ゲームマスターさん
――眼を覚ますと、主人公は真っ暗な中にいた。
――辺りを見回しても誰もいない。
主人公
「(ここはどこだ……? 俺はどうしてこんな所にいるのだろう)」
――主人公は大声を出して助けを呼んでみた。
――しかし誰も反応しない。主人公の声も闇にかき消されてしまっているようだ。途方にくれた主人公は、その場に座り込んでしまった。
主人公
「くそっ! どうすればいいんだ」
???
「おや? お目覚めのようだね」
主人公
「だ、誰だ!」
――主人公の前にいたのは、髪をパリッと固めた男……の生首だった。
主人公
「う、うわああああああ!!!」
???
「どうしたんだい。幽霊を見たわけでもあるまいし」
主人公
「見たよ! アンタだよ!」
???
「幽霊? 僕が? あははっ、何の冗談だい」
主人公
「冗談じゃねえよ! 首しかない人間が喋ってたら、誰だって幽霊だと思うわ!」
???
「そうか。君は自分が何故ここにいるのか、まだ知らないわけだね?」
主人公
「いや知らないも何も……ここは何処なんだ?」
???
「ゲ―ムの中さ」
主人公
「えっ?」
???
「正確に言えば、美少女ゲーム『ましゅまろめもりぃず』のチュ―トリアル画面だよ」
主人公
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 言っている意味がよく分からない!」
???
「确切地说、这是美少女遊戲『棉花糖回忆』的教程屏幕」
主人公
「いや中国語分かるかあ!! 日本語のまま意味が分からないって言ったんだよ! 」
???
「本当に何も思い出せないかい? 今日秋葉原まで行ったことは? その帰り、トラックにひかれたことは?」
――その時、主人公は思い出した。そうだ。自分はゲ―ムを買いに秋葉原へ行った。そして帰る途中にトラックにはねられた。その後の記憶が一切なく、気付けばこの闇の中に居たのだ。自分が買いに行ったゲ―ムの名前は、そう。『ましゅまろめもりぃず』だった。
???
「単刀直入に言おう。君は今、言わば幽体離脱の状態にある。君の身体は今も病院で瀕死の状態にあるんだ」
主人公
「そんな事を急に言われても、信じられるわけ……」
ゲームマスター
「現に君の目の前には生首が浮かんでいるじゃないか。こんな事はあの世かゲームの世界でしか起こらない事だと思うけどね」
主人公
「……。信じるか信じないか、今は保留にしておいても良い?」
???
「ご自由に」
主人公
「ここがゲームの中だとして、どうして死にかけた俺はゲームの中に入ってしまったんだ?」
???
「簡単な話さ。僕が引きずり込んだからだよ」
主人公
「……今なんて?」
???
「だーかーらー。僕が死にかけた君の魂を、この世界に引きずり込んだからだよ」
主人公
「ひっ、引きずり込んだって何だよ! やっぱり亡霊の類じゃないか!」
???
「まあまあ、落ち着きたまえ。僕はあの世に登りかけた君の魂をこのゲームの世界に放り込んだんだから、むしろ感謝して欲しいもんだね」
主人公
「……あんた、何者なんだ?」
???
「そうだね……。あえて名乗るならば、ゲームマスター、かな」
主人公
「……ゲームマスター……。つまりこのゲームの支配者みたいな存在か?」
ゲームマスター
「そうだとも! さあ僕に逆らったら痛い目にあうよ? 今すぐ跪いて足を舐めたまえ!」
主人公
「いや足ないだろ」
ゲームマスター
「あははっ! そうだったそうだった。こりゃ一本取られたね!」
主人公
「(なんだこいつ……)それでゲームマスターさん。この世界に俺を引きずり込んだってことは、ここから出すことも出来るってことだよな?」
ゲームマスター
「もちろん」
主人公
「じゃあ出してくれよ! 今すぐ!」
ゲームマスター
「それは出来ない」
主人公
「どうして!」
ゲームマスター
「どうしても何も。君にゲームをしてもらうためにこの世界に招待したんだもん」
主人公
「ゲームって、この美少女ゲームを?」
ゲームマスター
「そうだよ。君にはこれからゲームの主人公になってもらい、五人の女の子たちと交遊してもらう」
主人公
「女の子と遊んでいればいいのか?」
ゲームマスター
「もちろん条件はある。もし五人の女の子の『願い』を全て叶えられたら、君を元の身体に戻してあげよう」
主人公
「……あんた何が目的なんだ? こんな事をして、得をするのは俺だけだと思うんだが」
ゲームマスター
「ははっ。それはゲームをしてみないと分からないよ」
主人公
「(なんか含みのある言い方だな)」
ゲームマスター
「さあ、そろそろ決めてもらおう。このゲームをやる? やらない? どっちにする?」
主人公
「(この首は確実に何かを企んでいる気がする。でも、今は他に選択肢が無い)……やる!」
ゲームマスター
「決まりだね。……さあ! ゲームの始まりだ!」
――その瞬間、眩しい光が視界を覆い、主人公はどこかに飛ばされていく感覚を感じた。こうして主人公と五人の少女たちとのましゅまろな日々がスタートしたのだった。
つづく