紫音と父のスポーツカー
車屋へとやって来た紫音達。一体どのような車が待っているのだろうか?
真理亜さんのバーから天野さんの運転で隣町の自動車屋さんにやって来た。
「ここが、父さんがカスタムを頼んだ自動車屋さん?」
お世辞にも人が立ち寄ると思えるような自動車屋とは思えない。だって、お店の外見がモロに・・・・・・。
「どう見ても廃業だろ」
そう外に車を置いているが新車とは言えないものばかりで、値段自体も10万ざらで1番高くて50万ぐらいなのだ。
「ここ、中古車屋さんじゃないのかな?」
「多分そうかもしれないね。天野さん、住所間違えてませんか?」
「いや、ここで合っているぞ。もしかして廃業しているのか?」
そんな僕達がそう思っている中、188さんだけは反応が違っていた。
「188さん。その車を見ていて楽しいんですか?」
「何を言っているんだ! こっちに来てよく見てみろよ。これ全部スゲェもんだぞぉ!」
188さんがそう言うので渋々といった感じで車に近付いたら、天野さんの目の色が変わった。
「おいこれ。外装がボロボロでわからなかったが、三菱のランサーじゃないか?」
「ああそうだ。向こうで組んでいる途中の車はスバルのWRXだ。しかも軽量化の為か、カーボン製のフロントボディを付けようとしてやがる」
そう言われてみれば周りにある車の大半は外装は汚いが、スポーツカーやクラシックカーばかり揃っている。
「んん〜? お客さんが来たのかなぁ?」
ちょっと汚れた作業着姿の中年おじさんが、僕達の側にやって来た。
「あ、ゴメンなさい! ここに父さん、大園ヒューリーがカスタマイズを頼んだ車が置いていると聞いて来たんですがぁ・・・・・・もしかして間違えましたか?」
そう言いながら、封筒を見せたらまじまじと見つめる。
「ああ〜、ヒューリーさんの車ねぇ〜。ところでキミ父さんって言っていたけどぉ、もしかして息子さんかな?」
「はい。父さんは訳があって来れないので、僕が代わりに来ました」
「ああ〜そうなの。車の方はこっちにあるから、着いて来て」
「あ、はい!」
とりあえず車の店員(?)の後ろに着いて行くが、廃車のような他の車が気になってしまう。
「ねぇ、シィくん。もしかして、ヒューリーさんが買ったのって・・・・・・中古車?」
「この様子だとそうかもしれないね」
「キミのお父さんが買ったマスタングは中古車じゃないよ。新車だよぉ。書類にも書いてあったんだけど、読んでなかったのぉ?」
「あっ、断片的にしか読んでなかったので、新車までは知らなかったんです」
ぶっちゃけ、アメ車を買っていた事に対して驚いていたので、新車とかいうのを見逃していた。
「そうなんだぁ。もしかして、この周りの車を見て変な車屋さんって、判断していた?」
「・・・・・・すみません」
「別にいいんだよそう思っても。敢えてそう思って貰うように、ボロボロの中古車やなんかを前に出していたんだよ」
「「えっ!?」」
どういう事? と思っていると、横から188さんが納得したような顔で話し出した。
「ハハァ〜ン。噂で聞いた事があるなぁ。風変わりなチューナーがいて、日本で5本の指に入るほどの実力者と」
「ふ〜ん。そこまで知ってるのなら、オイラの名前を知っているんだよね?」
「桑木 正義 だな」
「正解。レース用から軽自動車まで、修理からチューニングをするよ」
修理からチューニング? ちょっと待って! それじゃあこの周りにある車達ってもしかして・・・・・・。
「修理かチューニング待ちの車達って事なのか?」
「正解だよ。正面に置いている中古車が偽造の為に置いていて、お店の中に入って向こう側にあるのが新品だよ」
指をさしている方向に顔を向けると、確かにそこに新品の車が置いてあった。
「どうして父さんはマスタングを乗りたかったんだろう?」
「ん? もしかして、親から何も聞いてなかったの?」
「はい」
「ああ〜・・・・・・前々から乗ってみたかった。って言っていたよ」
乗ってみたかった?
