16 迷い焦りながらの七草粥
「芹、ナズナ、ごぎょう、ハコベラ、仏の座、スズナ、スズシロ……」
スーパーで買ってきた七草粥セットを、節をつけてチェックしている母親を恨めしく思いながら、結花は台所の横の居間のコタツで寝転がっていた。
「白粥の方が好きや……」
年末年始を休み無しで働いて、やっと7日の休みなのに、結花は風邪を引いてしまった。スェットスーツに古びた綿入れを着込んで、コタツでごろごろして折角の休日を過ごした。一日休養を取ったので、いがらっぽかった喉も治ったが、少しまだダルさが残っていた。
『明日、休みたいなぁ~』
父親も年末年始を働いていたので疲れたのだろうと、結花が寝間着のままごろごろしていても大目に見たし、コタツは出る気を失せさせる。
七草粥を匙で食べながら、3月になったら1年になるんだなぁと溜め息をついた。
「まだ、しんどいんか?」
小学生ならしんどいと言って、明日も休ませて貰うんだけどなぁと思いながら、首を横に振った。
「もう、かなり良くなったわ」
結花がサボりたいのは、風邪のせいもあるが、新しい店員が少し苦手なタイプだというのもある。前の店員だった上原さんは大人のママさんだったので、遅番を嫌がるのも理解できたが、今回の田中は独身男性なのに遅番につきたがらない。
書店が入ってるショッピングモールは10時閉店なので、本当は誰も遅番に入りたくない。学生のバイトとかは学校が終わってからの5時から10時も楽勝みたいだが、基本は店員か、スタッフが2名いないとレジを閉めれないのだ。
「水嶋店長、私が前にいた店舗では、店員かスタッフが1人いれば良かったのですがねぇ」
1月のシフト表を見て、店長に文句をつけているのに結花はムカついた。スタッフの山口が年末で辞めたので、人手不足なのだ。シフト表では水嶋店長がほぼ遅番に入っている。店長の休みの日は田中が遅番だ。
「契約社員の募集中だけど、遅番と土日祝日を出てくれる人がなかなか見つからなくてねぇ。それまでは田中君も、少し負担になるかもしれないが頑張ってくれよ」
店長に言われても、早くスタッフを雇って下さいよと文句が多い。結花にも田中はあれこれと文句を付けてきた。
「西園寺さんって、もう1年もスタッフしてるんでしょ。レジを閉めるぐらい1人で出来るでしょう。それに近くから通勤してるんだから、遅番も楽勝だよなぁ! 良いなぁ、通勤時間、何分なの?」
馴れ馴れしいのか、空気が読めないのか、結花には理解できない。
「確かに西園寺さんなら出来るなぁ」
おいおい! と結花は内心で突っ込む。
「でしょ~、開店準備もあるし、3人じゃ無理なんですよ」
開店準備は夜間金庫からお釣りを貰ってくるだけだ。
「う~ん、スタッフ雇っても当分は研修だしねぇ、少し考えておくよ」
休みの日も顔を出している水嶋店長は、万年疲労気味だ。
「お願いしときます」と悪気が無いのか、面の皮が厚いのか、結花には田中が理解できない。
『私も山口さんのように遅番は嫌だと言おうかな……そうすれば簿記とかの講習も受講できるし……後、一年で契約切られるなら、自分のスキルアップに力を入れるべきなのかも……』
1月になった途端に、受験、入学準備の書籍と入れ替えながら、結花はこの書店の仕事は嫌じゃないけど、スタッフとは名ばかりで2年で契約を打ち切られる不安定な立場なのに焦りを感じる。
『24歳……いや、誕生日がきたら25歳なのに、契約社員で良いのかな~宝くじで3億円当たったら……好きな本だけ置く本屋でもしたいなぁ』
焦りを感じながらも、実家に寄生してある結花はどこか呑気だった。




