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美味しいもん食べて恋もゲット!  作者: 梨香
第一章  彼氏いない歴、何年?
7/29

7  若竹煮でお疲れ様

「今日は遅番なんやねぇ……お弁当、持って行くか?」


 結花が本屋で働きだして、1ヶ月が過ぎた。本屋のスタッフには早番と遅番があり、研修期間中の結花は基本は早番だ。


 早番は9時から6時、遅番は1時から10時だが、それぞれ開店準備と閉店後のレジ閉めがある。早番の開店準備はレジのお金を夜間金庫室から貰って来たり、その日発売の雑誌などを棚に並べたりする。


 問題なのは閉店後のレジをチェックして、お金を計算してから夜間金庫に持って行かなくてはいけない遅番だ。水嶋店長が基本的には遅番で、レジの管理をしているが、店長も週休がある。


 今はもう一人の店員の上原さんが、店長が週休の時は遅番をしているが、本当はママさんなので遅番には入りたくないのだ。モールは10時閉店なので、その後でレジを閉めて、チェックしたり、お金を計算して夜間金庫に持って行くと11時近くなる。結花も遅番の時の仕事を覚えなくてはいけないのだが、水嶋店長さんの時は帰らせて貰うことが多い。


「遅番はかなわんわ~」


 昼御飯と同じおかずを弁当に詰めながら、母親は愚痴をこぼす。結花が帰って来るまで心配で眠れないと、送り迎えをしなくてはいけないから、遅番を嫌うのだ。


「今日は店長さんじゃないから、遅くなるかもしれへん。お母さんは、寝ててええよ、車で帰るから」


 そうなん? と少しホッとした顔をする。


「近くの駐車場、借りたから……」


 結花は1ヶ月5000円の駐車場代は痛いなぁと眉を顰めたが、従業員、パートはモールの駐車場は使えないのだから仕方がない。駅と駅の間にある郊外型のモールは基本的に車で行くしかないのだが、車は駐車場に置けないので駅から歩くしかない。早番の時が多いので駅から歩いていたが、たまの遅番の時は母親に車で迎えに来て貰ったりしていたのだ。


 10時で閉店して、最寄り駅まで歩いていき、そこから電車で10分なのだが、結花の家は駅から遠い。雨の日は母親の送り迎えだし、遅番の日はモールまで迎えに来て貰うことが多かった。


「駐車場代、出したろうか?」


 母親はこれで送り迎えから解放されると、ホッとして優しい言葉をかけてくるが、独立したいと思っている結花はいい! と断る。


「今日は筍づくしやねん」


 昨日、玄関に筍がごろごろしていたので、当分はこれやなぁと結花は思っていたので驚かない。筍ご飯に、若竹煮、姫皮の吸い物と、少し早めのお昼を食べて、結花は車でモールへ向かう。


 モールの横の従業員用の駐車場は12時過ぎているので、ほぼ満車で、一番遠い場所しかあいてない。


「ほんまに砂利で舗装もしてないのに月5000円はぼったくりやわ!」


 そう文句を言いながら、4月の駐車券をダッシュボードの上に置く。独立すると言いつつ、母親に作って貰ったお弁当と、ペットボトルも馬鹿にできない出費だとケチって持ってきているサーモスを入れた袋を持って車を降りる。3台離れた場所からも遅番の人が車から降りた。


『きぁあ!田邊聡クンや~』


 下の名前の漢字をゲット出来たのは、退屈なモールの避難訓練のお陰だ。各店舗から最低1名は避難訓練に参加するようにとのお達しに、水嶋店長と上原さんは既に参加したことがあるからと押しつけられたのだ。


 多目的ホールに集められて、長い退屈な話にはウンザリしたが、同じ2階のフロアだったので、田邊君と一緒の避難訓練の実技は楽しかった。参加者の名簿で聡クンだと解ったのも、結花にはラッキーだった。


