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美味しいもん食べて恋もゲット!  作者: 梨香
第一章  彼氏いない歴、何年?

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13  お母ちゃんの期待が篭った松茸ご飯

 楽器店が閉店し、次の鞄屋さんが内装工事に入り、店舗の前はパーテンションで仕切られている。白い素っ気ない壁には鞄屋さんの開店の日時が書いてあるポスターが貼ってあるが、結花は読む気もしない。


 書店でのスタッフとして働くのは、割と性に合っているが、やはり聡クンに会えるかもというトキメキが無くなったので、時給の安さや、立ち仕事の辛さばかりが気になる。


 その上、疲れ気味だというのに、母親に南部への弁当をことづかったのが腹立たしい。


「ええっ~! なんでナンベーの弁当を持って行かなきゃいけないのよ」


 もしかして医者の南部と引っ付けようとしている母親の策略では? と警戒した。


「南部クン、海外青年協力隊に参加したいと言って勘当されたんやて。まあ、生活に困ったら、そんな夢みたいなこと諦めるやろと、親御さんは思ったんやろ。お兄ちゃんにお弁当作ったってとは言われてたけど、あんたの早番と南部クンのスケジュールがあわなくて」


 だから、朝から豪勢に松茸ご飯を炊いていたのかと、結花は腹を立てたが、少しナンベーを見直したのでお弁当を2つ持ってきた。


「お母さんったら、ナンベーとメル友だなんてハシャいで……」


 診療所の午前中の診察時間は12時までなのだが、今日は日曜なので多分2時頃しか休憩できないと南部から返信があったと告げられて、結花もそれに合わせて休憩をとる。


 ナンベーが食べ終わった弁当箱を持って帰らなきゃいけないので、休憩室で来るのを待つ。


「結花ちゃん、ごめんなぁ~」


 2時半近くになって南部が走って休憩室にやってきた。


「別にかまへんけど、手を洗いや」


 休憩室には簡易台所があり、湯沸かしポットもあるので、店員さんなどはカップラーメンを作って食べたり、ホットコーヒーなども飲める。


「診療所で洗ったけど……」


 ぶつぶつ言いながら手を洗うと、ドンと目の前に置かれたお弁当に手を合わせる。


「いただきます~おお~松茸ご飯や!」


 結花もお弁当を食べるが、いつもとは力の入れ方が違う! と腹を立てる。松茸ご飯だけでも豪華なのに、卵焼きも出汁巻にグレードアップしているし、アスパラの牛肉巻き、蓮根のキンピラ、南瓜の炊いたの、おかずがいっぱいだ。その上、別のタッパーに梨の剥いたのも付いているのだ。


 結花だって豪華なお弁当は嬉しいが、どうも母親は兄や兄の友達に甘いと腹を立てる。


『お兄ちゃんが帰って来たら、冷蔵庫が満杯になるんやもんなぁ……私とお父さんの時は、貰い物の野菜が延々続くのに……えらい差やわ』


 行儀悪く南瓜に箸を突き刺してむしゃむしゃ食べる。南部の弁当箱は兄の高校時分に使っていた物だから、食べ盛りの男の子用だ。結花のチマッとした弁当箱の4倍は容量があるのに、南部ははぐはぐ食べる。


「美味しいなぁ~!結花ちゃん、幸せやなぁ」


 失恋したての結花は、自分が幸せだとは思えないが、休憩室で喧嘩を始めたく無いのでスルーする。


 結花は弁当を食べ終わると、さっさと書店にもどった。


 南部は久しぶりに美味しい家庭の味を満喫して、4時からの診察開始まで本を読んでいようとポケットから文庫本を出した。ほとんど読み終わった文庫本を持ってきていたので、数分で手持ち無沙汰になる。


「そうや、結花ちゃんの本屋さんへ買いに行こう」


 休憩室を出て、二階の書店へと向かいながら、元気が無かったなぁと心配していたのだ。しかし、南部は友達の妹だから、ややこしいことにならないようにと自分をセーブしている。


『結花ちゃんはお姫様やから、貧乏暮らしは無理やからなぁ……』


 そう思いながらも、結花の顔を見たいと書店へ行ってしまうのだ。




 南部の家は代々医者だし、家も立派だったが、祖父母が亡くなってからは、共働きの両親は機能性を追求した生活を送っている。病院を建て直す時に、ビルにして上を居住スペースにしているが、南部は昔の古い家の方が好きだった。

 

『サージの家は落ちつくなぁ……』


 お盆に麻雀をしに行った時に、車を運転してきた友達がビールを飲んだので泊まることになったのだ。座敷に布団を敷けば何人でも泊まれる大きな家だからと、全員が高校生に帰った気分になって枕を並べて眠った。


「天井が高いなぁ~」


 建築士になった岸田が、寝てみるとよく解ると呆れる。


「冬は寒いんや……サッシやないからな……」


 隆は眠そうな愚痴を言うと、寝返りして眠りだした。南部は、前に正月にも泊まったなぁと思い出した。それぞれ別の大学に進学して、正月に会おうとサージの家に集まったのだ。


『あの時はまだ結花ちゃんは高校生やったのかな……可愛い着物を着ていたなぁ』


 仄かに好意を持っていたが、友達の妹とつき合うのは気恥ずかしいと、封印したのだ。



 


 南部は書店でレジに立っている結花に手を振って、読みたい本を探す。


『俺は10年も好きなんやなぁ……』


 もう、高校生と大学生やないんやと、働いている結花の姿を見て、初めて気づいた。

 

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