妹ちゃん
【一日目】
――気がつけば部屋の中央に自分は立っていた。
――部屋を見渡してみると勉強机に野球のグローブ、そしてテレビの前にはゲーム機が置かれている。あの生首の言う事を信じるのならば、どうやらここは、世界の主人公の部屋のようだ。
――突然、目の前に、ホワイトボードのような長方形が出現した。黒く半透明で、部屋の向こう側が透けている。主人公はそれに見覚えがあった。ノベルゲームによくある、キャラクターの台詞が表示されるテキストボックスだ。
――突然、テキストボックスの中に次々と白い文字が羅列され始めた。
誰と会いますか? ▼
→雪村 リカ 好感度 0
柿谷 弘子 好感度 0
マリア 好感度 0
梅野 まゆ 好感度 0
結城 春香 好感度 0
――どうやらこの画面で会いたい女の子を選択できるらしい。この状態では誰がどんな女の子かは分からない。しかし主人公には気になる名前があった。
→梅野 まゆ 好感度 0
主人公
「(この子だけ、俺と苗字が同じだ)」
――カーソルを梅野まゆに合わせ、指でテキストボックスを押す。すると画面がグニャリと歪み、一瞬で別の部屋に切り替わった。
――もはや主人公の頭は状況の変化についていくことが出来ず、悲鳴をあげたくてしょうがなかった。
白で統一されたその部屋は、どうやら病室のようだ。
主人公
「なるほど。この画面で会いたい女の子を選択でき……!!」
――なんと主人公が喋ったはずのセリフも、テキストボックスの中に表示されている。どこまでもゲーム感覚な世界だ。
――ふと見ると、窓際のベッドからこちらに微笑んで来ている少女がいる。
主人公
「(おそらく彼女が梅野まゆだろう。ゲームマスターの言う通り、女の子たちの願いを叶えなければならないのなら、今は情報を集めるべきだな)」
梅野まゆ
「あっ! お兄ちゃん、来てくれたんだ!」
主人公
「や、やあ。久しぶりだな(なるほど。設定的にこの梅野まゆは俺の妹なのか。それで苗字が同じだったわけね……)」
梅野まゆ
「ふふっ。お兄ちゃんったらおかしいことを言うのね。今朝来てくれたばかりじゃない」
主人公
「え? あ、ああ。そうだったな」
梅野まゆ
「ねえねえお兄ちゃん、聞いて聞いて! 今日のお昼ね、病院食でみかんのゼリーが出てきたの! とっても美味しかった!」
主人公
「そうかそうか、良かったなあ。(素直だなあ)」
梅野まゆ
「いつもは魚の骨だけなのに!」
主人公
「この病院どうなってるんだ!?」
梅野まゆ
「それから聞いて聞いて! 今日他の部屋の患者さんとトランプしたの!」
主人公
「ほー。楽しかった?」
梅野まゆ
「うん! すっごく儲かったよ!」
主人公
「賭けてたのかよ」
梅野まゆ
「16万円も儲かっちゃった!」
主人公
「エグいわ!」
梅野まゆ
「負ける方が雑魚なんだよ!」
主人公
「ひでえ! そ、そうだ。退院したらさ、その16万円は何に使いたい?」
梅野まゆ
「もうスロットですっちゃった! てへっ!」
主人公
「いや『てへっ!』じゃねえよ! 入院中じゃないのかお前!(……なんだこの妹。明らかにやべえぞ。こういうゲームのキャラクターって、もっとこう、抱きしめたくなる儚い感じの子だと思うんだが……)」
梅野まゆ
「ねえねえお兄ちゃん!」
主人公
「今度は何だ?」
梅野まゆ
「いっつもお見舞いに来てくれてありがとうね。お兄ちゃんのお陰で私、この辛い入院生活にも耐えられてるんだよ」
主人公
「お、おう(むしろ入院生活を満喫してる気がするけど)」
梅野まゆ
「お礼にこれ、あげるね」
