日常
「ハァ・・・ハァ・・・とりあえず間に合ったな・・・。」
文化部に所属しているため体力に自信がなく、いつもの道のりで俺は息を荒げていた。
「一季がいつもどうり起きていればこんなことにはならなかったのよ。」
ツーンとした態度で春香は言葉を放つ。しかし事実であるためなんとも言いようがなく、
「すいませんでした・・・。」
謝る他なかった。もうクラスには全員来ており当たり前だが俺たちを気にしない。
唯一気にする奴といえば、
「おいイッキ!どうした?お前がこんな時間に来るなんて。珍しいな。まさか寝坊か?」
柴田 健二 (しばた けんじ) 俺が心を開ける親友の一人で野球部所属である。そのためある程度の筋肉はある。注:俺ホモじゃないよ。髪は普通でこの学校の野球部は坊主にする必要はないらしい。
「そんな訳無いだろシバケン。俺が寝坊するなんて天地がひっくり返ってもありえないよ。」
「じゃあ今頃みんな死んでるわね。」
「コラ、余計なこと言うなよ春香!」
「ホントのことじゃない。」
くっそ。こいつは言い合いになると強いんだよなぁ、昔から。
「高2にもなって寝坊するってあんまり聞かないよ?イッキ?」
この声は、
松林 俊同じく俺の親友でいつもタブレットとノーパソを持ち歩いている。
髪はボサボサだが、本人が言うにはちゃんと毎日洗ってるらしい。確かパソコン研究会とかいう同好会に所属している。
「マツ。毎回思うんだがネットばかり見てて酔わないのか?」
「いや、ブルーライトコーティングのメガネとフィルム使っていr」
「へー、そうなんだ。」
「聞いてないよね・・・。」
こいつ、PC関係の話になると止まらないからなぁ。でもこれで話を逸らせられる。
「そういえば入学式の準備って何するんだ?」
この疑問に答えたのは春香だった。
「そりゃあ、椅子並べる程度じゃない?」
「それだけ?」
「詳しくはあたしもよく分かんないけどね。」
「ふーん。マツとシバケンは?」
聞いてみたが、顔からして分からなそうだった。
「生徒会の方が中心になって指示を出してくれるから、そんなにきつい作業じゃないと思いますよ。」
こう教えてくれたのは、
白坂 美雪成績トップクラス、しかも容姿端麗の完璧少女だ。ただ、部活には所属していない。制服も崩すことなく着ており、艶のあるロングの髪はいつ見ても川の流れのように見える。
「そうなのか。サンキュー、白坂。」
「礼には及びません。」
そう話しているとちょうど朝のHRのチャイムが響いた。
白坂の言う通り生徒会に従うだけで、あっという間に作業は終わった。
この後は各自昼食を食べて、部活動か帰宅するだけである。
飯はいつものメンバーである春香、シバケン、マツ、白坂とともに食べ、
部活はみんなバラバラなので別れた。
俺は将棋部で部室は向かい側の校舎にあった。
今思えばよく春香からは
「ジジくさい。」
と言われたもんだ。
卓球もだろと思うがそれを言えば彼女の15年間の努力を無駄にすることになるのでそれだけは絶対に言わないようにしている。
部室へはすぐ到着し、やはりいつも通り俺が最初に着いた。
現在部員は俺を含めて6人でその中で一人だけ女子がいる。
ガラリとドアが開く音が聞こえ、一人の女の子が入ってくる。
「こ、こんにちは・・・。」
小さな聞き逃しそうな声で俺に挨拶するのは、
篠木 優恵 (しのき ゆえ)ショートカットで可愛らしいがいつも前髪が目を覆っているため表情が読めない。
人と接するのが苦手で、それを改善するために部活に入ったのだという。
「おぉ、篠木。早かったな。」
「う、うん。」
そんな会話と呼べるのか分からない会話をしながらお互い部活の準備に入った。
いつもほかの部員と話すのに勇気が出ない篠木は俺と対局している。
今日もその調子だ。折りたたみ式の台とコマの入った木箱を持ち出し、互いに準備が出来たところで一礼。
今日の調子が試される一戦が始まる。
「参りました・・・。」
そう篠木が告げて、決着がつく。
しかし、俺は勝ったという実感がなかった。
(やっぱりまだできないか。こればっかりはどうも言いにくいな・・・。)
なぜこう思うかというと篠木は自ら負けようとするからだ。
正直、この一戦の中で攻めるチャンスはいくらでもあった。
だが、それを彼女は物にしようとしなかった。遠慮しているのだろう。
他人のことにずかずかと入るのはとても失礼なので俺は言い出すことができなかった。
その後も部員が続々と集まり、日常の中で数少ない変わらない時間が始まった。