前は明るい曲が好きだった。今は暗い曲が好きになった。
幼い頃は明るい曲が好きだった。
聞くだけで楽しくなれる………そんな曲しか好きになれなかった。
小学生や中学生というのは頭の中に何も詰まっていない若造だ。
苦労と言える苦労も、努力という努力もしてこなかった。
歌詞なんてものについて深く考えず、ただ曲調のみで好きと嫌いが分かれていた。
だから、頭の中に何も詰まっていなかった自分は、“頭の中を空っぽにして楽しめる曲“しか好きになれなかったのだと今は思う。
高校生になって、多少は考える事を覚えた。
初めて好きになった歌手は、涼やかな歌声で穏やかな歌を歌う。そんな歌手だった。
自身で作詞作曲歌唱の3つを担当した曲が何個もあり、その歌詞がとても心に響くものばかりで、私の背中を静かに押してくれた。
ある程度大きくなって、苦労も悩みも増え始めた私は“歌詞に励まされる歌”を好きになり、求めていた。
大学受験に失敗した。
浪人してみたが頑張れない自分がいた。
そんな今の私は、暗い曲が好きになった。
暗い曲を好きになったのは何でだろう?
自分の不幸を共有してくれる気がしたから。自分よりも不幸な境遇を聞くと相対的に幸せになれると思ったから。
これを書いているのは12月。
受験が近づくにつれ、明るい曲が聴けなくなった自分がいる。
頭を空っぽにしたいのに、出来なかった。
本当は10月の段階で受験は諦めていた。
幸せになれないかもしれないが、就職という逃げの選択を選びたかった。
でも、センター試験に近づくに連れ、胃が痛くなっていった。
11月はちっとも勉強なんてしてなくて、こんなんじゃ受からないと理解もしていて、だから早く諦めたくて、それでも「頑張って」と「あなたなら出来る」と無責任に言ってくる母親に“受験なんてしたくない”とは言えなくて。
そんな自分は楽しい曲で楽しさを共有できないから、楽しもうと思えば思うほど辛くなる自分がいるから。
だから、楽しい曲が聴けなくなっていった。
私は暗い曲が好きだ。楽しさでは誤魔化せない“私の辛さ”を唯一“他人の辛さ”だけが誤魔化してくれるから。
だから私は暗い曲が好きだ。
私みたいになるなよ