SSー9.美しき青き花冠
暖かいものに包まれていた。安心するぬくもり。ホッとする。これは、誰のぬくもり?
「目が覚めた?」
「は……」
目の前にとても綺麗なお顔があった。あれ、うちに彫刻なんてあったっけ? しかも超イケメン。
「まだ寝ぼけてる?」
「あ、えぇ?え!」
「あ、覚醒した?」
「な、な、なんでですか!」
「なにが?」
「なん、いっしょ、ベッド……!」
「慌てないの。ゆっくり深呼吸」
その長い指が私の頰を撫でる。ひぃ。何故、どうして、律さんが私の部屋にいるの!
「そして、なんで同じベッド!?」
「藤花ちゃんが離してくれなかったから。帰さないって」
「嘘!」
「嘘じゃないって。覚えてないの? 昨日あんなに酔って、俺を君の部屋に連れ込んだでしょ。で、離さないし勝手に寝ちゃうから俺も一緒のベッドで寝たわけなんだけど」
一部始終を丁寧に説明してくれた。あぁぁ、なんて失態……! 申し訳が立たない!
「す、すみません」
「謝る事じゃないでしょ。でも、自分の限界くらい把握しとくことだね」
「う……はい」
「よろしい。朝ごはんにしようか」
そう言ってベッドから抜けた律さんは、上半身になにも纏っていなかった。
「ぎゃ!」
「今度はなに?」
「あ、や、その。服が」
「? あぁ、着てないって? そりゃ寝巻きの準備なんてなかったからね。ワイシャツ皺になるし」
そう言われて、確かにと納得する。と、同時に自分の体を見た。き、着てる。
「なーに? 百面相」
「いえその。ちゃんと、服、着てるんだなと思っただけで……」
「ふぅん? 何かされたと思った?」
「そ、そんな風には思ってはいませんが」
「寝てる子に手を出すほど腐ってないし。それに、藤花ちゃんだしね」
「それは……」
一体全体、どういうこと。
「っと。こんな時間か。ごめん、朝ごはん一緒にと思ったけど時間切れ」
「お仕事ですか?」
「ん。ま、そんなところ。慌ただしくてごめん」
「いえいえ。だって、クリスマスの夜、一緒にいられるんですから」
それがあれば私は当分生きていける。
「だから大丈夫です」
「あぁ。あんまり遅くならないように、会いに行くよ」
「はい」
扉の向こうに消えてゆく姿を眺めた。律さんはいつだって、真意が読めない。さっきの言葉だってどういう意味で言ったんだろう。頭の中でぐるぐる考えながら、やっぱり謎だらけの恋人の秘密はなかなか暴けないでいた。




