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弟子の気持ち、幻想のカタチ

「ぐうっ!」


 冗談のような重さの一撃。いくら超重量の武器だとは言え、これは流石に洒落になっていない。

 幾合打ち合ったか。己の細腕に今少しの膂力があれば、と思い、しかしその思考を放棄した。


「どうした魔王。未だ雑兵の首一つ取れんのか!」


 挑発するように声を発する。勇者は未だに立ちあがる気配がない。魔法使いは後方支援故に、接近されればどうにもならない。ならば、自分が盾となり、矛となり、魔王と打ち合うしかあるまい。


「ふん、口だけは一人前になったか」


 何故、挑発を受けても嬉しそうに目を細めるのか。調子が狂って仕方がない。なれど、己がやることはただ一つ。愚直なまでに前へ踏み込み、腕を振るう。それだけだ。

 交わし合う言葉など不要。

 一挙手一投足が、我らの会話。

 そうでしょう、我が師よ。


「フッ―――!」


 呼気を吐き出す。地を蹴る。肩を入れる。右腰に吊り下げられた愛剣の柄にそっと指をかけ、正面を見据えた。巨大な鎌の刃が見える。こちらの踏みこみに合わせて繰りだされた一撃。こちらの頭頂部から両断するかのような、死の軌跡。

 速い。が、追い切れぬ速度でもない。半歩、左にずれる。死線に己の身を置いたままだ。刹那の待機。そして抜刀。

 まさに電光石火。雷ですら斬り伏せられると自負している、抜き打ち。



 ――――ゴ



 まず柄尻で鎌の刃を側面から叩く。遠慮することはない。思い切り、振り抜くままに、ぶち当てる。いなし切れず、右肩を少しばかり抉られたが、行動に支障はない。



 ――――ギ



 反発し、跳ね返る反動のまま、再度刃を鞘へと返す。更に半歩、足を踏み出す。無理な制動、挙動に右肩が悲鳴を上げるが、当然無視だ。



 ――――ィッ!



 ようやくこちらの射程圏内に入った。緊張を解放する。


「―――おあぁッ!」


 怒号と共に鞘から白刃が姿を現す。確実に首を取れるタイミング。光すらも超えたのではないかと思える一撃は、確かに魔王の首元へ走り、しかし、避けられた。瞬時に身を屈めた魔王と、同じ高さで視線が交差する。

 瞬間、視界が翳る。


「見事。じゃが、甘いのう!」


 魔王の手だと認識するも、一瞬遅い。額から後頭部まで突き抜けるような衝撃。瞬く間に消し飛びかける意識を、唇を噛み切る痛覚で呼び戻す。頭蓋ごと破壊されるような衝撃にしかし、身を任せる。緊張は、力を受け流せないのだから。

 浮遊感と、凄まじい加速感。きっと、面白い速度で宙を飛んでいるに違いない。だが、致命打を回避すればこちらのものだ。


「っと」


 身体を折り畳むようにして後方へ足を振り、接地。徐々に力を入れながら制動をかける。広い部屋の地面を削りながら、壁に当たる寸前でなんとか静止した。

 追撃をかける素振りのない魔王を見据え、口元に笑みを浮かべる。

 貴女の教えで、私は完成した。

 最強の敵として、貴女に対峙しよう。


 ―――さあ、余すところなく、魅せつけなければ。




 侍が斬られたと思ったが、鈍い音がしただけだった。一瞬後には吹き飛んでくる始末。ああ、音の速度を超えたやりとりだったのね。訳わからないけど。


「次はあたしって事かな。まあ、適当に」


 何て厭味ったらしい。追撃をかけることもなく、悠然と鎌を構え直して。あんまり目が良くないから見えないけど、はっきりと視線を感じる。…はいはい、やってやりますよ。仕方ない。


「一番!二番!飛んで五番!」


 二節以上は省略。かなり大きな威力でも、簡単にイメージ出来る。そういや、アンタが教えてくれたんだっけ。ま、あたし天才だからそのうち自分で気付いたけどね。

 特大の火球、特大の氷柱、特大の雷光。どうせアンタにゃ効かないんだろうけど、目暗ましとか足止め程度なら十分。


「さあ来い。アンタはあたしの駒。駒は主人の言う事を聞きな!」


 詠唱はイメージの手助けに過ぎない。固定概念に捕われることは、己の限界を決めつけるのと一緒だ。あたしに限界なんて、ない。



「来なァ!―――ーレヴィアタン!!」



 洒落にならない量の魔力が吸い上げられてゆく。本番一発勝負とか、あたしにしては結構大きな賭けだけど、まあ何とかなる。いや、してみせようじゃないか。

 大気にはマナという名の魔力が漂っている。定義したのはどっかのお偉いさんだろうけど、あたしたちはそんなモノがなくても感じ取り、観ていた。そう、常に観測していたのだ。でも、自分の中のそれとは違って得体がしれないから、あたしは使いたくなかった。

だけど、それは間違い。マナは、いつでも公平で、中庸な存在なのだ。使いたければどうぞご自由に、とのたまっておいでだ。

 だからこそ、己のイメージを焼き付けてやる。アンタらはあたしのモノ。あたしがしたいことを、手伝うのは当然。持ってるモノ全部吐き出して、あたしに従えばいい。

 ここら一帯のマナを全て従属させ、呼び出そうとするイメージに注ぎ込んでゆく。徐々に姿を現すなんて、そんな湿気たことは言わない。一気に、華麗に、呼び出してみせようじゃないか。

 果たして、広間を揺るがす程の轟音を撒き散らし、それは現れた。巨石の如くそびえる、巨大な竜。



『呼び声に応え、我顕現せり。主に従い、万象を制覇する者也』



 漆黒の体躯を震わせ、それは咆哮する。硬い鱗に覆われた翼を大きく広げ、平伏せとばかりに雄々しく吠えた。


「神獣ですら使役するとはの。ふふん、楽しめそうじゃ」


 魔王にはまだまだ余裕があるらしい。憎たらしい。もうちょっと驚いたらどうよ。まあ、この子も本格的な時間稼ぎの一種に過ぎないわけだけど。


「吠え面かかないようにすると良いわ。その子、割と気性荒いから」


 売り言葉に買い言葉と言えばいいのか。強がりと大言壮語は昔から負けフラグだけど、へし折ってやらないといけない。きっと、それはアンタも望んでいることだろうから。

 神に最も近い獣が地面を抉りながら疾駆する。ただ見ているだけっていうのが出来れば楽だけど、そうもいかない。

あの規格外の魔王に勝つ算段を、今から組み立てなければいけないのだから。それを為すためにも、そろそろ役者が揃わないと。

 僧侶は上手くやっているのかそこはかとなく心配だが、きっと大丈夫だろう。多分。恐らく。…大丈夫だよね?



「さ、そろそろ出番じゃないのかな。あたしたちの大将殿」

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