紫音と指導
彼らの実力を見た紫音。彼らをどう指導するのか?
宇野元と呼ばれた生徒がダイナミックエントリーを行った後も、次々と生徒達がチャレンジして行くが余り結果が芳しくなく、生徒達全員は落ち込んだ様子でいる。
「よくて1分19秒。悪くて1分28秒」
「平均すると、大体1分23秒台ですよ」
流石にこれはちょっとよろしくない結果だと、僕自身も思う。
「皆さんの実力がわかりました。取りあえず先程のデータを元に振り分けます。1分19秒台から20秒台は大園さんとコニーさんの元に」
「えっ!?」
優秀な生徒達を僕に任せる気なのぉ!?
「頑張れよ。優等生」
天野はそう言って、紫音の二の腕を肘で突く。
絶対にさっきの事を根に持っているよ。
「次に、1分21秒から1分29秒ギリギリまでは天野とリトアのところへ!」
「結構多かったから、教え甲斐があるんじゃないのかな。アマノくん?」
「・・・・・・面倒くせぇ」
出た。天野さんの面倒くさい発言! きっと僕に負けた上に煙草を吸えないから、苛々しているんだと思う。
「紫音、何か失礼な事を考えていなかったか?」
「べ、別に何も考えていませんよ」
「・・・・・・そうか」
天野さんはそう言うと頭をガッと掴み、またアイアンクローをかまして来たのだ!
「お前が考えてる事はなぁ。バレバレなんだよ、ど阿呆がぁ!?」
「えっ!?」
嘘ぉ!? バレていたの?
「それぐらいにしておきなさいよアマノ」
「リトアくんの言う通りだよ。彼らに技術指導する方が先決だと思うよ」
「・・・・・・チッ!?」
天野さんは舌打ちをすると、頭を握っている手を離してくれた。
「最後に、タイムが出なかった人はダニエル教官とリュークの元へ行って下さい。それでは分かれて下さい!」
「全員聞いたか? 今すぐにグループに分かれるんだ」
約1名不服そうな顔をしている者がいたが、下谷さんの指示に従って分かれてくれた。
「よろしい。では彼らからちゃんと聞くように!」
『はい!』
そう言ってグループ事に僕達に5人が近付いて来るが、何か僕とコニーさんのグループだけ不服そうな顔をしている。
でも、先ずは先程の反省をして貰わなきゃいけないので話を始める。
「えっとぉキミ達の講師を務める事になった 大園 紫音です。よろしく」
「コニーです。よろしくねぇ〜」
そう言ったのだが返事がなくシ〜ンと静まり返っていて、舞ちゃんなんか不安そうな目で僕の顔を顔を見つめている。
「先ずキミ達に聞きたいのは、さっきやったダイナミックエントリーに反省点はあったと思う人、手を上げて」
僕がそう聞くと全員手を上げた。
「左から順番に聞くけど、何処がダメだと思った?」
「狙いが定まらなかった」
「俺も同じです」
「リロードに少し手間取りました」
「私も、いつもと違って狙い辛く感じました」
なるほど、そう言う事ね。
「狙いが定まらない原因は、歩き方の問題だね」
「そうそう。摺り足で歩き続けなきゃいけないところを、無意識に歩幅を変えていたからだと思うよ」
初心者のよくあるパターン。の1つ無意識に歩き方が変わっていた。
「映像を見返してみればわかると思うけど、最初の入った時と出る前にとで大分姿勢が変わっている筈だよ」
信じられないと言いたそうな人が1人いたが、残りの人達は思い当たる節があるような顔をしていた。
「それと、リロードに戸惑ったアナタはハヤくマガジンを入れようとしていたら、中々入れる事が出来なかったのがゲンインじゃないのかしら?」
「ッ!? そうかもしれません」
「それじゃあ、初心に返った気持ちで基本からやろうか」
『はい!』
銃の構え形から始まり、足の運び方を教えた。エイムしたまま歩く練習をした。
「そこの2人。摺り足が出来てないよ」
「あっ!?」
「すみません!」
彼らは慌てて足の運び方を直す。
「うんうん。みんな最初よりも姿勢がよくなったねぇ」
「シオンの言うトオり、歩いている時の姿勢がブレなくなりましたねぇ」
この分なら、1分15秒台を出せるかもしれない。
「そろそろ休憩に入って、ダイナミックエントリーの準備をしようか」
『はい!』
教え始める前と違って、僕達に尊敬の眼差しを向けている。
「因みに先に言っておくけど、ターゲットの数は全員同じだけど、出て来る場所一人一人違うから情報共有の意味はないよ」
『エエ~!?』
いいリアクションするね!
