なの?」
「はい。ちょっと人酔い、というか」
「そう。良かった。じゃあ、二つ目」
「はい」
「観月は俺の職場の後輩。藤花ちゃんの事、隠してるつもりないから、また会ったら堂々と名乗りなさい」
「はい……」
「それからあの女性だけど」
無意識に、びくりと肩が動いてしまった。それを律さんが優しくぽんぽんと肩を叩いてくれる。安心する。
「仕事仲間、だから」
「……本当ですか?」
「こんな事で嘘はつかない」
律さんの方を向く。そうだ。この人は、きっと私が傷つく嘘はつかない。からかったり、反応見て楽しんだり、掴めない所も多いけど。それでも、彼は私と真摯に向き合おうとしてくれている。
「信じます。律さん」
彼は何も答えず、私も他に言葉はなかった。
数秒、間があって。目が合うと、どちらからともなく唇を重ねる。聖夜だからというわけではないけれど、まるで神聖な儀式のように感じた。重ねた唇は段々と熱を持ち始め、やがて互いに求めるようなモノに変わっていく。
体が、心が、貴方を求めてやまない。
「うぅ、ふぅ」
ただただ、深くなる口付けについていく事しか出来ない。こんなにも、満たされているのに苦しい。自分の皮一枚でさえ、隔てている感覚に狂おしいほどのもどかしさを感じる。
律さんが足りない。
「りっ……」
「はい、そろそろ寝る準備に取り掛かろうか。明日の朝までは一緒にいられるから」
「……は」
「お風呂、お先にどうぞ。俺は少し休むね」
ぺいっと。お風呂場に押しやられて、パタンと扉が閉まった。な、なにが起きたんだ。え、え。なんで。
いつも、なんだか、こう……雰囲気になると、どうして律さんはやめてしまうんだろう。なんで、どうして。
閉められた扉を見つめながら、見えない律さんの気持ちに少しの不安が残った。




