宇野元の受難
友人を殴ろうとした瞬間、紫音に止められた宇野元。その後日談である。
〜〜〜 宇野元 side 〜〜〜
クソッ、ムカつくやろうだぜ。
翌日の朝。宇野元はイライラした気持を抑えつつ自身が通っている入浜警察予備校に向かっていたのだか、あの焼肉屋の事から2日も経っているのに、未だに荒れた気持ちでいた。
あの紫音とか言うヤツ、アイツが悪りぃのに俺の腕を掴みやがって・・・・・・。
そう、焼肉屋で共に食べていた友人のサルコと共に食べていたら、急にこんな事を俺に言い始めたのだ。
『なぁ忠志』
『何だサルコ?』
『お前さ、何であんな事をしたんだよ?』
『あんな事って何だ?』
この既に何の事を言っているのかわかっていた為、思い出してイラッとしていた。
その様子に気付いていないサルコは、肉を焼きながら話を続ける。
『ほらぁ、今日羽田空港でお前がダイナミックエントリーをしたじゃん。その時に何で的まで近付いて撃ったんだ? お前ならそんな事をしなくても、普通にいいタイムを出していた筈だろう』
『・・・・・・やる気がなかったんだよ』
『いやいや、そんな事ないだろう? お前がやる気じゃなかったら最初っからやってないって。もしかして・・・・・・』
先をこっちに向けながら話す。
『糸風や実野妓。それにあのライカンスロープに負けたくなくてあんな事をしたのか?』
『・・・・・・そんな事はねぇよ』
『でも、ちゃんとやっていりゃあいい線は行ってたと思うぜ。それにPMCの講習を受けてからは全員実力が上がっているから、どうなってるかわからないぜ?』
ブチッ!?
『つまりお前は俺よりもアイツらの方が上って言いたいんだな?』
『べ、別にそんな事を言ってんじゃねぇよ。ただ、何でプライドの高いお前があんな事をしたんだ? って聞きたいだけで、アイツらも今回の事で実力が上がったなぁとは思っているけど、別にお前が糸風達より弱いとは・・・・・・』
『ふざけんなっ! 俺がアイツらなんかに劣っている訳がないだろっ!!』
カッとなった宇野元は、サルコの胸ぐらを掴んで引き寄せた。キレた事に気づいたサルコは降参と言わんとばかりに両手を上げた。
『わ、悪かった。だから落ち着こうぜ・・・・・・な?』
この野郎、ふざけやがって! ブッ飛ばしてやるっ!!
そう思いながら拳を振り上げた瞬間、サルコは怯えた表情をさせながら ヒィッ!? と悲鳴を上げた。
・・・・・・ん?
顔をブン殴ろうとしたのだが、誰かに腕を掴まれてしまい殴れなかった。
誰だ俺の腕を掴んでいるヤツはよぉ?
そう思い振り返って見てみると、何とそこにはサルコが話をしていたライカンスロープが立っていたのだ。
『テメェは!?』
自分の事を見下ろす紫音に対して、何でこんなところにいるんだ? と思った後に自分の腕を掴んでいる事に対しての怒りが湧いて来た。
『何でテメェがここにいるんだよ?』
『何処に居ようが僕の自由だよ。それに話の焦点はそこじゃないよね?』
その言葉を聞いた俺はイラッと来たので、掴んでいる手を振り払いライカンスロープを睨み付けるが全く動じてない様子で見つめて来る。
『何でこんな人の多い場所で殴ろうとしているんだ、お前は?』
『そうね。こんなところで揉め事を起こすものじゃないわよ』
ダルそうな男性とエルフの女性がそう言いながら俺に近付いて来た。そう、そいつらも今日の講習でいた連中だ。
『お、お前ら・・・・・・』
コイツだけなら相手出来ると思ったが、他の連中もいるとなると手を出せなくなってしまう。
宇野元が3人を交互に見て、どうすればいいのか考えていると慌てた様子で店員がエルフの女性に近づいた。
『あの、彼とお知り合いなのですか?』
『ええ、今日お昼に羽田空港に会ってタクティカルトレーニングを教えてあげたのよ』
『タクティカルトレーニング?』
『軍隊式トレーニングと言った方がわかりやすいかしら。とにかく彼の事を知っているから、任せて貰えないかしら?』