「当然のコトなのだけれど、さっきとは的の位置が変わっているから、よく見て撃って下さいねぇ!」
コニーさんの言葉にシュンとした顔をする。
「とにかく、みんな休憩をして・・・・・・」
「ふざけるなっ!?」
その声に対して、全員反応してしまった。
あれはさっき不正をしていた宇野元くんだったっけ? 何で怒っているんだろう?
ダニエル教官はれっきとした態度で、怒り顔になっている宇野元くんを見つめる。
「フザケルナト言ワレテモ、彼ラモ基本ガ シッカリト シテイルカラ、アンナニ早ク動ケルノデスヨ」
「本当か?」
「本当デスヨ。基礎ガ出来テ イナイ人ハ、高イ技術ヲ望メマセン」
流石ダニエル教官。一見してみれば普通に立っているように見えるけど、相手が何かしようとして来てもいいように身構えている。
「宇野元くん、また怒っているの?」
「またって、どう言う事?」
舞ちゃんにそう聞くと、戸惑った表情で語り出した。
「うん・・・・・・入学当初は宇野元くんがクラスで1番優秀だったの」
「クラスで1番優秀?」
優秀っていうのなら、あんな不正なんてしないだろうに。
「シィくんの言いたい事はわかるよ。下谷先生の授業を受けて行く中で、だんだんその立場がぁ・・・・・・そのぉ〜」
「ユウトウセイじゃなくなって来た。って言いたいんですね?」
「はい、その通りです。最近では周りに当たり始めたので、1人を除いて孤立している感じです」
「ボッチじゃないのねぇ〜」
確かに、よくよく見てみると宇野元と呼ばれる生徒の側にガラの悪いドワーフがいた。
「彼がその取り巻・・・・・・友達?」
「う、うん」
そうなんだぁ。でも宇野元くんの側にいるだけで何もしていないのは、どういう事なのだろうか?
「あのドワーフのガキは宇野元とダニエルの様子を見ているんだ」
「なるほどね。彼らの様子を見ていればあのドワーフがどういう行動を取るのかわかるわよ」
「あ、天野さん。それにリトアさん」
リトアさんはいつものように、背中から抱き付いて来た。
「様子って、どういう事ですか?」
「そろそろわかるから、黙って見ていろ」
疑問に思いつつ宇野元くんに目を向けると、先程よりも激昂していて今にも殴り掛かりそうだ。
「全ク、アナタハ今マデ見テ来タ人ノ中デ、5番以内ニ入ルホド 酷イ人デスネ」
「何だとぉ!?」
「言ウ事ヲ聞カナイ。指摘サレタ事ヲ直サナイ。ソモソモ、ヤル気ガナイ。ココガ本番デ ワタシガ敵デシタラ、アナタノ事ヲ秒殺デスヨ」
ヤバイ、ダニエル教官の目が据わっている。
「ふざけた事を言ってんじゃねぇぞ! クソオヤジがぁ!?」
そう雄叫びを上げながら拳を振り上げたのだが、その腕を掴まれて地面に押し倒されてしまう。
「かはっ!?」
怯んでいる宇野元くんの隙を見逃さず、ダニエル教官は素早くナイフを抜いて頸動脈に当てた。
「あ」
気が付いた宇野元くんはピタリと動くのを止めた。
「コノママ ナイフヲ引ケバ、出血死シマスヨ」
「あ、ああ・・・・・・」
ダニエル教官の冷淡な目を見つめたまま、何も出来ない宇野元くん。
「何をしているんだぉ! 宇野元っ!?」
下谷さんが駆け寄ると、彼は助けを求めるような目で見つめる。
「お前の行動は全部見ていたぞ。彼に謝って私のところ来い」
「あ、はい・・・・・・ゴメンなさい」
「ワカレバイインデスヨ。ワカレバイインデスヨ」
ダニエル教官はそう言うと喉元からナイフを離してあげた後、宇野元くんから離れた。
「こっち来い」
「・・・・・・はい」
青ざめた顔で下谷さんの後をついて行く宇野元くんだが、ここで僕はある事に気が付いた。
「ドワーフの子がどっかに行った」
「あ、ホントウです。いつの間に?」
「紫音、コニー。ヤツは1番左側の1番後だ」
「「・・・・・・あっ!?」」
いつの間にか宇野元くんの側から最後尾に移動していたのに気付いて、ビックリした表情になるのと同時に彼にとっての宇野元という存在が理解した。彼にとって宇野元はただの利用価値なのだと。
彼ら指導をするのだが、また問題が起きた。問題を起こした宇野元は、このまま大人しくしていてくれるのか?




