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プロローグ2

主人公登場。


プロローグ2 転入生


「隣町の時葉町から越してきた八神清司って言います、これからよろしく」

 転入一発目の爽やかスマイル……クールに決まったぜ。

すげー金髪、校則違反じゃん。

後ろの方の席にいた男子生徒が俺を見てそう言った。

地毛だよバカ。

目が青いね、日本語喋れるのかな?

校庭側一番端前から2番目の席に座る女子が隣の生徒にそう話しかける。

今ちゃんとぺらぺらの日本語で名乗っただろ。

やれやれクールじゃないなこいつら。

「はい、というわけで今日からE組のクラスに入ることになった八神君だ。皆仲良くしてやってくれ」

 公立辰巳高等学校1年E組。

外からの蝉の声が響く教室内教卓前、俺はかっこよく自分の自己紹介を終え、自分をじろじろと品定めするような目で見る女子達の顔を観察する。

うむ、このクラスはなかなかレベルが高いな……。

クールな俺に似合いのレディ達ばかりだ。

みんな熱い視線で俺を見ている!

見てる……けどさ……。

「時葉町から……」

 廊下側真ん中一番前の席、つまり今俺に一番近い席にいる女子にまさか体を前に乗り出してこんなにガン見されるとは思ってなかった。

何だこれ? なんで俺転校初日で会った事も無い女子にこんな見られてんの?

前髪に花のヘアピンを付けた黒髪セミショートの女子は尚も俺の目を真っ直ぐに見つめる。

「あの時葉から……ふふっ、興味深いわ」

 なんかぶつぶつ言ってるし。

俺の本能が告げている。

こいつと関わるのはクールじゃないと。

「あの、先生……?」

 彼女の視線に堪らなくなり、担任に救援を求める俺。

「ああ、そいつか? 気にしなくていいからそこの空いてる席についてくれ」

「えぇ!? あ、はい」

 俺の救援要請をあっさり流した中年担任教師が指差したのは校庭側真ん中一番前の席、つまりヘアピン女の隣……。

言われた通り席に着くと女の首は俺を追尾するようにゆっくりと校庭側を向き、再び俺をじっと見つめた。口元はうっすら笑みを浮かべている。

気にしなくていいからって……無理あんだろ!

それから十分間――。

俺は担任が「最近ひったくり事件が増えてるから皆気をつけるように、以上」と言って朝のHRの連絡事項を生徒達に伝え終えるまでヘアピンを付けた女の視線に耐えることとなった。

「起立、礼」

「「「ありがとうございました」」」

 朝のHRが終わると同時に俺は教室を出る。

とりあえずあの女のいない所へ行きたかったからだ。

本当なら今頃クラスの女子の何人かにつば付けとくとこだが、あのガン見女の視線には耐え切れん。

担任の様子から察するに普段からああいう感じの奴なんだろうけど。

適当に廊下を歩いていると校内に設置されている自販機を見つけたので缶入りのトマトジュースを一本購入し、ヘアピン女への緊張でからからになった喉を潤す。

「それにしても何なんだあの女」

 もうすぐ一限の授業が始まるためトマトジュース缶の蓋を開けを一気に飲む。

「ねぇねぇ清司君。せーいーじー君?」

「ぶっ!」

 口いっぱいに含んでいたジュースを盛大に吐き出した。

我ながらクールじゃないが今はそれどころじゃない。

いつの間にか満面の笑みを浮かべたヘアピン女が俺の横に立っていたからだ。

「何だお前!? まさか俺をつけて来たのか!?」

「うん、そうだよ」

「そうだよじゃねぇよ! 何なんだおまえ?」

「私? 私は翠。辰巳高校ボランティア部、副部長の蔵島翠だよ、よろしくね清司君」

 ヘアピン女改め倉島翠は自己紹介を終えるともう一度白い歯を出してニカッと笑った。 はてボランティア部?

