1話
オリオン座を見に行く前日の真夜中、私は眠れずにいた。
原因は楽しみが4割、不安が6割だと思う。
星が大好きなあの人は、天体観察に夢中で私なんか目に入らないのかもしれない。
灯りを点ける。
机に置いてある赤いリボンで包んだ袋を手に取り、リボンを解く。さっきようやく完成した紫色のマフラー。そっと首に巻いてみる。
紫は少し変わった色だ。色の意味を調べてみると、上品、優雅、大人……どれも雨宮先輩には合わなそうな言葉が並んだ。それに普通、男の子は青や赤、黒とかグレーとかが普通だと思う。もしかしたらセンスを疑われるかも知れない。だけどどうしてもこの色で作りたかったのだ。
マフラーを巻いたままベッドに仰向けで倒れ込む。天井を見ながら呟いた。
この色をどうして選んだのと聞かれたら、こう答えようと思っていたんだ。
「宇宙の色だから。先輩はオリオン座みたいな人だから」
その後、本番だと噛みそうになるだろうから、何回か繰り返し言ってみたりした。結局、この日は眠れなかった。
「それにしても、手芸部の明日見が参加するなんて思わなかったな」
隣に座る雨宮先輩は笑う。もうすぐ高校を卒業してしまうというのに、小学生の様な笑顔だ。
私達が乗っている小型のバスは天文部の顧問、谷崎先生の所有物だ。今みたいに、仲間達と天体観測をするために大型免許を取ったらしい。
「先輩がいつも熱弁してるから、見に行きたくなっちゃいました。それに次に作る作品の参考になるかもしれませんし」私は素っ気ない風を装う。
一週間前、学年の連絡掲示板に一つの張り紙が貼ってあるのを目に【冬の星座、オリオン座を見に行こう! ~天文部~】と書かれていた。
本当は、このイベントを知った瞬間から、この日を待ち望んでいたのだけど。
「ああ! 俺は毎年写真を撮ってるが全く飽きないぞ」
「毎年こんな風に出かけてるんですか?」
「勿論。星空に同じ光景は無いよ、見るたび全然違うんだ。だから面白い」
そう言って雨宮先輩はリュックサックから一眼レフメラを取り出し、何か操作をしている。きっと今までに撮った星を見てるのだろう。
「先輩、私にも見せてください」
「だーめ」雨宮先輩は私からカメラを遠ざける。
「どうして?」私はなんだか意地悪をされたようで、気分が悪くなる。
「これから見るんだろ? お楽しみは取っておいたほうがいいぜ」先輩はまた無邪気にはにかむ……本当に無邪気な笑顔だ。
「……子供なんだから」私は聞こえない様につぶやき、窓の方を見る。どうしてだろう。これから憧れの好きな人と星を見に行くのに、こんなゴチャゴチャした気持ちを抱えてるんだろう?
――あぁ、そうだ。私はまだ引きずっているのだ。昨日見た光景や、先輩のこれからを。