21 善哉を食べながら、ホッ
「ほんまに良い店、教えて貰うたわ」
「結花ちゃん、あのな……」
海岸線をドライブしながら、南部がご機嫌な結花に告白をしようとした時にタイミング悪く携帯が鳴った。
「ごめん、ちょっとええ?」
結花は携帯の着信の名前を見た途端に、少し嫌な予感がした。
「田中やぁ~、出んとこうかなぁ~」
運転していた南部は、新しい店員の田中と結花が自分のいない時に一緒に弁当を食べていたと、受付から聞いて微かに嫉妬していたが、嫌そうな声に安堵する。
「仕事の件やったら、あかんし……」
渋々、通話を推している結花が、テキパキと注文の書籍の置き場所を応えているのに安堵した。
『この通話が終わったら……』
ツイてない時は、ツイてない。
「あれ? 都やわ……」
切ってバッグにしまおうとした携帯がまた鳴りだして、今日ドタキャンした友達やねんと断って通話しだす。
「えっ、それはええけど……ちょっと待って! メモするわ……なるべく早く行くわ!」
結花はメモ帳に走り書きするのを、南部は不審に感じながらチラ見した。
「ごめん、南部さん、駅に送って!」
「ええけど、何かトラブル?」
信号待ちの間に、結花は手伝って貰うかどうか悩む。
「絶対に誰にも言わんといて! 私の友達が妊娠したんや、今日はランチする予定やったんけど、お腹痛くて病院いったら……妊娠してるって! 流産しかけてるから、今は病院で寝てるみたいやけど……親には言われへんし、どないしょう」
パニックになっている結花には荷が重そうだ。
「病院まで送って行くよ。もし、家に帰れるなら、タクシーより安心やし。入院するんなら、色々と準備するのも足があった方が便利やろ」
結花も何をすれば良いのか解らない状態なので、南部の言葉が心強い。
市内の総合病院に着いた。
「都には私ひとりで、先ずは会いに行くわ」
南部も婦人科系の病人なので、医者だけど遠慮して、下のカフェで待っている。
「御免ね……」
看護婦に案内してもらいカーテンをくぐると、点滴をしている都が少し青ざめた顔で謝った。
「そんなん、ええけど……どうなん?」
都は少し困った顔で、彼と相談すると応えた。
「点滴が終わったら帰れると思ったけど、このまま入院せんとあかんみたいやねん」
「小母ちゃんには……」
都は彼と相談するまでは言えないと首を振る。結花は本人達が決めることやと頷く。
「何か必要な物はある?」
都から入院に必要な物を書かれたパンフレットを貰い、下のカフェで待っている南部とあちこち走り回って買い揃えた。
「都の部屋にはタオルとかあるやろうけど、留守に勝手に探すのも嫌やし……」
デパートでタオルや寝巻きや下着を買い揃え、お箸や湯呑みなどは地下街のショップで手早く購入して、病院に帰った。
都は婦人科の部屋に移されていたが、当分は絶対安静が必要だと言われたと愚痴る。ミニ冷蔵庫に、下の売店から水やヨーグルトなどを入れていたら、都の彼が血相を変えてやって来たので、結花は病室を後にした。
「御免ね、こんなに遅くまで、つき合わせて……」
病室の外に出て真っ暗なのに驚くと、もう6時を回っていた。
「良いけど……お母さんは心配してないかな?」
ハッと結花は困った顔をした。
「晩御飯、食べて帰ると連絡したら?」
お言葉に甘えて、結花は母親に連絡する。
「良かったわ~、都の小母ちゃんと家の母親はツーツーやから……」
何か食べていく? とお互い顔を見合わせたが、まだお昼のが残ってる感じだ。
「何か甘いもんでも食べようか」
甘い物ぐらいなら食べれそうだと、車を病院の駐車場に置いたまま、繁華街まで歩いて行き甘味屋に入る。
「へぇ~、ここの善哉変わってる」
小さいお椀が二つ出て来て、夫婦善哉と言うのだと年配のお運びさんが笑いながら教えてくれた。結花と南部は少し照れくさい思いながら、善哉を食べる。
「美味しかったわ、ここは私が出すわ」
お昼だけでなく、買い物にもつき合わせてしまったと結花は奢ると言いきった。レジで支払いを済ませて、財布をハンドバッグにしまった時に、携帯にメールが届いているのに気づいた。
「あっ、都からやわ……きぁあ! 良かったわ! 結婚するんやって!」
嬉しそうな結花と、家までドライブしながら、南部は先ずは友達からかなと誘ってみる。
「なぁ、今度の休みに映画でも実に行かへんか?」
「ええよ」
簡単な返事に、これは意味が通じてないなぁと溜め息をつく南部だった。彼氏いない歴が終わりそうで、終わらなそうな結花は、都の小母ちゃんが『できちゃった婚』でひっくり返らなければ良いなと心配していた。