『あ、はい』
店員はそう返事をすると、何か問題が起これば対処出来る様にする為なのか一歩下がり、こちらを見つめて来る。
『何があったのかは知らないけど、殴り合いをしたいのなら外でやってくれるかしら?』
『そうだな。他にも客がいるところで殴り合いを始めるなんて、迷惑極まりないからな』
エルフの女性とダルそうな顔をさせた男がそう言うのに対して、宇野元は不貞腐れた顔で答えた。
『お前らには関係ないだろう?』
『同じ客として来店しているこっちは、楽しい気分を害されて困っているんだが?』
その言葉にイラッと来たが、言っている事に対して正論と言うところもあるし、何よりもここで問題を大きくするのは立場上よくないと思ったのでブン殴りたい衝動を堪える事にした。
『お金を払って店を出て行くか、このまま迷惑を起こして学校の方に連絡されるか選びなさい』
ここでこれ以上目立つのは得策じゃねぇ。
『・・・・・・出て行くよ、こんな店』
俺は屈辱を感じながら店に金を払って出て行く時に、 次に会った時は絶対にブッ飛ばしてやる! と心の中で誓ったのだった。
特に俺の腕を掴んだライカンスロープの野郎は、ぜってぇ許さねぇ。
苛々したままの気持ちで入浜警察予備高校に登校して来たのだが、何故か全員俺の事を遠目に見つめながらヒソヒソ話をしているのだ。
何なんだ一体?
疑問に思いつつ教室に着くと実野妓が俺の元へやって来た。
「宇野元、やっと来たか」
「やっと来たかぁ? 何を言ってるんだお前は?」
「下谷先生が、お前が来たら職員室に来るように。って言っていた」
「はぁ?」
俺に一体何の用があるんだ?
「とにかく、鞄を置いたら職員室へ行った方がいいんじゃないのか? それじゃ」
実野妓はそう言うと自分の席へと戻り、糸風達と話し出した。
とにかく、下谷のところに行かないと流石にマズイよな。
自分の机に鞄を置いた後に職員室へと向かい、何も言わずに扉を開ける。
「お前、失礼しますの一言はないのか?」
何でそんなダルい事を言わなきゃいけねぇんだよ。と思いつつ下谷の元へ行く。
「まぁいい。一昨日の事に付いて話を聞きたい」
「一昨日の事?」
「お前、思い当たる節がないのか?」
「ないが」
その言葉を聞いた下谷は呆れた様子で自身のスマホを取り出すと、動画を再生した。
「この映像に付いて覚えはないか?」
「ッ!?」
下谷が観せて来たのは、一昨日焼肉屋でサルコを殴ろうとしていた瞬間の映像だった。
「何で・・・・・・それを?」
「SNSでアップされていたのを保存したんだ。どうしてこんな事になったんだ?」
「・・・・・・サルコのヤツが俺にケンカを売って来たんだ」
「・・・・・・その言葉、本当か」
「本当だ」
睨み合いが続いた後に、下谷が ハァ〜・・・・・・。 と深くため息を吐いた。
「一応店の従業員と客、それに止めに入ったPMC達とサルコの話を聞いた限りじゃ、お前が嘘を吐いているとしか思えんが?」
「え?」
まさか俺に話を聞く前に他、の連中に話を聞いていたのか?
「お前に聞く前にその場にいた人達に会って話を聞いたんだ。話の内容を聞いた限りじゃサルコがお前にケンカを売った感じがしない。
お前が勝手な解釈をしてキレたとしか思えん」
「だけど、俺がサルコは糸風よりも劣っているって・・・・・・」
「この際ハッキリ言わせて貰おう。お前は実野妓や糸風に比べたら劣っている」
「ッ!?」
宇野元はその言葉を聞いた瞬間、怒りの表情で下谷先生を睨む。
「お前が怒ろうが暴れようが事実は変わらん。今回の件に関しての処分は後程伝えるから大人しく教室へ戻れ」
「・・・・・・わかった」
今にも爆発しそうな怒りを抑えながら教室へと向かう。そして、放課後になってようやく言い渡された処分は、何と反省文だったので俺どころかクラスメイト達は驚いていた。
こうして、宇野元は処罰を受けた。しかし、その罰則については本人も驚いた様子を見せている。一体どうしてなのか?




