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エピローグに候

最終話です。

最後まで、楽しんでいただければ幸いです。

「そんな感じだ」


「ちょっと、待て、親父!お袋が魔王で、親父が侍って、なんだよ!」


 と、今日十八の誕生日を迎えた三男の三樹(みつき)が大きな声を上げて、椅子に座る俺の襟首を掴み、前後左右にと振り回す。


 こ、これはさすがにきつい。


「あっ、それ本当」


 そこに黒髪の長い髪をポニーテールにした長女の一枝(ひとえ)が声を掛けてくれ、三樹の動きが止まる。


「姉ちゃんが、厨ニ病に!?」


 三樹が顔に愕然とした表情を浮かべ、俺の首元を持つ手が緩む。解こうかとも考えたが、今手を放されると膝の上の二葉が落ちるので我慢である。


「私、今年で百四十四だし」


 一枝の実年齢の暴露に、三樹の顔から表情が無くなる。


「え?この間二十八歳の誕生日だったよね?」


「私は永遠に、ハ・タ・チなの」


 一枝もこれ以上、年齢のことを話題にするなら潰すと、弟を赤みがかった黒い瞳で一睨みする。


 言っていることが、矛盾だらけなような気がするが、ここは黙っておく。娘からあんな目で見られたいとは思わない。


 しかし、あのときのマリを彷彿とさせる目である。この子にも魔王の素質がと父親ながら心配である。


「ほら、思い出してみなさいよ。小さい頃からこの姿で相手してたでしょ」


「…」


 睨まれていた三樹は、金魚のように口を開いたり閉じたりとしている。顔は金魚の赤ではなくむしろ青だが。ちなみにだが、三樹は赤眼の黒髪だ。


「まあ、俺なんか百十三だし」


「ちなみに、僕は八十歳だよ」


「…」


 続いて、長男で茶眼金髪の一織(いおり)と次男で茶眼黒髪の二哉(ふたや)も暴露。


「ちなみに、パパは百六十四で、ママは千に…永遠の十八歳よ!」


「一人だけ桁が、


 「Il peut être impressionné!《彼のものを吹き飛ばせ!》」


ぶふぁ」


 子供たちに続けとばかりにマリが、言葉を繋げたが自分で気にしていた部分を言いそうになり思わず言い替える。しかし、復活した三樹が無謀にも突っ込みを入れ、問答無用で魔法で真上に吹き飛ばされ天井に叩きつけられてから、今度は地面に顔面から落下する。


「…俺の家は、いつの間に摩訶不思議のイタイ家族になったんだ!」


「お前の生まれる前からだ」


「…」


 鼻を赤くして大声をあげる三樹に、俺は率直な答えを返すとまたもや硬直する。そういう反応が、家族からからかわれていると理解していないあたり、まだまだ子供なのだろう。しかも、たった今、魔法を行使されたにも関わらず気付いていない。これは単にマリの魔法の賜物だろう。


「ねえ、三樹。不思議に思わない?今、母さんが魔法を使ったのよ」


「だって、昔か、ら…昔から…あれ、そうだ姉ちゃんたちも魔法を使ってた?」


「たく、ほら。こっち来なさい」


 混乱の極みに達したのか。ほとんど思考が追いつかなくなっている三樹を呼び寄せる一枝。そして、自らの右手の人差し指を三樹の赤い鼻に当て呪文を唱える。


「Guérir est donné《彼の者に癒しを》」


 一枝の人差指に深緑の魔法陣が浮かび上がると、三樹の赤くなった鼻が元の肌色に戻ってゆく。


「魔法…魔法だ」


「そう、魔法よ。貴方には、二葉と同じ小学生に上がるまでの間にだいたいの魔法を教えてあるわ」


 一枝の使った回復魔法にある意味感動している三樹に、マリが話しかける。二葉とは、一番下の次女のことで、金髪赤眼の六歳児である。目下、俺の膝の上でケーキと格闘中である。


「でも、俺、魔法を習った記憶がない」


「そらそうよ。暗示による封印をしてるもの」


「何でまた」


「だって、そんな力があった人に自慢しちゃうでしょ」


「た、たしかに」


 そう子供というのは、他人が知らないことや自分の優れているところを自慢したくなるものである。年を重ねた俺でも、ある衝動なのだ。それを幼い子供に抑えろと言って、抑えられるものではない。


