紫音と実野妓の行方
病院に着いた紫音達。唯凪が捜査の協力を求めている。一体紫音に何をさせるつもりなのか?
唯凪さんに連れられて、実野妓くんがいた病室までやって来た。その実野妓くんが横になっていたベッドに顔を近付けている。
「クンクンクン・・・・・・」
「どうだい、紫音くん?」
「うん。臭いが残っているので大丈夫そうです」
「そう、それはよかった。臭いを辿ってくれるかい」
そう、唯凪さんは実野妓くんを追う為に部屋に残っている臭いを嗅がせようと考えたのだ。
「しかしあれだな。警察官なのに警察犬を入れるって考えはないのか?」
「警察犬を病院内に入れたくないと言われたからね」
「ああ、そういう事か」
盲導犬や聴導犬などならともかく、アレルギー持ちが通院しているかもしれない病院に警察犬を入れるのは、ちょっと気が引けるって訳らしい。
「っと、こんな事をしていたら紫音くんが廊下まで出ちゃったよ。追い掛けよう」
「あ、ああ」
「そうだな」
クンクンと床の臭いを嗅ぎながら進む紫音に黙って付いて行くと、病院の入り口専用の扉までやって来た。
「・・・・・・おい紫音」
「えっとぉ〜。言いたい事はわかっています。でも、臭いはこの先に続いているんですよ。それにこの取手部分にも臭いが残っています」
「念の為に指紋の採取をしておこう。後あそこに監視カメラがあるから、その映像も確認してみて。
とりあえず僕達は、裏口に回って臭いの追跡をしよう」
そう言う事で、他の出口から回って来て臭いの追跡を再開すると、今度塀までやって来た。
「シィくん、どうしたの?」
「この上に臭いが続いてるんだけど・・・・・・」
「いや、よく見てみろ。そこのダクト部分に登った形跡があるぞ」
188さんの言った通り太いダクトに手跡と何かが擦れた跡が残っていた。
「ここから病院を出たんだな。全く、何でこんな面倒な事をやってるんだよ」
「う〜ん・・・・・・もしかして、なるべく監視カメラに映りたくなかったから、こんな事をしているのかな?」
「映りたくないって、どういう事なんですか?」
「放っておいて貰いたいのか、はたまた家に帰りたいと思ったのかもしれない」
ん? ちょっと待って。
「実野妓くんは家に帰ってなかったんじゃ?」
そう言ったら天野さんに頭を叩かれてしまった。何で?
「とにかく、また塀の向こう側に回って追跡の続きをするぞ。いいな?」
「・・・・・・はい」
また裏手に回って歩行者専用道に出た僕達は、そのまま道路へと向かう。
「・・・・・・あれ?」
「どうしたんだ紫音?」
「臭いがここで途切れています」
そう車道の手前で臭いが途切れてしまっているのだ。
「まさかここで自殺した?」
「そんな事をしていたら、今頃ここに警察やら救急車がいるだろうが」
「じゃあ、タクシーに乗ったんですか?」
そう言うと、みんなが悩んだ顔をさせる。
「確か実野妓くんの顔は治っていないから包帯を巻いて隠していた筈だよ」
「それに、寝巻き姿をした人間を乗せると思うか?」
「いやいや、それ以前に顔を包帯で巻いている人間を中に入れるとは思えないだろ」
うん、天野さん達が言っている事は正しいかも。
「シィくん、車の排気ガスで臭いが途絶えちゃった。って可能性は?」
「その可能性は低いと思う。車が通った後でも残っていたし」
「そうなんだ。じゃあやっぱり、ここで車に乗ったって考えるのが正しそうなんだね」
舞ちゃんはそう言うと、不安そうな顔で辺りを見回している。
「まぁとにかく、この周囲の防犯カメラを手当たり次第探ろう」
「それがいいかもな。おっと失礼」
188さんはスマホを取り出して何か話始めた。
「・・・・・・ああ、わかった。それじゃあ今から戻る。それじゃあ」
「どうしたんですか、188さん」
「すまないが急用で店に戻らなくちゃいけなくなった。まぁこっちでも何かわかったら、天野か工藤辺り経由で連絡をする」
「ありがとう」
「いいって事よ。俺もその実野妓ってヤツが心配だからな」