「おはようございます」


 さり気なく声をかけると、聡クンもおはようと笑う。


「遅番なんや」


 二人でモールまで歩いて行くのも嬉しい! おはようと言う時間では無いが、芸能界とは全く違うのに何故か仕事に入る時は『おはようございます』と挨拶することになっている。今までは阿呆くさいと思っていた結花だか、聡クンとの挨拶は別だ。


「田邊さんは遅番が多いのですか?」


 緊張して固い話し方になる結花に、普通に聡クンは返事する。


「う~ん、半々かなぁ」


 もっと何か気のきいたことを話したいと思いながらも、恋愛経験の無い結花はテクニックがない。


「ご飯はどうしてるのですか?」


 駐車場を借りるぐらいなのだから、長時間のバイトだろうと結花は質問する。


「う~ん、食べたり、食べなかったり」


 だから、そんなに細いんだと、結花は腰回りをチラッと見る。バイトや店員さんは、フードコートで食べる人もいるが、モールには従業員用の休憩室も小さいけどある。


 結花はお金を節約したいので、お弁当を持ってきて、休憩室で食べていたが聡クンを見たことはなかった。まぁ、基本的に休憩室は主婦のおばちゃんか、店員のおじさんが多いのだ。


 じゃあ! と別れてお互いの店に向かったが、弁当を止めてフードコートに行くべきなのかと結花は少し考えた。




 今日は水嶋店長が週休なので、遅番は上原さんとだ。スタッフは結花の他にもう一人子育てを終えた主婦がいるが、山口さんも遅番は本当は嫌みたいなので、独身なので研修期間が終わったら遅番が増えるだろうなぁと考える。


 遅番の休憩を上原さんと交代でとる。店舗に店員かスタッフが常に1人はいるようにするので、あまり一緒に食べることがないのもお弁当を持参する理由になっている。


 フードコートやモールに入っている食べ物屋さんで、一人で食べるのは苦手なのだ。


「お先に~」


 休憩から帰ってきた上原さんと、交代で結花は休憩室へ向かう。従業員用の休憩室には長テーブルが何個かと、自動販売機が置いてある。


 遅番の店員がお弁当を食べたりしているが、人数はお昼よりも少ない。やはり主婦は遅番を嫌うので、どうしても夕方からは学生のバイトが多くなり、短時間なので休憩はないのだ。


 結花は誰も座ってないテーブルで、お弁当をゆっくりと食べる。お昼の筍ご飯と、若竹煮、それにお弁当の定番の玉子焼とウィンナー。


 行儀悪くスマホをチェックしながら、お弁当を食べていると、声を掛けられた。


「ええっと? 西園寺って、もしかしてサージの妹?」


 スマホから目をあげると、兄貴の友達がにやにや笑ってた。


「結花ちゃんだったよねぇ? 俺のこと覚えてない?」


 顔は何となく見覚えがあるが、名前までは出てこない。此処いい? と前に座ると、弁当箱をひろげる。


「名前、なんていうの?」


 兄貴の友達なら、平気で軽口がきける。


南部(みなべ)やんか!覚えてない?」


「ああ、ナンベーかぁ」


 年上だけど兄貴が呼んでいた名前で呼び捨てだ。


「何、してん?」


 兄貴の出身校は賢い人が多い筈なのに、何でモールで働いているのかと疑問を持つ。

 

「此処の診療所でバイトしてんねん。結花ちゃんも風邪ひいたらおいで」


 絶対行けへん! と心で毒づいて、本来なら兄貴も働いている年なんやと改めて感じる。


「サージはどうしてるん?」


 肉体労働者のような大きな弁当箱から、鶏の唐揚げをわしわし食べながら聞いてくる。


「まだ大学院に通ってるわ」


 ふぅん、とさらりとスルーするが、普通は何故? と思うだろうと呆れる。


「サージなら悪徳弁護士になって、荒稼ぎしそうやなぁ」


『チェ!これだから進学校の出身者は嫌いやねん。医者や弁護士だらけや! まぁ、兄貴が弁護士になれるか、どうかは解らんけどな……』


 結花は勉強のできる兄貴の友達まで憎く思う。



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