委員会とかなら知ってるけど部活動でボランティアする学校もあるんだな。

つかこいつ初対面でいきなり下の名前呼びかよ。

「ハッ」

 い、いかん。

取り乱しているぞ清司。

クールにクールに……だ。

「オホン……で? そのボランティア部副部長のレディが尾行してまで俺に何の用だい?」

「おぉー! 私レディなんて初めて言われたよ。 よし、今度から私の事はビューティフルレディー翠ちゃんって呼んで」

「俺の質問に答えてね倉島さん」

「ぶー」

蔵島は頬を膨らませて不機嫌な顔を作る。

「話が進まないな」

 ホントに何なんだよこいつは。

「清司君って綺麗な金髪だよね、染めてるの?」

「いや地毛だけど」

「なるほど、やっぱハーフなんだ、だから目も青いんだねぇ」

「それどんな納得の仕方だよ。わざわざそれ聞きにここまで来たの?」

「違うよー」

「なら何しに来たんだ?」

「うん、えっとね?」

 大げさにひとつ間を空けて蔵島は言った。

「清司君って『時葉町』からきたんだよね?」

「……そうだけど?」

「その時葉町で最近起きた殺人事件は知ってる?」

 笑顔の蔵島と質問に質問で返す会話が続く。

「知ってる。一応自分が住んでた街だしな」

 俺が更に聞き返すと蔵島の顔から笑顔が消えた。

まるで別人のように真剣な眼差しで蔵島は言った。

「何か事件に関わるような事知ってたら教えてくれないかな?」

 何でこいつこんなに必死なんだ?

「いや、悪いけど俺もテレビや雑誌で見た程度で詳しい事は知らないな」

「そっかぁー」

 俺の返事に蔵島は肩をがっくりと落とす。

察するに事件当時まだ時葉町にいた俺なら何か知っていると思ったのだろう。

「ご期待に添えず悪いな」

「ううん、いいの。こっちこそ急にごめんね」

「いいさ。それより何でそんなに事件の事知りたがってるんだ?」

「それは――」

 そこで廊下天井に設置されたスピーカーから授業開始5分前を告げる予鈴が響く。

「あっと、もうすぐ授業始まるね」

「え、ああ、そろそろ戻らないとな」

 重要なところで話をはぐらかされて肩透かしをくらった気分になる俺。

とりあえず今度こそジュースを飲み干そうと残りを一気に口に流す。

「ああーーっ!」

「ぶばっ! ごほっ、ごほ」

 蔵島の突然の絶叫に再びトマトジュースを吹き出した。

しかもちょっとむせた……。   

「今度はどうした!?」

「いやー、すっかり忘れてた。私今日、日直だったよー」

 表情がコロコロ変わって忙しい奴……。

「という訳でお先にドロンするね、さらばじゃ清司君!」

 そう言って蔵島は教室の方へ走り去る。

「つか今更だけどよかったらクラスの女子とか俺に紹介して――」

 って、聞いてないなあれは。

 転入初日に変な奴と知り合いになっちまったかな。

クールじゃないぜ、全く。

「それにしても……詳しい事は知らない……か」

 そうさ、あの返事の仕方でよかったんだ。

殺人事件なんかとはまるで遠い所にいる高校生だったらきっとああいう反応しかしないだろう。

名前も知らないような奴が死んだって、所詮テレビの中のお話な今時の学生はああいう反応しかしない。

自分の異常に速く脈打つ鼓動に俺は必死に頭で言い聞かせる。

 俺は何も知らない。

俺は何も関係ない。

「予鈴に救われたな」

 自販機の横にあるゴミ箱に空き缶を投げ入れる。

「そうさ、俺は何も知らない関係ない」

 俺はただ、クールに普通の学校生活を送るだけのクールな男子だ。

 不安に脈打つ心臓を無理やり落ち着けて、俺も教室へ向けて歩き出した。       時葉で起きた殺人事件。

まだ犯人は捕まっていないこの事件に今、ネットなどで奇妙な噂が流れている。

 時葉殺人事件の犯人は怪物である。という内容の噂だ。



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