SSー8-2.
「飲むペース早いけど大丈夫? ほらコレ食べなよ。美味しいよ」
「もぐ……あ、これタレと合いますね。ごくん」
「ん。ほら、コレもどうぞ」
ぱくぱく、もぐもぐ。ごくごく。
美味しい……めちゃくちゃ進む。食べながら、飲みながら、律さんは最近見たテレビの話をしてる。へぇ、律さんでもテレビ見るんだ。しかもバラエティ。意外。あ、私もそれ見たなこの間。クリスマス特集してた。そっか、クリスマスも近いんだ。クリスマスは一緒にいられるかな。
「クリスマス? あぁ、仕事だけど」
「む」
「でも、仕事終わりなら会えるかな」
「ほんとですか!」
「ん。次の日はお休み取れる?」
「次の日? 二十六日ですか?」
「あぁ……うん、そう」
「えーと、あ、はい。取ろうと思えば」
「そう。じゃあ遅くなっても大丈夫かな」
「どういう……?」
「時間の話。それはそうと。大分顔が赤い。もう止めときなさい」
「やっ……ダメです。だってまだ」
「まだ、なに?」
「律さん……飲んでる」
「そりゃご飯が美味しいからね。飲むよ」
「なら私も」
「ダメ」
律さんに透明な液体が入ったガラスコップを渡される。
「加減を知らずに飲むのは頂けない」
「う……」
「ほら。ここ、ノンアルコールカクテルあるから。これも美味しそうじゃない?」
「っ、ダメ」
思わず、大きな声が出た。
「だって、まだ勝負がついてないっ」
「勝負……? あぁ」
「律さんに勝って、律さんに聞きたいこと、沢山あるんだから……!」
私がそう言うと、向こう側からため息が聞こえた。自分の肩がびくりと動く。
呆れ、させた?
こんな無茶な飲み方して、たくさん食べて、呆れさせた?
思わず、唇を噛む。気を抜くと目の前がゆらゆらと滲んでゆく。どうしよう……。
「まったく。一人で突っ走らない」
「ーーうぅ」
「考えてる事ダダ漏れだからね。呆れてないし、むしろそこまで突っ走らせた俺も悪いし」
「ーーっ」
「あーもう。ほら」
律さんは潤んだ目にハンカチを押し当ててくれる。ますます止まらない。
「泣き上戸なのかな、藤花ちゃんは」
「そ、そんな事は」
「……これは他所で酒なんか飲ませられないな」
いつのまにか隣に来ていた律さんに優しく涙を拭われる。
「律、さん」
「なーに?」
「律さんの事、もっと知りたいです」
「……」
「歳も、住んでる所も、なにかんがえてるのかも。しりたくて、無茶して、ごめんなさい」
「ん」
「律さん。ごはん、美味しいです」
「うん」
「お酒も美味しいです」
「ん」
「この間のテレビ、わたしも見ました」
「そう」
「もっと律さんとはなしたいです」
「そうだね」
「律さんが、好き」
途端に唇を塞がれる。何故。
ぴたりと重なって、こすり合わせるように少し離れてはくっつく。律さんが飲んでいたお酒の味がして、舌が、暖かくて、口を開いてしまう。
「んんぅ、ふ」
暖かいこの腕も、唇も、今は全部私のものだ。
「……はっ」
「律さん……暖かいの、もっと」
「ほんっと、酔っ払いって手に負えないね。いいよ、俺の負けで。飲み比べの報酬あげる」
ぼそりと呟かれたその答えに、私は目を見開く。
「律さん……若く見えるって言われません?」
「誰が若作りだって? 余計なお世話。昔から童顔なの」
「ふふ。でも、年上ってなんだかドキドキします」
「またそういう事を言う。ほら、水飲んで。あぁそれから」
耳元で囁く。
「次こんな事になったらタダじゃおかないからね」
物騒な事を言われながら、私は夢の中へと誘われていった。




