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美味しいもん食べて恋もゲット!  作者: 梨香
第一章  彼氏いない歴、何年?

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12/29

12  里芋と団子の炊いたので一人でお月見

 結花は聡クンに彼女がいても不思議じゃないと、初めからわかっていたことだと自分を慰める。


『聡クンは格好ええもん……彼女がいない方がおかしわ』


 相変わらず遅番が多い結花と、そろそろビアガーデンもおしまいの時期なのに、シフトが早番のままの聡クンは駐車場で会うこともない。楽器店で見かけるが、バイト中なので『彼女、いるの?』なんて聞けない。


 そうこうするうちに夏休みは終わり、結花はお盆にフル出勤した休みを取った。


「結花、物干し場からススキと萩を取ってきて」


 家に居ると母親にあれこれと用事を言いつけられる。しかし、平日は友達は働いているし、夏の疲れを感じていたので、だらだらと過ごしていたのだ。


「もう月見なんかぁ、萩、咲いてるかなぁ」


 今年の月見は早いので、萩の花はまだ蕾が多いが、鷹の葉ススキと一緒に切っていく。食卓には背の高い花瓶が出してあり、結花はススキと萩をいける。


 母親が貰い物の掘り立ての里芋を台所のテーブルで剥いているのを、渋々手伝う。里芋と団子の炊いたんは結花の好物なのだ。里芋を下茹でしている間に、団子を作る。


「上新粉が売り切れてて、団子粉しか無かったんや。上手くできるかなぁ」  


 この辺では月見には里芋と団子を炊くのが風習なので、上新粉は早めに買って置かなければスーパーの棚から消えてしまう。


「上新粉と団子粉も一緒やろ」


 呑気な母親はたまに出遅れて上新粉が買えない年もあるが、さほど違いがあるとは思えない。


「でも、皆が上新粉を買うんやから、何か違うんよ」


 そうぼやきながら、団子粉をボールにあける。袋に書いてある水を少し残していれると、ちょこっと砂糖を加えて混ぜる。


「砂糖をちょこっと入れたら、冷めでも固くならへんねん」


 やっぱり固いかな? と残しておいた水も入れる。


「結花も手伝って、この大きさに丸めるんやで」


 沸騰したお湯の中に里芋より少し小さめの団子を丸めて落としていく。


 ふぅあ~と浮き上がった団子を網杓子で氷水を入れたボールにすくって入れていく。その間に、母親や下茹でした里芋を出汁で炊いている。


 味醂と砂糖と酒を初めに入れて、ひと煮立ちしてから醤油と少しだけ塩を入れる。里芋に味がついた時分に茹でた団子を入れる。TVで見る月見団子とは大違いだが、みたらし団子に味は近い。

 

 結花は、月見団子はお菓子屋さんで買う物だと思ってる。何故なら、結花が思い浮かべる月見団子は、白い楕円形の団子を漉し餡で真ん中だけくるんだ物だ。よくTVで見るピラミッドみたいに積み上げている月見団子をどうやって食べるのか見当もつかない。


 里芋と団子を炊いてるうちに、一口大のまん丸のおにぎりを作る。塩を手に付けて丸めては、白ゴマを入れた大皿で転がす。それを他の大皿にピラミッド型に積み上げる。


 一旦、廊下のお月様が見える場所に、小さな文机を置いて、その上にススキと萩、月見団子、芋と団子の炊いたの、ゴマ握りのピラミッド、それと丸い梨をこれも高く積み上げる。


 父親が帰ってくると、ゴマ握りと、芋と団子の炊いたのは、下げて食べるのだ。食後には月見団子も食べるので、お月様へのお供えはススキと梨だけになる。




 お風呂上がりに、廊下にポツンと残されたススキと梨の隣に座り込んで、まん丸のお月様を眺める。初めてハローワークで会った時から半年、告白もしないままで失恋しそうだと不甲斐なさに苦笑する。


「振られるのは確実だけど、気持ちだけでも伝えよう!」


 相手にとっては迷惑だろうし、気まずくなるかもしれないが、諦める前にちゃんと告白しようと決意する。


 

 しかし、なかなかチャンスに恵まれず、9月も残り少なくなってきた。遅番の休憩を終わり、店に帰ろうとした結花は、スモーキングブースで一人で煙草を吸ってる聡クンを見つける!


