暇つぶし
――そう、僕達は気がつかなかったんだ――
「マルスッ!?何をしているの!?早くこっちに来なさい!!奴らが、『レビィ』が来ているのよ!?」
――運命とは、かくも残酷で――
「・・・ごめん、それは出来ないんだよレイ・・・。僕は、ここで奴らを食い止めないといけない・・・」
――決定的で――
「何言ってるのよ!貴方がここで犠牲になったら、誰がクラウンを率いるって言うのよ!?」
――悲劇的なのかを・・・――
「大丈夫さ・・・。僕がいなくても、君やロン、それにアレン達がいる・・・。だから、僕は安心して奴らとの決着を皆に任せられるんだよ」
「っ!?・・・約束して」
「・・・」
「絶対に・・・絶対に、最後まで『生き残る事』を諦めないって・・・!」
「・・・うん、善処するよ」
「善処じゃダメよ!絶対に、絶対に生きて帰ってきて・・・!」
「・・・そうだね、ごめん・・・。こんなに後ろ向きなのは僕らしくなかったね・・・。ねえ、レイ」
「・・・なに、マルス・・・?」
「・・・クランのミートパイ、凄く美味しいよね・・・」
「・・・うん、そうね」
「僕、帰ってきたら、クランのミートパイが食べたいんだ」
「っ!?・・・ええ、クランに頼んで、一杯、作っておいてもらうね・・・!」
「うん・・・。じゃあ行って来るよ・・・。早く、レイも逃げてね?」
「えぇ・・・。マルス」
「・・・何?」
「・・・何でもないわ。次に、マルスが帰ってくる時に、言うね・・・」
「・・・分かったよ」
「・・・」
「・・・早く行って。奴らが来る前に!」
「・・・ええ!」
そしてそこで少年と女性は別れる。しかし、その両者の目元には、何やら光る物が見えたとか・・・。
「レイ・・・」
「マルス・・・」
「「大好き、だよ(よ)・・・」」
その後、その少年がどうなったかは誰も知らない・・・。風の噂によれば、かの少年は、一人で1万の大軍と戦い、そして力尽きたと聞く。しかし、1万の大軍の内、その半数の5000人を討ち取り、3000名あまりを戦闘不能にし、結果、『レビィ』の進行を妨げ、大きなダメージを与えた。
そして、戦いが終わり、かの少年を待つ一人の少女が、毎日、彼が死んだとされる遺跡を訪れ、彼の死を労わる為に、唄を歌っているそうだ・・・。
しかし、誰一人として、唄を歌うレイと呼ばれた女性を見た者は居らず、しかし、直ぐ傍で歌が聞こえる為、気味悪がり、何時しかその唄は、旅人を迷わす魔性の唄と呼ばれるようになった。
ほら、また今日も、愚かな噂に騙された旅人が、その唄を聴きに、遺跡に足を踏み入れた・・・。
『ねえ、マルス・・・。貴方は何時になったら、帰ってきてくれるの?私、何時までも、待ってるよ・・・貴方の帰りを』
「って話を思いついたんだけど、どうかな亮」
「いやマジ意味分からん」
そう言い、俺は俺の目の前で自作の妄想小説?の感想を聞いてくるバカを目線から外す為に後ろを向こうとする。
しかしその行動に待ったをかけるかのようにそこのバカ・・・俺の友人の遊里が肩に手をかけてきた。チッ。
「おい!何感想も言わずに後ろを向こうとしてんだよ!それにバカって何か言いうんだこの野郎!!それに舌打ちすんじゃねえよ!!」
「てめえ何俺の素の文読んでんだよバカヤロウ。それにお前はバカだから良いじゃねえかバカヤロウ。て言うか、お前の自作妄想乙小説になんて全く興味ねえんだよバカヤロウ。俺はさっさとかえりてーんだ」
「バカヤロウ言いすぎだろうお前!?俺たち一応親友だろーが!!親友相手でも言って良い事と悪い事があるだろうが!?」
「そんなんしらねーよ・・。取り合えずさっさと帰らせろよ・・・。今日は俺が飯の番なんだからよ」
「それでももう少し言い方があるでしょうが!?・・・はぁ~、もう良いよ。じゃあまた明日な亮。キチンと時間通りに来いよ!」
「人を遅刻魔みたいに言うんじゃねーよったく・・・。じゃあな」
そして俺は家路に着く。
しかし、この時俺は知らなかった。
まさか、この日が、俺の穏やかだった日常の最後になるなんて。
「何て、戯言か・・・」