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少女は彷徨う者たちを誘い導く  作者: ずんぐい
序章 はじめて
2/3

ここから―――(2)

まだまだこれからだってのに更新遅くてすいません、、、

一瞬、春樹は自分が何をしたのか、何をしてしまったのかが、分からなくなった。

否、理解することを本能的に拒んだ。


なにせ、自分の力じゃ絶対に敵うはずのない人に、全力のパンチを喰らわせてしまったのだから。


何が「邪魔だ。」だよ!


こんな事したら、半殺しなんて生ぬるい、下手したら殺される!


なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで、俺はこんなことをしてしまったんだ!誰にも見られず一対一でタイマン張るならともかく、クラスの中心で、しかも麻美もいるところで!


これで、これでもし、麻美まで巻き込まれるようなことがあったら!


春樹は切れかかっていた頭のスイッチを無理矢理起こして、今できる最善の行動を探すためにフル稼働させた。何が最善で、何が最悪なのか、どう動けば最善につながるのか、どう動いたら最悪につながるのか―――――


もし、このまま何もしなかったら一体どうなってしまうのだろう――――


しかし、春樹がそうして後悔したときにはもう、遅かった――――




殴られた将来は以外にもバランスを崩して後ろの机に後頭部をぶつけながら倒れ込み、痛みのあまり思わず声を漏らす。


「あ゛あ゛!くそがぁ!」


そう言って腕に力を入れ、必死に立ち上がろうとするが、頭を強打したせいか上手く立ち上がれず、まるで生まれたての小鹿の様な有様になり、当然、戦うどころか、脳を平常に働かせることすら困難な状態だった。


その将来の無様な状態を目の前にした春樹は一瞬で頭の中が真っ白になり、思わず後ずさるが、さっきと同じ様に椅子の足に引っ掛かって尻もちをつきながら盛大に転んだ。そして息を荒げ、張り詰めた空気に戸惑いながらも、すぐそばに立っている麻美の方へ顔を向ける。




麻美と目が合う。




目を―――――逸らされた。




瞬間、春樹の頬を一滴の汗が流れる。それは焦りと緊張のせいか、はたまた――――


春樹は動揺を汗と共に拭い去り、無理矢理にでも平常な状態を保とうと努力した。

でもどうしても、麻美の「あの」顔が頭から離れない。


蔑む様で、見下す様で、嘲笑う様で、呆れる様で、見放すような麻美の冷たく美しい瞳に、瞳に新たな意味を生み出す細く美しく伸びた眉、そして何か言いたげに噛まれる下唇は赤色が白色に変色している。


春樹は麻美が今まででこんな悲しい顔をしていたところを見たことがない。というより、今まで麻美の喜ぶ顔しか見た事なく、こんな悲しい顔をすることすら知らず、それ自体が驚くべきことだった。だから、とても新鮮でそのせいか、麻美の顔から視線を逸らすことが出来ず、視線を逸らされていることに気付いていながらもまじまじと眺めてしまった


そんな間にも麻美の瞳はどんどんと信用を疑う様に鈍い光を強くさせていくというのに。そしてクラス中の視線も―――


春樹はふと我に返り、ゆっくりと将来の方へと体を向き直させる。当然そこにも、将来のことを気遣う数名のクラスメートが居て、その「ほとんど」がいつも下っ端としてパシリにさせられている男子生徒で、残りのごく少数(一人)は、どんな邪魔なクラスメートにも優しく接して手を差し伸べる「立場」である生徒会会長の聖海斗ひじり かいとだった。どちらにしろ、その人たちからも冷たい視線を向けられていることは変わりない。


「大丈夫か?春樹。」


そんな凍てつくような、息も詰まるような空間で身動きが取れなかった春樹にそっと声をかけたのはクラスの騒動を聞いて駆け付けたクラスの担任、神谷雫かみや しずくだった。


春樹は思わぬ声かけに肩を跳ね、瞬間的に振り返る。するとふんわりとしたシャンプーの甘い香りと共に、怒りでも悲しみでもない何とも言えない先生の顔が見えた。それでも春樹にとっては眩しすぎるくらいの希望の光で、春樹は今にも泣きだしそうなくらいの表情で、瞳で雫を見つめた。


