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美味しいもん食べて恋もゲット!  作者: 梨香
第一章  彼氏いない歴、何年?

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18  ゆり根の卵とじ

「水嶋店長、大丈夫なんですか?」


 インフルエンザをうつしてはいけないと、マスクを厳重に掛けて店長が出勤してきた。


「田中君もインフルエンザだと聞いて……」


 結花はチッと田中に舌打ちしたい気分だ。 出勤していた主婦のパートさんに聞いたが、田中はインフルエンザかも知れないだけで、ただの風邪かどうかまだ判定出来なかったそうだ。


「無理しないで下さい、それに移されたら困ります」


 どう見ても店長は無理そうだと、結花は考えた。


「下の診療所で点滴を打って貰うよ」


 ふらふら目眩がすると店長は診療所へ向かった。


「あのままじゃあ、家まで帰れないのでは……」


 元々、細身でひょろっとした店長が、ふらふらと手すりにつかまって歩いているのを心配そうに眺めていたが、店も人手不足なので送っていけない。


「ナンベーはいるかな?」


 結花は週末なのでいるかもしれないと、携帯で呼び出す。母親が時々ナンベーにお弁当を作るので、渡す為に携帯の番号と、メルアドを交換したのだ。


「結花ちゃん、こんにちは」


 呑気そうな声で、まだ診療所には着いていないのだと解った。


「南部さん、今日は診療所ですか?」


「遅番やから、まだ家やけどね」


 ナンベーの家からなら、15分もあれば着く。結花は店長がインフルエンザで診療所へ行ったと伝えた。


「店長さんの家は大阪市内やねん、あれでは帰られへんわ」


 どうやって来たのかも、結花には不思議に思えた。


「わかった、あんじょうしとくわ」


 呑気なナンベーも医者なんやと、すこし結花は見直した。店長をナンベーが引き受けてくれたので、人数不足の店に集中できた。


 昼からは来られるパートが何人か出てきてくれたし、夕方の学生バイトが早めに来てくれたので、結花はやっと一息つけた。


「そうや! 店長さんはどうしてるんやろ」


 薄情に忘れていたと、診療所に顔をだした。診療所は午前中の受付は12時で終わったのに、3時を過ぎてもまだ数人が待っていた。受付に水嶋店長は点滴終わりましたかと質問していたら、南部が顔を出した。


「ああ、良かったわ~水嶋店長さんは入院が必要やねん」


 インフルエンザなのに無理をして出てきて、悪化させて肺炎をおこしていると南部は説明したが、店長は入院なんてと拒んでいるのだと困った顔で説明する。


「マスクした方がええで」と、渡されたマスクをつけて、結花は水嶋店長を説得した。


「ここから家まで、どうやって帰るのですか? 第一、どうやって来たのです?」


 熱でしんどそうな店長は、タクシーでと答えた。


「タクシーで往復するぐらいなら、入院した方が安いし、楽やわ! 早く良くなって貰わないと、こっちが困ります」


 えらい言いようやと、南部は思ったが、水嶋店長も何となく納得したようだ。看護婦に入院の手続きをさせるが、診療所の本体の病院までは救急車を待たなくてはいけなかった。


「何か必要な物は?」


 家族が来るまではと心配したが、病院には売店があるからと南部は安心させる。


「それに寝巻きも貸し出すから、当分は何も要らんわ。食べれるようになったら、お箸とか要るかもしれんけど、当分は点滴やな~」


 意識朦朧としている店長に代わり、結花は緊急連絡先を見て、家族にインフルエンザで入院すると伝えた。


「すぐにお母さんが来はるそうです」


 診療所も忙しいが、病院からの救急車に南部は付き添って行ってくれた。遅番なのに昼前から出勤してくれたナンベーに、結花はお昼も食べて無いのだろうと、自分のお弁当を差し入れした。


 午後からの診察の為に帰って来た南部は、受付から弁当を渡されて、結花に電話する。


「水嶋さんはお母さんも来られたから、心配いらへんで。お弁当、ええんかな? これ、結花ちゃんの分やろ?」


 ちょうど遅番の休憩に入っていた結花は、弁当箱を返して貰ったら良いと休憩室にいると返事をした。何時もはお弁当なので、たまには買い食いも楽しいと、モールの中であれこれ買い過ぎたのだ。


「私の弁当箱だから、少し小さいでしょう。良かったら食べて」


 結花はスープとサンドイッチを食べていたが、結構ボリュームがあったので、ナンベーに勧める。


「えらい優しいな~、でもお弁当を食べてからにするわ」


 南部は買い食いには飽き飽きなので、小さなお弁当の方がご馳走だ。


「あっ! ゆり根の卵とじや!」


「私も好きなんや」


 ゆり根を薄味の出汁で炊いて卵でとじたのは、秋から冬のお惣菜だ。


「ちょっとあげようか?」


「元々、私のやわ! でも、3日前にも食べたがらええわ」


 結局、結花のお弁当だけでは満腹にならず、サンドイッチにも手を伸ばした。 


「そのケーキも要らんの?」


「もう、お腹いっぱいや」


 南部の食欲に呆れて、結花は持って帰って食べようかと思っていたデザートも差し出した。


「なんや、ダイエット中なんか?」


「失礼やね! ダイエットが必要やと言いたいんか!」 


 何やかんやと言いながら、二人で仲良く食べる。


「店長さんは何日ぐらい入院しなきゃいけないの?」


「退院は明後日にはできるやろ。でも、出勤は5日ぐらいは無理やな~かなり疲労が溜まってるで」


 結花は本店に電話をして、事情を説明する。店長と店員がインフルエンザで出勤できないと困るからだ。どうにか緊急の店員が明日から来てくれると返事が来て、結花はホッとする。


 南部はごちそうさんと言うと、週末で忙しい診療所へ帰って行った。


 

 

 

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