「昔、どこぞのバカ娘がやってくれたから、気付いたことなんだけどね」


 マリは、そう言いながら一枝を流し見るが、一枝は明後日の方向へ目を向ける。


「ほら、裏庭に溜池があるだろ」


 二哉が、三樹に話しかける。


「ああ、あの馬鹿に広い」


 我が家の裏には、たまに鮭が迷い込んでくる大きな溜池がある。


「あれが、姉ちゃんがやらかした(あと)なんだって」


「は?」


「なんでも、母さんの得意な風系の上位魔法を、姉貴がアレンジして雷系の上位魔法をぶっ放したらしい」


 一織が二哉に続けて、説明をしていく。


 忘れはしない。あれは、一枝が六歳を迎える前。外に出ることもできず、深い雪に覆われており家内で草鞋や道具などを作っていた。


 外は珍しく晴天で、雲一つない冬のお昼時、世界を白く染め上げる閃光と遅れて轟く地面を揺るがす程の轟音が裏庭に落ちたのだ。まさに青天の霹靂。


 急ぎ、裏勝手に回って見たものは、家の勝手口から呆気にとられ外を見るマリ。そして、どでかいクレーターを前にはしゃぎまわる一枝の姿だった。


「あなたたちは、生まれてなかったから簡単に言ってくれるけど、大変だったのよ。深い雪の中、ご近所さんは何事か集まるし、そこにあった森に火が点いて、大火事になりかけるし」


 そのあと、マリは魔力の限界を感じるほどに奔走した。数キロ先から集まるご近所さんに暗示をかけ、燃え広がろうとする火を魔法で消す。おまけ程しか魔力を持たない俺には、成すすべはなくマリに任せるしかなかった。


 ヘトヘトになって戻ってきたマリと話し、一枝に魔法に関することは家族間では当たり前の認識にさせ、使える魔法に制限を掛け、他人には魔法のことを話さず、使わないように暗示を掛け、大丈夫と判断した際に解除することを決めた。その後試行錯誤の結果、小学校を上がると同時に魔法に関する記憶に封印を掛け、魔法に意識が行かないように暗示を掛ける方向に修正を加えた。


「じゃあ、俺も魔法が使える?」


「ええ、使えるわよ。魔力総量も私と変わらない位には、まだ伸び代もあるだろうし」


「そ、そうなんだ」


 まあ、魔力の総量などと言われてもピンと来ないだろうが、今はそれで良い。さて、話を戻すとするか。


「でだ、三樹」


「ん?」


 少し上の空になっていた三樹が、此方に目を遣る。


「お前には、高校卒業後に『ガルシオ』に渡ってもらう」


 そこで、はっと顔に驚きの表情を浮かべる。どうやら気づいたようだ。


「ま、まさか掃除をするっていうのは?」


「そう、私の魔王城!ちなみにこの会話は、自動的に封印されるから悪しからず」


「え?」


 マリの言葉に絶句する三樹。


「だって、逃げちゃうでしょ」


「…」


「大丈夫、大丈夫。向こうに着いたら魔法も含めて思い出すから。さあ、段々眠くなるぅ~」


 マリは、どこからともなく、五円玉のついた紐を三樹の前で左右に揺らす。


「ま、まて、お袋。なんでそんな古典的な!」


 三樹よ、突っ込むところが、違うと思うのだが…


「ん~、様式美?Donnez-lui sommeil d'oubli《彼の者に忘却の眠りを》」


「なぜに疑問形ぇぇ…zzz」


 眠りに落ちた三樹は、この三カ月後の卒業式の日の就寝中、家族に温かく見送られ、地球から姿を消すこととなる。




 おわり?

この話で、『拙者、異界から嫁を貰い候』を完結となります。

最後の方の話が飛んでいるように見えるのは、仕様です。

元々は、別で書いていたモノのスピンオフだったのですが、こちらが先に纏ったので、試しに投稿してみました。いつか本編も投稿したいと考えておりますが、いつになるやら…

では、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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