 場所はイマイチだけど、こんなチャンスはない!と、スモーキングブースの自動扉の釦を迷わず押した。


「あれ? 煙草吸ったっけ?」


 スモーキングブースの周りに取り付けられているポールにクッションを巻きつけたのに、腰を掛けて聡クンは顔を見ながら笑いかける。


 結花は何から話そうかと、頭が混乱して変なことを言ってしまう。


「コンサートしたの?」


『先月、休憩室で学生バイトの女の子が話していたのを、今更持ち出すなんて、あほ! やわ……』


 自分の気のきかなさに、穴を掘って入りたい気持ちになる。


「へ~、よく知ってるねぇ? そうだ、西園寺さんには話したいことがあったんだ」


 えええ~? と結花はもしかして、ストーカーだと嫌がられているのかとパニックになった。


 ちょうどお客様が何人もスモーキングブースに入って来たので、聡クンは煙草を消すと、立ち上がって結花の側に来る。


「今日は遅番なんだよね、終わったら駐車場で……」


 一瞬、結花はもしかして、聡クンに自分の気持ちが届いていたのかな? と期待したが、ぶるぶると頭を振って、そんな都合の良い展開は望んじゃ駄目だ!と戒める。


『やはり、ストーカーを止めてくれ! と言われるのかも……』


 休憩後、明日発売の雑誌に付録を挟んでゴムで止めながら、頭の中は聡クンの用事は何だろう? と、そればかり考えていた。


「西園寺さん、確かピアノの楽譜をよく買ってましたね」


 水嶋店長の問いかけに、一瞬、聡クンが楽譜を買うといっては店に来るのは迷惑だと言ったのかと、パニックになりかける。


「そんなに買ってません!」


 何回か、休憩後に楽譜を買って荷物置き場に置いていた筈だがと、水嶋店長は首を傾げた。


「でも、ピアノは弾けるのでしょ? 今度、家の店に楽譜を少し置くので、西園寺さんに注文書を書いて貰いたいのです。私は音楽はサッパリで……」


「楽譜なら楽器店に置いてあるから、少しだけ置いても無駄では?」


 水嶋店長は楽器店は今月で撤退するので、楽譜も取り扱うのだと説明するが、結花の頭の中は聡クンと会えなくなる! ということしか考えられない。


「売れ筋のはコンピューターでわかりますが、全部は置けないのでチョイスして下さい」


 水嶋店長に、わかりましたと答えながら、結花は聡クンが話したかったのは、この件なのだと思った。


 付録を挟み終わり、コンピューターで楽譜の売れ筋を調べ、水嶋店長にどの程度のスペースを考えているのか質問して注文する。


 聡クンのバイト先の楽器店には、田舎には珍しく楽譜が揃っていたが、あまり売れてなかったのかも?と考える。


「練習曲を集めた本を置いて、人気のあるメジャーな楽譜だけで良いと思います。後の楽譜は注文書のパンフを下げて対応しましょう」


 近頃はネットで何でも手に入る時代なので、本屋も厳しいなぁと実感した。



 結花は、仕事を終えて、ドキドキしながら駐車場へ向かう。少し欠けた月が駐車場に残っている遅番の人の車を照らしている。


 聡クンは先に仕事が終わったのか、結花の車の横に止め直していた。


「ごめんなさい、待ちましたか?」


 結花に気づいて車から降りると、小さな紙袋を差し出した。


「今度、東京へ行くんや。ちょうどバイト先も閉店するから、踏ん切りがついたんや。で、前にチケット代いらないと言ったけど、まぁ、お礼のつもりなんや……」


 やはり、ただの知り合いでしかなかったんだと、結花はがっかりする。ストーカーを止めろ! と言われるのではないかとも心配していたが、それでも、呼び出されたのだから、もしかしてと期待をしていた。


「ありがとう、よかったのに……私、聡クンのこと好きやったんや……」


 聡クンは、何となく感じてたと照れくさそうに笑った。


「ありがとう、でも、西園寺さんにはもっと良い人が似合うわ」


 きっぱりと失恋して、結花はすっきりしたと言いたいが、ぐずぐずと泣き明かして熱をだした。


「お母ちゃん、熱あるから休むと電話して……」


 休む程の高熱ではないが、今日はバイトなんか行きたくない。


『失恋したんやなぁ……まだ始まってもなかったけど……』


 髪の毛をばさりと切りたくなったが、熱で休んでる筈なのに、ヘァーサロンへ行ったとバレると諦めてふて寝する。



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