そんな春樹の救援要請を受けた雫は小さく頷くと、そっと視線を将来たちがいる方へ向ける。するとそこには、仲間たちに起こされて目覚めた将来がいて、その瞳は怒りの感情を持って春樹のことだけを一心に睨み続けていた。


とてもすぐに仲直りできる様ではない状況であると分かると、雫は軽くため息をついてから頭をカリカリと掻いた後、来ていた白衣の右ポケットに手を突っ込み、赤色の淵の眼鏡を取り出し、両手でそっと耳にかけた。その姿はまるで出来る理系教師の様なのだが、雫の性格上そんな姿は容易には想像出来ず、それどころか少しか弱い感じがある為、新米教師の方が何だかしっくりくる。でも今はそんなか弱い雫の存在が喜酒春樹という一人の人間の心を支える大きな柱となっている。それほどに大変な状況なのだ。


しかしそれは春樹にとっては大きな希望となるかもしれないが、雫からすれば一人の生徒の未来を左右するかもしれないという責任感に押しつぶされそうで、表面は強気を保っているが、内面は今にも泣きだしそうなぐらい不安になっている。でも雫だって一応は先生だ。ちょっとしたいざこざの対処法ぐらい当然知っているに決まっている。雫はパッと教育実習生の頃に担当だった小学校の先生から一番初めに教わったことを箇条書きで思い浮かべた。


①取り敢えず二人を互いが互いを視認できない様に移動させる。

②静かにゆっくりと十秒数えさせてからクラスのど真ん中で顔を合わせる。

③無理矢理にでも本音を吐かせ、両方の考えを両方に伝える。

④最後に反省文をキッチリ二枚分(180文字サイズ)書かせる。

以上


雫は今の教えを頭に入れながら再度、春樹と将来を交互に見た。


一瞬見た。


一瞬見て、素早く回れ右をした。


その雫の顔には一ミリも希望のない絶望と、これからどうしようという焦りが、大粒の汗によって表されており、軽くなりかけた雫の心にまたもや不安・心配という名の重りが付けられ、死にそうなぐらいの緊張が雫の全身を覆った。


信頼していた雫の慌てふためき、動揺する姿を見た春樹はいつものように振る舞えない雫の変わりっぷりに何故か笑いが込み上げてきて、思わず吹き出してしまった。


息をするのも苦しい程のピリついた空間に弾けるように吹き出された一音の笑いは、再び春樹に散りかけたクラス中の視線を集めることになってしまい、春樹はやっちまったと言わんばかりに首を精一杯180度回転させた。


そんな騒がしい二人を見たクラスはいち個体としてあったそれは再び集合体としての存在へと戻り始め、じわじわと話し声が広がり始めた。将来は痛む後頭部を擦りながら、それでもこのざわめきを抑えるようにゆっくりとその体を立ち上がらせた。視線は当然、春樹を一点に睨み続けている。将来が立ち上がると、周りにいた下っ端たちは肩を貸しながら「大丈夫ですか?」などと聞いたりしている。クラス中も将来が立ち上がったとなると、また静かに集合体から個体へと擬態し、同じように春樹を見つめた。


多数の人間に見つめられた春樹はさっきとは別人かと思われる程に冷静で、額からにじみ出ていた脂汗を涼しい顔で拭うと、将来の真正面に立ち、同じように睨み合った。すると、将来は眉をピクリと動かすと、さらに強く春樹を睨んだ。そしてすり足でゆっくりと春樹との距離を縮め始めた。足が前に進むごとに右斜めに若干傾くところを見ると、右足がまだあまり言うことを聞かないということが春樹には分かった。そんな将来のふらふらした歩き方を見るとまるでゾンビが襲いかかって来ているようにも見える。