口ではそう言っているけど、恩を売ろうとしているようにしか見えない。
「それじゃあ天野、送って行ってくれるか?」
「ああ、わかった。紫音、引き続き唯凪に協力をしてやれ」
「わかりました」
僕にこのまま捜査の協力をさせるみたいだ。
「それじゃあ、頑張れよ」
「何かわかったら、連絡してくれ」
2人はそう言うと、ピックアップトラックが停めてある場所へと向かった。
「さてと、人手が欲しいと連絡をしないとね」
唯凪さんがポケットからスマホを取り出し、電話を掛けていると検事の人が僕達に駆け寄って来た。
「唯凪さん、報告したい事があるんですが」
「ちょっと待って、電話をするから。ああ、後そこにいる紫音くん達から結果を聞いてちょうだい」
唯凪さんはそう言うと、身体をそっぽに向けて電話を始めた。
「ああ〜、それで臭いを辿ってみた結果どうだったの?」
「臭いはちょうどここで途切れています。後はあの入り口専用のドアから、あそこら辺の壁をよじ登ったってぐらいですね」
「ダクトに手跡や擦れた後があったので、それを調べて頂けないでしょうか。唯凪さんは、そのダクトを利用したかもしれないと考えています」
舞ちゃんの言葉に 信じられない。 と言いたそうな検事さんだが、その塀に顔を向けてからこっちを見つめる。
「なるほど・・・・・・わかった。今すぐ調べてみるよ。それと、実野妓くんが映っている映像を見つけたから、電話が終わったら警備室に来て欲しいって伝えておいてくれ」
「わかりました」
「それじゃ、持ち場に戻るからね」
検事さんはそう言うと、僕達に背を向けて歩き出した。
「・・・・・・はい。それでよろしくお願いします。それでは」
唯凪さんの方も話が終わったのか、こっちに顔を向ける。
「紫音くん、検事の人は何て言ってたの?」
「唯凪さんに観せたい映像があるから、警備室に来て欲しいって言ってました」
「そっか。それじゃあ行こうか2人共」
「あの、捜査に協力をしているシィくんならともかく、私まで付いて行っていいんですか? 私は一般人ですよ」
うん、舞ちゃんの言う通りかもしれない。
「まぁ、警察予備高校に通っているし、何よりも彼とは関わりがあるから、いいんじゃないかな」
唯凪さんはそう言ってから、歩き出したので僕達も後を追い掛ける。
「待っていましたよ、唯凪さん」
「僕をここに呼んだって事は、映像が見つかったって認知でいいんだよね?」
「はい、もちろん。こちらの映像を観て下さい」
検事さんが操作しているモニターを観ていると、顔に包帯を巻いている寝巻き姿の人が裏口に向かって行っていた。
「龍平くん!」
「彼女がそう言うから、龍平くんで間違いなさそうだね。しかも周囲を見渡しているから、余程人に見られたくないんだね」
「はい、続きを流します」
そのまま映像が流れて行き、裏口のドアを開いて出て行ってしまった。
「彼の言う通り、ここから外へと出て行ったようです。そしてこの後どうしたのか気になったので、外に付いている監視カメラの映像を観てみたら、このような映像が映っていました」
外の映像に切り替わり、彼はまたしても周囲を気にしながら進んでいた。
「隠れながら移動しているなんて、相当用心深く移動してますね」
「さっきも言った事だけど、本当に本人は誰かに見られたくないみたいだね」
「はい、ここで彼は画面外に出てしまったので、この後どうしたのかわかりません」
検事さんの言う通り、実野妓くんは辺りをキョロキョロしながら画面外に出てしまった。
「この後塀をよじ登って病院の外へ出たみたいだよ」
「それは本当ですか?」
「うん、その痕跡があった場所を調べて貰っているよ」
「今その場所を調べて貰って居るんだ」
「そうですか。しかし、彼は何の為に病室から出て行ってしまったんでしょうかね?」
「それがわかれば苦労はしないよ」
その後も捜査が続いたが、結局何もわからず仕舞いでその日は終わってしまったのだった。
結局実野妓の行方が掴めないままの紫音達であった。