「ただそれだけ?」
「うん。それだけの理由だと思うよ」
イマイチ納得が出来ないと思っていると、ガレージへとやって来た。
「さぁ着いたよ。目の前にあるのが、キミのお父さんが頼んだマスタングGT500だ! その姿をご賞味あれっ!!」
桑木さんはそう言うと、車に掛かっていたシートを取り外した。
「うわぁ〜・・・・・・」
「これは」
「スンゲェなぁ」
「・・・・・・キレイ」
僕を含めた全員が驚くのも無理はない。そこには新品同様の青い車・・・・・・いや、スポーツカーの マスタング シェルビーGT500 が存在していたのだから。
「5.2LのV8エンジンを搭載したエンジンで、スーパーチャージャーを相性がいいのに取り替えた。更にそれに伴って、足廻りの調整もしたよ」
「具体的にはどうなんだ?」
「ブレーキ類を軽量化したものに変更とマフラーをいいものに取り替えた。それに、車高の調整にサスペンションの取り替えもしたよ」
「・・・・・・いや。俺からして見ると、ほぼ全部やっていないか?」
「ほえぇ〜〜〜〜〜〜・・・・・・」
話に付いていけない。って、勝手にボンネットを開けているんですか! 188さんっ!!
「これがあれば、あのGT-Rに対抗出来るんじゃないか?」
「あのGT-R? GT-Rがどうかしたの?」
「えっとぉ、実はぁ・・・・・・」
この間の事件の事を話したら、 ああ〜。 と納得をした顔させた。
「つまり、その密輸をしていた外国人達のGT-Rに対抗出来る車が欲しかったんだね」
「まぁ、はい」
ぶっちゃけ言ってしまうと、天野さんが所有しているピックアップトラックでは向こうの方が速くて逃げられてしまい、奇跡が起きない限り到底太刀打ち出来ないのだ。
「話を聞く限りだと、そのGT-Rはこのマスタングのようにカスタムされてないみたいだね」
「その通りですね」
「ならこの車で問題ないよ。ノーマルのGT-Rなら余裕で抜ける」
「でもその運転手がコイツだからなぁ・・・・・・」
「えっ!? 僕が運転手ですかぁ?」
運転免許証を持っていない僕が、何で運転しなきゃいけないの?
「当たり前だろう! このマスタングの所有者はお前の親父さんなんだから、必然的にお前に所有物になる」
「免許の方は、PMCの許可申請さえあれば運転出来るから心配ないだろう」
「ええ〜・・・・・・」
確かにそうだけどさぁ〜
「この間サーキットで運転したばかりで今度はスポーツカーって、無茶振り過ぎませんか?」
「そこは慣れていけば大丈夫だろう。それに事故を起こしてもPMCから保険を下ろして貰えるから安心しろ」
安心要素がズレている気がする!
そんな事を思っていたら、桑木さんが僕の目の前にやって来た。
「とにもかくにも、ウチはこの車を引き取って貰わないと困るんだけど」
「うぅ〜・・・・・・わかりました! 受け取ります!」
「じゃあここにサインを書いて。それとこの中に余ったお金があるから、無くさないようにね」
渋々言われた通りにサインを書き、余った分のお金を受け取り中身を確認する。
「3万円ちょっとか。それぐらいあるのなら、帰りに専門店に寄ってシートを買うか」
「・・・・・・はい」
「車にガソリンを入れて来るから、ちょっと待っててねぇ」
桑木さんはそう言うと、マスタングに乗って何処かへと行ってしまった。
「ガソリン?」
「こういった店は盗難防止の為に、ガソリンタンクギリギリの量にしているんだよ」
「もし仮に盗まれたとしても、近くのガソリンスタンドの防犯カメラを確認すれば見つけられるかなら」
「へぇ〜、そうなんですかぁ」
「車屋さんの車にガソリンが少ない理由って、そういう事だったんですね」
僕と舞ちゃんが感心していると、舞ちゃんのスマホが鳴った。
「電話? 下谷先生から?」
怪訝そうな顔をさせながら通話ボタンを押して耳に当てた。
「はいもしもし。どうしたんですか・・・・・・えっ!? 龍平くんがぁ!!?」
「何かあったのか?」
188さんがそう聞くと、舞ちゃんは慌てた様子でこっちを向いて来た。
「病院で寝ている筈の龍平くんが、何処にも見当たらないみたいなんですっ!!」
その言葉に188さんは首を傾げたが、僕と天野さんは驚いた表情をさせるのであった。
こうして、無事にマスタングを受け取った紫音だが、実野妓が行方不明になってしまった。




