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ラブホでゾクリ

車で出勤してくると


客用入場ゲートの横にある従業員用の門を


車を降りて開き、車に乗って進入後


また車を降りて門を閉めに行く


「あ、今日も元気で生えてるなー」


と、アスファルトを突き破って生えている


名も知らないちっちゃい双葉を見てニヤリとし


再び車に乗って、猫の額ほどの駐車スペースへ


と車を止めに行く


仕事用のサンダルに履き替えて


狭くて急な階段を上がり


「おはようございマース」


と声をかける


タイムカードを押して、エプロンを付けながら


その日集中的に掃除する項目の表を見ました


「サボちゃん、今日は何するの?」


私が出勤の時は大体サボちゃんと一緒になること


が多いのです


「チサイさん、おはよ。そうやねぇ今日はトイ

レ掃除と棚掃除にしよか」


お客の出入りもなく、時間のある時は空いている


部屋の集中清掃作業をするのですが、朝の業務は


その前に部屋に置いてあるポットのお湯を変える


事と階段清掃から始まります


「わかった。じゃあ、先に水換えと階段やってき

まーす」


「うんうん。私も反対側の部屋からやっていくけ

んね」


和やかに会話を交わしサボちゃんと別れます


基本的にそういった作業は一人でする事が多く、


接客などの仕事よりは格段に気が楽でした


初めは不安もありましたが


働いている人達とも円滑で、なかなか良い職場だ


なぁと思っていました


そんな、仕事にも慣れたある日


新しいパートさんが入ってきました


びぃちゃんです。40代前半の彼女はとても元気


で話好き。


性格もさっぱりしていて


すぐに他の従業員とも打ち解けました


たまに、店長には「喋りすぎ」などと


窘められることもありましたが


仕事も真面目にこなすので、大きな問題にもなり


ません


「あのねぇ、私見えるんよね」


そんな一言から始まりました


「え?何が?」


私はドキリとしました。『見える』とわざわざ言


うくらいだから皆んなが普通に見えているモン


じゃあ無さそうだなと予想しました


「アレよアレ」


まさか服が透けて全裸に見えるとか


じゃないでしょーね……


「幽霊〜?」


サボちゃんがスマホをイジリながら


間延びした声で言います


「そう!それ!」


と、びぃちゃんは元気に頷く


あ〜、やっぱりかぁ……と私は思いました


とうとう来ちゃいましたか、この手の話……


「えー、ホントに?凄いね」


と返しながらも別の話題にならないかなぁと


思いましたが


びぃちゃんはそんな私の心とは裏腹に


話を進めます


「この間もね、客室の洗面所の所に男の人立っとったんやけどー、まぁ害はないけん大丈夫よ」


「へ、へぇー」


私は当たり障りのない声を漏らす


だけど内心ビクビクしていて、


わぁぁぁ、その部屋絶対に行きたくねぇぇぇ……


と呟いていました


この後、何処そこのホテルで死人が出て以来


出るらしいとか、夜中に起きて鏡に知らない女の


人が映ったとかの話が続いて


「へー、ふんふん。そうなんだぁ、怖いね……」


と私は話に乗っていました


サボちゃんも相変わらずスマホを見ながらたまに


相づちを打っています


そして最後にびぃちゃんは


「そうそう、あの備品を置いてる棚の横にね

小さい男の子がしゃがんでいるのを見たよ」


「えっ?ココの?」


「うん、そう。あの奥の方の棚ね」


「えーっ、いつも居るの?」


「ううん、いつもじゃないけどね」


と話しました


霊がいたという事にも衝撃を受けましたが


何故にラブホに男の子?


『坊や、どっから来たの?』


多分肝の座った人ならそう聞いたかも知れません


(場末のバーのママ風に言ってもらえれば完璧)


大人の利用する所でなぜ男の子の霊が居たのか


今もってさっぱりわかりませんが


『居た』と言うのなら居たんでしょう……


何処そこに霊が出たらしい。という話は


出処のハッキリしないものが多く


四方山(よもやま)話の一環として


脳内で綺麗さっぱりスルーする事が出来るのですが


今、現実に居る場所で『あそこに居るよ』と


言われると背中がぞくりといたします


びぃちゃんに悪気は無いですし、そんなものを見


慣れている彼女にとっては


『あそこのスーパーでネギが安かったわ』


と世間話をするのと同じレベルの会話なんだろう


と思います……


私はその話を聞いてからというもの、1人で客室


にこもり、清掃作業をするのが


少し怖くなりました


朝の階段清掃なども、階段を上がりきった先の、


開け放たれた従業員用のドアの


向こうの暗がりや物陰なんかにもビクつきます


私は見えない人です。霊的なものは1ミクロンも見えません


見えないから、恐怖も増幅されるのかも知れませんね


さらに、店長もこんな事を言うのです


「夜中にカンカン物音がする言うて、客室からク

レームが来たんやけど、何やろなぁ。」


店長も流石に霊的なものとは結びつけて考えません


電器の振動かな?客室清掃の音かな?


などと現実的に対処しようとします


そのクレームは泊まりのお客からのものでしたが


わざわざ夜中に物音を立てて清掃など


するはずもありません


心の中でチラッと思ってしまっても


口にはだしません。絶対に。


"あそこのラブホ、出るみたいよ"


と悪評が立っては客足が遠のくというものです


ラブホにとって、というかホテル業界にとって


その手の話は致命傷だと思うのです


結局、私がこのラブホを辞めてしまった


直接の原因は霊にビクついたから


ではありませんが、何パーセントかは


含まれていると思って頂いて差し支えないでしょう


余談ですが、


娘が乳幼児だった頃、


あらぬ1点を指差して泣きじゃくったり


結婚前に初めてお邪魔した旦那の実家で


壁に作り付けの押し入れタイプの仏壇の前に


でっかいブラウン菅テレビが置いてあったので


「え、これダメなんじゃないの?」


と言った途端、そのテレビから火花が散って


壊れた事がありました


原因はどちらも分かりませんでしたが


娘は寝ぼけて泣いただけ


テレビは旧式だったから


部品の限界が来てたまたまタイミングよく


ショートしただけ


と私は自分で自分に納得させます


出来るだけそういったものはスルーするのが一番です


だって、それが本当は霊障の類なんかであったとしたら


めちゃめちゃ怖いじゃないですか


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