第0.5部 ■わたし■
霧のかかった道路に、つらなった街灯をみてる。
田舎の山道。
消えかけた街灯。
パチパチ世話しなく瞬きをして…
あかりひとつをとっても時代のうつろいを感じる。
一昔前は、蝋燭の灯、油のランプだった。揺らぎのある、触れれば焼けてしまう熱いともしび。
この瞬きする街灯も、電球に触れれば熱いのだろうか。
コートのポケットから、LEDのペンライトと、バスの時刻表を取り出して、バスの到着時刻を確認した。
いま、バスにのってる。
自身、歳をとった気はしないが、関節も視力も、成長の段階ではなくて使いふるしていくんだなとおもう、時刻表の字が小さすぎてみえない。
バスの窓は結露してる。杉山の葉にもたくさんの夜露がしっとりおりてる。
葉に浮いた露のひとつひとつを見れたあの頃、際限のない食欲に性欲に、ただ生きた感覚をたのしんでた。
いまは
ただ ねむりたい。
バスが二三、身震いをし
停まった。
「…お尻ごわごわ」
バス停を降りると、
腰が半分に折れまがった老婆が蝙蝠傘を持ってまっていた。
足元はゴム長で、畑仕事してそのまま迎えにきたような格好だった。
こちらを見て、目を離さない。バスを降りたのも、自分だけだし、きょうとまる旅館の使いで間違いない。
「若い殿方が珍しい、お一人で?」
「こちらの史料館に、調べものを」
「ああ、郷土史の先生さんね、なんぎやね、こんな気候の悪い日に」
老婆が歩きだしたので、うしろについて歩いた、旅館までは二百メートルくらい。
霧はたちこめているが、雨はふっていない。使いの婆さんは傘をさしたままだ。
雨はふっていない。
傘を叩く水滴の音がたまにする。
コートが重い、たぶんいま鏡を見たら髪がもやもやになってる。
「外人さん?」
婆さんがしゃべった。
「ひいばあさんに、アジアンがひとりいたみたい」
「そうかねそうかね」
容姿はね、
おめめは、みどりで、
肌の色は白めで、
髪は肩くらいの黒、
脚はながくて、鼻もたかくて、若いイギリス紳士みたいなかんじ。
ただ、ローマが政治を始めたくらいから生きてる。
吸血鬼。