15 あいつ蕪蒸しが好きそうやな!
クリスマスソングを一日中聞きながら、結花は絵本コーナーを片付けて、クリスマス関係の絵本を並べる。仏教徒がほとんどのなのに、クリスマスを全国で祝うのを不思議に感じているくせに、今年も彼氏無しの寂しいイブを迎えるのかと溜め息をつく。
TVでもロマンチックな夜景やイルミネーションを特集しているが、女一人で見に行ってどないやねんと虚しい。失恋したけど、聡クンがいた頃が懐かしい。
『あの頃にお母さんに彼氏いるの? と聞かれたら、気になってる人がいると答えられたのかなぁ、それとも……』
絵本コーナーに本を並べ終えて、レジへ帰ろうとした結花は、店先に置いてあるパンフレット立ての『結婚特集』というタウン誌が目に入った。お弁当を食べながら、広告がほとんどのタウン誌を見る。
『なんだか、サークルとか、合コン、お見合いパーティーの宣伝が多いなぁ』
母親のお見合い話はきっぱり断ったが、少し合コンは気になる。誰が主催者かわからない合コンに参加する根性はないが、知り合いが開くなら行っても良いというか、行きたいと思う。
『学生時代は偶には声が掛かったけど、あの頃は夢を見ていたからなぁ……白馬に乗った王子様を待っていたわけじゃないけど、合コンで彼氏を作るのは何か違うと思っていたんや……』
合コン必勝法とか、色々読んでいるうちに、自分では無理そうだとテクニック不足に気づく。
『もしかして、ずっと彼氏なんかできへんのかもしれん。生涯独身で食べていける給料を得る手段を真剣に考えなくてはいけない!』
結花は何もかも中途半端な自分が嫌になった。
「あれ? そんな特集読むの?」
別にエロ本でも無いのに、何となく南部に読んでいるのを知られたのが気恥ずかしい。
「ナンベー、何で平日にいるの?」
普段はモールの診療所でのバイトは土日祝日なのにと疑問を持つ。
「先生が風邪引いちゃって、ピンチヒッターなんだ。医者の不養生というけど、診療所はウィルスだらけだから仕方無いよ」
結花は南部がウィルスの塊に見えて、少し身を引く。
「此方はこれからクリスマス、お正月と休み無しなんだから、風邪うつさないでよ~」
言った瞬間から元旦から開業しているモールへの悪態が口に出る。
「あれ? 元旦は家で全員揃わないと駄目だとサージも言ってたけど……」
スキーやスノボーに冬休み行くのも、元旦を避けての日程だったと南部は首を傾げる。
「元旦は10時オープンやから、それまでにお雑煮食べるんや……まぁ、今年からお年玉は貰えないから、親戚の接待しなくて楽かもね」
気儘王子の兄は無事に司法試験の二次試験も合格し、年明けからは研修に入る。学生で無くなったのでお年玉は無しだ。
「えっ! 今年もお年玉貰ってたのか?」
「年末に失業したから……それに兄貴も貰ってたんやで、大学院生やったから」
南部は自分の家族では考えられないと笑った。
「そんな合コンに参加したら駄目だぞ」
ナンベーに言われる筋は無いと思ったが、何故か胸にコトンと落ちた。
「なぁ、お弁当残ってない?」
折角見直したのに、ナンベーはやはりナンベーだとがっかりする。
「全部、食べました」
そう言いながらも、風邪でも引いたら可哀想だからお母さんにお弁当を作って貰おうと結花は思った。
その日の晩御飯は結花の好物の蕪蒸しだった。蕪が玄関に転がっていたので、期待していたのだが、父親は蕪の漬け物が好きなので半分諦めてもいた。
蕪をすりおろして、巻きすの上に置いて少し水分を切る。それに卵の白みをまぜて、中にカニや銀杏などを包んで丸めたのを小鉢に入れて蒸す。ふぅわぁと蒸し上がった蕪蒸しに、別鍋のとろりとし葛餡をかけて食べるのだ。
寒い冬の夜に蕪蒸しを塗りのスプーンで食べていると、ほっこりとする。
『ナンベーの好きそうな味やなぁ~』
葛餡に少し擦って入れてある柚の皮の香りを楽しみながら、南部にも食べさせてやりたいと思った。食器を流しに運びますながら、結花は母親に南部の弁当を頼んだ。
「蕪蒸しはお弁当には無理やなぁ~」
少し洗う手を止めて、う~んと唸る。
「社員の休憩所には、電子レンジある?」
結花は慌てて、拒否する。
「いや、思いついただけやから~チンしてまで食べなくてもいいよ」
母親はなんか怪しいと、結花の顔を見たが、楽しみにしていたテレビドラマの最終回までにお風呂にはいっておこうと後回しにした。




