干支達の夢 その九 【日本国民総猿化計画】
干支に関するショートショートです。今回は猿その1です。日本では秘密裏にある計画が進行していました。それは【日本国民総猿化計画】です。
その研究所は下町の横丁をくぐり抜け、一杯飲み屋の角を曲がっ
て三軒目の所にある。
研究所とは名ばかりで、工事現場によくある使い古したプレハブ
を只で譲り受けた、というカンジの半分朽ちかけたものなのだ。
私はここがあの【日本改革シンクタンクラボ】だとは、始めは信
じる事が出来ないくらいだった。
日本政府のある機関から秘密裏に派遣された私が、この研究室で
猿野博士の助手を仰せつかってから早壱月が過ぎようとしている。
この研究所の目的はただひとつ。それは日本国民を猿に変えると
いう、大胆不敵なものである。何でも今からおよそ12年前、時の
内閣が莫大な予算と共に、この研究所を創設したらしい。
でもなぜ日本国民を猿に変えようとしているのだろう?
誰もが持つであろうこの疑問を、この私もこの研究所の存在を知
らされた時には口に出したものだった。
「いいかね? 今までの世の中をよく見てみたまえ。皆が選び出し
た代表であっても、ちょっとでもへまをすると世の中は蜂の巣を
つついた様な騒ぎになる。例え、その人物が皆の事を本当に考えて
いたとしてもだよ? 優秀なリーダーが何かをしようとしても、自
由という名の下に、庶民はそれを邪魔する事しか考えないものなの
だ。だから我々は日本国民総猿化計画をもってこれに対抗すべく…」
「はぁ…」
説明されて、私はよく分った様な、何だか分らない様な、妙な気
分になった。が、そのうちにそうする事が正義だと思うようになっ
た。
12年間の間に、密かに水道水の中に精神が猿化する特殊な薬品を
混ぜていたという話を聞いたのは後になってからだったが、どうや
ら私にもその効果が現われているようだった。
ま、どっちにしろリーダーの言う事は絶対なのだから。
申年である今年は、この計画も最終段階へと向かっている。
あなたの周りのイエスマンも、きっと我々の計画の、ひとつの結
果なのだ。もしやあなたも?
政治的思想はありません。念の為w