第九話 今日ね、家〔魔神城(笑)〕に誰もいないんだ・・・
「ふむ」
それが私が玉座の間に入ってから初めて言った魔神様の御言葉だった
「まさかとは思っておったが、こうして実際に起きると信じざるをえんな」
「は、はい、私もまだ信じることができません」
魔神様と下級魔族が会話をする。
「魔神様! いえ、『アークリンデ様』ご無事ですか!?」
私は叫ぶ、いや、吼える。
「そう言ってここまでやってきたか、古臭いが中々良い手じゃのう」
アークリンデ様は何一つ変わらぬ態度で答える
「まさか、ぬし程の力を持った魔族が人間に操られるとはのう…面白い道具も世の中にはあるものじゃな」
「は?」
アークリンデ様が何を仰っているのか私には理解できなかった
「まあ当然の反応じゃの、自分が操られていると分かるはずもなし、当時の記憶も無くなっておるのか」
「な、何を…」
「残念じゃの…ぬし程の人材を失うことになるとはの」
そういってアークリンデ様がこちらに片手を向けると周囲一面が真っ白な光に包まれて
「まっ…!」
「勇者殺し」のWKを持ち、最強魔族の一角に数えられるジウレスカの存在は、あっさりとこの世から消え去った
玉座の間には魔神、アークリンデとジウレスカが来る前から居た下級魔族―――Aの二人のみとなっていた。
Aは目の前の光景を見て何も言えず暫し呆然としていた。
先刻までそこにいたジウレスカも含めた魔族全員、すべて消え去っていたのである
「しかし今回の勇者は中々面白い方法を使ってくるのう」
ジウレスカは魔神の名前を言っていたが、それは極めて高いクラスの魔族だけが許されることで、下級魔族が言えばその瞬間に消されることもある。
魔神アークリンデは感心したようにそう言った
「自分で倒せぬなら敵の部下にやらせる、か…手段を問わぬそのやり方は中々好感が持てるのう。
貴様が報告に来なければ面白いことになっていたじゃろうな」
魔神様はそう言って微笑んでいた、
確かにもう少し私が来るのが遅かったら、こうまであっさりと終わっていなかっただろう。
あの時私と彼が考えた手とは極めて単純、ジウレスカ様が何か騒ぎを起こしたと判断したらそれより先に玉座の間に行き事の次第を報告する、それだけだった。
幸いジウレスカ様のいる場所は玉座の間から距離がある、何かあればこちらのほうが早く辿り着ける。
ただ、私のような下級魔族では普通なら門番に止められる、そこで少し強引な手を使った。
彼の持っていた眠り粉を嗅がせて眠らせ、部下に適当な理由をつけて門番を移動させ、介抱するように命令し、そのまま玉座の間に入ったのだ。
彼は戻ってこなかった、その事はとても悲しい、だが事態は最悪の事態を免れたのだ。彼も天で満足していることだろう
そう思っていると
「い、一大事でございます!!!!」
一人の魔族が駆け込んできた
今頃ジウレスカ様の報告か。
だとすれば遅すぎる、魔神様もそう思っていたようで、
「遅いわ、今頃来たところですべて終わった後じゃ。妾の命を狙った者共は皆消えたわ」
が、意外にもその魔族は
「え!?い、いえ違います!」
信じられないことを言い出した
「ほ、宝物庫がもぬけの空になっております!」
「…何?」
思わず尋ねる
ジウレスカが守護している…いや、していた場所。
言うまでもなく魔神城の金銀財宝や伝説、神話級の武具、希少な効果を持つ道具など様々な物が収められていた。
それが、全て、無くなった?
宝物庫の鍵はジウレスカが持っている筈だ、
鍵は妾が直接作った特別製、先程の光程度では消滅しない。
ジウレスカが消滅しても鍵はそこに残るはず…
だがジウレスカの立っていた所には塵一つ残っていなかった
ジウレスカは合図が有るまでは普段どおりに行動するように命令されていたという。
命令する時に奪っていた?
それならジウレスカは鍵が無くなった事に気づくはず
仮に人間が宝物庫に進入しようとしたところで命令外の事ゆえ排除されるのは目に見えている。
何時、どうやって、誰が…?
妾が思考しているとその魔族は続けて話し出した
「つい、今しがた通路でこのような物を拾い宝物庫を見に行った所、扉が開いており、失礼かと思いましたが中を覗いて見た所、何一つ無くなっておりまして、変わりに壁にこんな物が…」
その魔族はそう言って二枚のカードを持っていた、
妾が指を動かすとそのカードは宙を舞いそのまま手元に来た
一枚目…その魔族が拾ったカードにはこう書かれていた
お掃除、綺麗に終わりました♪