主人公はペンギンのキーホルダーを手に入れた。
手に入れたアイテムはアイテムボックスに収納されます。 ▼
主人公
「ありがとう。これ、どうしたんだ?」
梅野まゆ
「えへへ。トランプで勝ったお金でガチャしたら当たったんだ」
主人公
「(素直に喜べねえ……)」
梅野まゆ
「お兄ちゃん、今日17歳の誕生日だもんね」
主人公
「え? そ、そうだよ。ありがとう、覚えてくれてたんだ(なんだ、ただのギャンブル狂かと思ったが、優しいところもあるんだな)」
梅野まゆ
「ねえねえお兄ちゃん、私が入院した日のこと、覚えてる?」
主人公
「い、いや。ハッキリとは……」
梅野まゆ
「そうだよね。随分前だもんね」
主人公
「うん?」
梅野まゆ
「私も、まさかタンスに小指をぶつけて入院することになるとは思わなかったよ」
主人公
「それ何の入院なんだ!?」
梅野まゆ
「あれから十年になるね」
主人公
「そんで十年!?」
梅野まゆ
「ねえねえお兄ちゃん」
主人公
「何だよ!」
梅野まゆ
「私知ってるんだ。私の病気は治らないんだよね?」
主人公
「気のせいだよ」
梅野まゆ
「そんな気休めやめてよ!」
主人公
「何なのそのテンション」
梅野まゆ
「私知ってたんだよ! 入院する時、お医者さんから私の寿命があと3ヶ月しかないって言われたこと!」
主人公
「じゃあ打ち勝ってんじゃねえか」
梅野まゆ
「隠さないでよ! どうせ私の寿命はあと70年しか無いんでしょう!!?」
主人公
「天寿を全うする気満々じゃねえか!」
梅野まゆ
「ゴホッ、ゴホッ!」
主人公
「お、おい大丈夫か?」
梅野まゆ
「ごめん、大丈夫。ちょっと胃が口から出ただけ」
主人公
「びっくり人間かお前は!!」
――ここで不意に選択肢が現れる。
主人公
「これは選択肢で展開が分岐するやつだな。どれを選ぶかは重要になってくるぞ」
どうしますか? ▼
→胃がなくてもお前は俺の梅野まゆだ。と励ます
自分も口から胃を出す
胃の代わりにレモンを渡す
主人公
「ロクなのが無え!! こんなんどうしようも無いじゃねえか! ええい、どうにでもなれ!」
→胃の代わりレモンを渡す ▼
梅野まゆ
「はあ、はあ、ありがとうお兄ちゃん。胃とレモンはそこはかとなく似ているからどうにかなりそうな気がしてきたよ」
梅野まゆの好感度が15上がった! ▼
主人公
「いいのかこれで!?」
梅野まゆは胃とレモンを体内に戻した。 ▼
主人公
「(こいつ、絶対人間じゃねえ)」
梅野まゆ
「お兄ちゃん、ごめんね。私、どうせ助からないから……」
主人公
「完全に気のせいだ」
梅野まゆ
「それでね私、今度手術をするんだ」
主人公
「いや何の手術なんだよ」
梅野まゆ
「それでね、今度お兄ちゃんって将棋の大会に出るんだよね?」
主人公
「……ああ(この主人公は将棋をやっているのか)」
梅野まゆ
「お願いお兄ちゃん! 次の試合、私のためにホームランを打って!」
主人公
「どうやって打つんだよ!」
梅野まゆ
「そしたら私、スロットで勝てる気がするの……!」
主人公
「そんで手術関係ないのかよ!」
梅野まゆ
「もし失敗したら、私の遺骨はそうめんと一緒に流してください」
主人公
「絶対嫌だよ!! 下流で待ってる人びっくりするだろうが!!」
こうして主人公は病院を後にするのだった。▼
――画面が病院から自宅の部屋に切り替わる。
主人公
「えっ! 終わった!? めっちゃ唐突に終わった!」
――状況を把握しきれていない主人公の前に、再び文字の羅列が始まる。
次は誰に会いますか?▼
つづく