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美味しいもん食べて恋もゲット!  作者: 梨香
第ニ章 結花の花嫁修行
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5  甘いメロンは別れの予感?

 やっと退院した南部にお粥を作ってあげたりと、仲直りした結花だったが一通の手紙が二人の恋路を邪魔をした。


……前から海外協力隊に行きたいとは言っていたけど、今のタイミング?……


 やっと友だち以上から一歩進んだと思ったら、海外へ行ってしまう! 結花は、一応は「良かったね」とお祝いしたものの、複雑な気持ちだった。


「何だか私が自分勝手な酷い人間に思えるわ!」


 アジアやアフリカの恵まれない地域にボランティアしに行くのは立派な志だと結花も認めているが、何となく良い感じになってきた時に離れるのが悔しい。


 結花はパソコンを開いて、青年海外協力隊について調べる。


「ええっ! 基本の任務期間は三年間なん?」


 行く地域や職務によって期間も違うが、体験談とかを読んでも三年が多い。恋の蕾は膨らみかけたが、三年も離れては咲く前に散ってしまいそうだ。


「あれ? ナンベは?」


 夕方、帰ってきた兄の呑気な声に結花は脱力する。


「アパートに帰ったんよ。それは良いんやけど……あんなぁ青年海外協力隊から通知が来たんや」


「へぇ、ナンベは前から青年海外協力隊に入りたいと言ってだからなぁ」


 微妙な顔の妹に気づいて、隆は口を閉ざす。その夜は、兄弟で話が弾まないまま晩ご飯を食べた。


 次の日、もやもやした気分の結花に、巨大な隕石が降ってきた。


「西園寺さん、もう聞いた?」


 空気読めない男の田中が、もやもやを吹き飛ばす勢いで棚を片付けている結花の横にやってきて囁く。


「何をですか?」手を止めずに結花は返事をした。きっと、次の月のタイムスケジュールの件ぐらいだろうと思っていたのだ。


「まだ知らないんだ……水嶋店長から話して貰った方が良いのかな?」


「だから何の話ですか?」少し怒気を含ませた声に、田中はやっと不機嫌だと気づく。


「あのさぁ、閉店するんだってさ。俺の同期が、本店の出店関係部署にいてさ、教えてくれたんだよ」


「えっ! 本当ですか?」書店での仕事に慣れてきた結花は、困惑する。それに、二年で正社員になる約束はどうなるのだろう? 


 顔色を変えた結花の立場を思い出した田中は「水嶋店長と話し合った方が良い」とアドバイスして、その場を立ち去った。


 結花は棚を片付けると、水嶋店長を探して話し合う。


「まだ正式に閉店と決まった訳ではないけど、このモールとの契約を更新するか微妙みたいだ。賃貸料がかなり高くなるみたいで、本店は渋っているのは事実なんだよなぁ。なるべく早く西園寺さんには連絡するけど、正社員になる件は難しくなるかもしれないな」


 申し訳ないと頭を下げられると、水嶋店長のせいでは無いので結花は困る。


……これだけ大きなモールなら、また別の大型書店が入るやろう。そこで働く手もあるけど、また契約社員かバイトや……


 結花なりに頑張ってきたのが、全て無駄になった気がする。南部は外国に三年も行ってしまうし、自分は無職になるかもしれない。踏んだり蹴ったりの気分だ。


 こんな時は悪い事が重なるものだ。やっと仕事が終わり、家に帰って気持ちを整理しようとしていたら、この書店で働き出した頃、結花が一方的に恋していた聡くんがお腹の大きな奥さんとモールで買い物をしているのと出くわした。


……結婚したとは聞いていたけど、やっぱりショックやわ。あのアニメ声の女の子が奥さんやったんやな……


 荷物を持ってあげている聡くんから目を逸らして、結花は駐車場へ向かう。車は茹だるように暑く、結花は窓を全開にして走り出した。


 ゆっくりとこれからの事を考えたかったのに、旅行から両親が帰ってきていた。その上、親戚も一緒らしいと、玄関の靴を見てうんざりする。


「ただいま〜!」玄関で挨拶だけして、二階へ駆け上がる。


 エアコンを効かせて、ベッドの上に横になっていると、母親が顔をだした。


「お土産にメロンを買ってきたんやで、みんなと食べへん?」


「今日は疲れてるんや、後でよばれるわ」


 メロンは大好物だが、親戚と一緒にわいわい騒ぐ気分ではなかった。母親は、何か変だとは思ったが、下から呼ぶ声も聞こえる。


「お母ちゃんが寿司取ろうと言ってはるわ。晩御飯、食べてから解散やね」


 今晩は勘弁してほしい結花は「頭が痛んや」と仮病を使って部屋に籠った。


……お祖母ちゃん、ごめんな……


 反抗期の子供みたいな真似をしたと反省したが、今日は愛想よくはできなかった。仕事、南部、聡くんとトリプルショックを受けたのだ。


 親戚が帰った後で、シャワーを浴びた結花は、冷蔵庫で冷やしてあったメロンを一切れ食べた。甘くて美味しいメロンが、今夜は何故か舌に刺す気がする。


……南部に電話しよう!……


 閉店になるかどうかは、結花にはどうしようもない話だ。閉店が決定してから考えるしかない。それに聡君にはとっくに失恋している。今、考えなければいけないのは、南部との関係だ。



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