そう春樹が将来の事を観察しているうちに、いつの間にか移動が終わり、顔を前に出してキスでもするかというぐらいの距離に将来の顔がある事に気付き、肩がぶるっと震えたかと思った次の瞬間、口を開け「ゲプッ」と顔面目掛けてゲップを放ってきた。その時春樹は咄嗟に右斜め下を向いて「ヴォエエ!」と吐くジェスチャーをしてしまった。春樹はやっちまったと覚悟して目をぎゅっと力強く瞑った。


その反応を見た将来はニッ!と満面の笑みを浮かべながら春樹に笑いかけた。


「ハッハッハ!どうだ、俺のくっさい息!牛乳飲んだばっかりだから生臭いだろ!あの一発分のお返しだ!まぁ、まだ結構頭痛いしぜんっぜん足りないけどな?そこは、俺の、や・さ・し・さってやつよ~!」


「――――へ?」


瞬間、春樹の頭に!と?が交互に生み出された。


春樹は驚いたのだ。


将来のふざけて見せた楽しそうな笑顔に。

将来が自分に気楽に話しかけることに。


何より、将来が自分にケガを負わされたにもかかわらず、怒った様子を一切出さず、近づいてきてくれたことに。


春樹は驚きを隠せずに目を大きく見開いてしまう。


クラスのみんなもボスの意外な行動に驚きを隠せない様子で、またもやざわざわし始めていた。


そんなみんなや春樹の反応を感じて将来は驚いた様にキョロキョロしながら何度も「えっ?えっ?」と焦った声で言っていた。ある程度キョロキョロし終えると、深呼吸をして、春樹の方へ向き直った。でもまだ若干の焦りの表情が残っている。しかしそんなのは関係ない。将来はゆっくりと口を開く。


「俺…、何かした?」


「いや、特には?」


「だよなぁ。」


将来は後ろをチラチラと見ながら無罪を確かめてくる。まぁ、確かに、ただ春樹に笑顔で話しかけただけの将来には罪はない。たとえあったとしても、それは春樹という人間に話しかけたこととなるだろうから、どっちにしろそんな存在である春樹自体が悪いので、実質罪はない。そう考えると、春樹は色々最初から将来に迷惑をかけていることに気付き、なんだか申し訳なく思い、何故かそのままの勢いで声に出してしまった。


「ご、ごめんなさいぃ!」


「えっ?何が?」


「場を乱したこと!」


「どしたの?」


「殴ってごめん、なさい!」


「いやぁ~確かにあの一発は寝不足で寝そうだった俺の眠気を飛ばしてくれる丁度良いパンチだったよ。ありがと~。」


「な、どうしたの?怒って、ないの?俺はアンタを、殴った。で、気絶した。だから、俺にクラス中の冷たい視線が集まった。仲の良い麻美にさえもだ。そしてアンタもキレたはずだ。なのにどうしてそんなに俺に笑って話しかけられる?アンタは気に食わない奴は容赦なく握りつぶすような人間でしょ?」


その言葉を聞いて将来の表情が一気に暗くなり、周りの空気がピリ付き始めた。春樹はこうなることぐらい分かっていてあえて聞いたのだ。明るく話し掛ける将来の顔に仮面がないかどうかを確認するために。


「お前は―――」


将来は怒りを抑え込むように震える声で春樹に何かを問おうとしたが、その言葉すらも、聞き取れない程に弱々しい声で、春樹には前半部分しか聞き取れなかった。それでも、春樹には将来が怒りを持って何を伝えたかったのか分かっていた。それは、


‘‘お前は殴る者の気持ちが分かるのか?’’


そんな言葉、春樹からすれば笑って流せる程度の全く重みの感じないセリフだと言うのに。

何を情熱的に言っているのかと、春樹は心から疑問に思った。


だって、春樹はこの高校の「伝説を一つ作った人間」だからだ。


春樹はピリついた空気を全身で感じながらも、将来のもどかしそうな表情を確認すると、右肩に手を置いてポンポンと叩くと慰めるように優しく囁いた。


「俺と、同じだね。」


将来の瞳に再び、春樹を潰そうという怒りの感情が密かに灯った。


誤字脱字発見、ご指摘、矛盾しているところがあればご報告していただけると助かります。

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