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とある魔女の記憶、その三

~とある砦~


魔法使い「大地と大気の精霊よ―――我が呼び声に応え――――」


魔女「三節以上は省略せよ。発動までどれだけ時間を無駄にするつもりじゃ」


魔法使い「出来たら苦労しないってのよ!」


魔女「何故出来ぬ。汝は未熟な術者なのか?否、既に熟練した術者であろうことは見ればわかる。知識もあり、その身に内包する魔力も並外れておる」


勇者「えっと、一応戦闘中なんですけどー…」


魔物「―――――ッ!」


魔女「黙れ」


魔法使い「二節以上省略なのにその威力…おかしくない?」


僧侶「巨大な火の弾が魔女さんの指先から放たれて魔物さんを焼き尽くしたですって?」


侍「説明お疲れ様」


魔女「魔法とは精霊を、神霊を使役して行使する外法の総称じゃ。使役する分の対価を払えば、彼奴らは文句を言わぬ」


魔法使い「分かってはいるけど、ねえ」


魔女「よいか?魔法は己の力で起こし得ぬ現象を魔力を払って顕現させる。故に、どれだけしっかりと己の想像を、幻想を、創造出来るかで効果の大小が決まる」


勇者「へえ…。この精霊だったらこうだって教えられたからそういうものかと思ってた」


魔女「詠唱とはその幻想を想起させるトリガーに過ぎぬ。その気になれば詠唱など不要じゃ。こうである、こうでなければならぬ、と己の幻想を世界に刻みつけることが魔法であるからな」


魔法使い「秘中の秘じゃないの、それ」


魔女「こんなものは概論に過ぎぬわ。汝は確固たる意志を持て。あやふやな状態のまま世界を変えられると思うでない。知恵者を気取る前に、まず己の殻を破ることじゃ。さすれば、汝があまり使えぬマナも使えるようになろう」


魔法使い「………何処まで見抜いてるのよ」


魔女「さてな。知らぬ事は知らぬし、分かる事は分かる。それだけじゃ」


侍「討伐完了」


勇者「いや何かごめんね。普通に聞き入っちゃって」


僧侶「いえいえ。侍さん、しゅぱぱっと動いてずばずばーっと片づけちゃいましたし」


侍「コツは掴んだ」


魔女「そもそも女体の胸には夢が詰まっておってだな」


魔法使い「同性でしょ!?」


勇者「父さん、母さん、あの二人のオンオフの切り替えについていけません」



~とある宿の一室~



魔女(順調じゃな。やはり、期待されているだけに飲み込みも成長も早い。ふふん、楽しませてくれる)


僧侶「―――お邪魔してもよろしいですか?」


魔女「うむ。入りや」


僧侶「失礼します。夜分に申し訳ありません」


魔女「夜伽かえ。夢いっぱいのソレを可愛がって進ぜよう」


僧侶「違います。シバキますよ?」


魔女「………」


僧侶「私、魔女さんからありがたい教練を頂いていない事に気付きまして。何か気付いた事がありましたらと思うのですが」


魔女「いや、ないが」


僧侶「えっ」


魔女「えっ」


僧侶「何か一つくらいあると思うのです。私とて人間。欠点の一つや二つや三つや四つ、当たり前のように持ち合わせています」


魔女「自分でわかっているならそれで良いのではないかえ?」


僧侶「そうなのかもしれませんが…」


魔女「汝は強い。元々なのか、経験故に、なのかは判然とはせぬが、な。己の弱さを認め、仲間の弱さを認め、これまで旅してきた。違うか?」


僧侶「……慧眼ですね」


魔女「世辞はいらぬ。一見するに、汝は相当高位であろう。僧侶と名乗ってはいるが、神官と言ってもよい。最初の彼奴らには勿体ない程に貴重な存在だ。そのような存在が何故彼奴らと共に居たのか、こちらが聞きたいくらいじゃ」


僧侶「託宣、と言えば簡単ですね。彼女らが終止符を打つ、と告げられました。だから………いえ、違いますね。ええ、私の意思で、彼女らに同行しています」


魔女「ほう?」


僧侶「私は最後に仲間入りしました。それまでは各地の神殿を巡り、街々で説法し、神の教えを説いて参りました。そんな時、あの街で、託宣を受けたのです。神の御意向であれば、当然私に是非はありません。私は教会で待ち、ついに彼女らに出会いました」


魔女「尻の青い小娘共を見てどう思った?」


僧侶「可哀そうに、と。過酷な運命を背負って立つには余りにも小さな存在。成程、彼女らを守護する事が私の天命だったのだろうと。若干の諦めがあったことは想像に難くありません」


魔女「それにしては、良い顔をしておるが」


僧侶「はい。話し、手を取り、目を見てわかりましたから。ああ、どれだけ待とうと、彼女ら以上は現れるまい、と。確かに彼女たちは未熟です。しかし、揺ぎ無い光を見ました。今はまだ蝋燭のようなか細い灯でも、近い将来世界を照らす光になります」


魔女「大した評価じゃな。一寸先は闇でも、汝は彼奴らを護ると?」


僧侶「愚問ですね。我が命を賭してでも、護ります」


魔女「善哉、善哉。ベタ惚れじゃの。なれば、そうさな……余から言える事は一つじゃ」


僧侶「何でしょう?」


魔女「汝は、昔と変わらぬ汝で居ればよい。彼奴らも、汝も気付いておらぬやもしれぬが、汝は皆の拠り所じゃ。母と言うてもよいやもしれぬ」


僧侶「まだ若いつもりですが」


魔女「ふふん。まんざらでもない癖に、よう言うわ。彼奴らを見守り、導き、守護するのが汝の役目であろう。いついかなる時であろうと彼奴らを信じ、巣に帰ってくるのを待てば良い。そして、帰り着いたならば、母の如き大きな愛で、包み込んでやればよかろう。何があろうとも、な」


僧侶「ええ、そうします。ふふ、やはり、貴女は一々心に残る言葉を送ってくれますね」


魔女「どうだか、な。今宵は満月故、気分が良かっただけかもしれぬぞ?」


僧侶「そうしておきましょうか。お時間頂き、ありがとうございました。貴女にも神の御加護があらんことを。では、また明日」


魔女「…行ったか。神の御加護とやらも、効果は怪しいものじゃが」


魔女(どちらにしろ、終わりは近い。せめて今少し、このぬるま湯が続けば良いのう)


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