第七話 魔神城(笑)ですか?いいえKフィアです
読み返してみて余りにひどかったので全体的に改訂してみました
これからもちょこちょこやってしまい御見苦しいかも知れませんが
御了承ください。
目の前の光景を私は信じられませんでした。
あのジウレスカ様が何の力も持たないただの人間に膝を屈しているのを
ですが本当に信じられないのはこの後に起きたことなのです。
「んーいい感じだね、安物の割りに良い仕事してるな」
「…しかし所詮はシルブレであろうが!
効果はすぐ切れる、その僅かな時間で貴様に何ができる!?」
「そこでこいつの出番なのだよ」
その人間はそう言ってズボンのポケットから何かを取り出しました。
「こいつはソウシの笛って奴で自分よりかなり格下の魔族に一度だけ命令できるって物らしいぞ。シルブレとセットで安く売ってたんだよ」
「どんな考えがあるかと思えば…それで私を操ろうというのか?
いくら力が下がっているとはいえ、何の力も持たぬ人間ごときがワシより格上になる事など有り得ぬ!」
「気づいてないの?」
「何!?」
「言ったろ?普通のと違うって。あんたに使ったシルブレは確かに5分も持たない、だけど普通のとは違う2つの効果があるんだよ」
そう言って人間はその笛を吹きました。
「がっ、ア、こ、これハ!?」
「1つは対象の行動を封じること、もう1つは効果中の対象はどんな道具の効力も無効化できなくなる。
つまりこの二つを使えばあんたは無条件で1度だけ俺の言いなりになってしまうんだよ」
「ソ…んなコと…ガ」
「あ、ちなみに命令した後にシルブレの効果が切れても命令された事は実行することになるから、そこんとこよろしくね」
「カ…か…ガ…」
そうしてジウレスカ様の目に光が消えていきました、そしてそれを確認してから
「んじゃ命令〔俺がこいつで合図をしたら城内で騒ぎを起こし、混乱に乗じて魔神を殺せ〕」
人間はそう言って"何か"をジウレスカ様に投げ渡しました
「あア・・・わカッタ・・・」
ジウレスカ様は何の迷いもなく頷き、その"何か"を受け取っていました
「よし、んじゃそれまで普段どうりに行動してろ」
そしてシルブレの効果が切れた後、ジウレスカ様は何事もなかったかのように通路の奥へ行ってしまわれました。人間はジウレスカ様の背中を見送り、軽く手を振っておりました
「ああ、ちなみにさっきのあいつの悲鳴は誰にも聞こえてないよ、そういう道具も使っといたからね。だからあいつの異変に気づく奴はいない」
「あんた以外」
こちらに背を向けたまま人間は言いました。
私は背筋が凍りついたかと思うほどその場で動けなくなっていました。
「自分が他人を見ているとき、自分もまた見られていると思え、ってやつだ。
ああ、今のこと別に言いふらしてもいいよ。あんたみたいな下っ端が言ったところで誰も信じやしないだろうからね」
そのまま人間はこちらを見ることもなく、奥の通路の闇に消えていきました。
何を言っているんだこいつは
話を聞いた私の最初の感想はそれだった。
こいつ気がふれているんだろうか、それともなにか変なものを食ったのだろうか、そう思っていた。
あのジウレスカ様が人間に操られて魔神様の命を狙う?有り得るはずがない。
あの方の魔神様への忠誠心は生半可なものではない、死ねと言われれば迷いなく死ぬだろう。
殺せと言われれば一国の人間を皆殺しにするだろう、だが間違っても魔神様に刃を向けるようなことはしない。
それは魔族の常識と言えるくらい当たり前のことだ。
そこで私は新入りに視線を向けた。
最近城に配属にされたというが私は全くこいつを見たことがない、
確かに部下を自分で選ぶことはできないが、それでも何日かは居るというのに全く知らないなど有り得るだろうか?
答えは否…となるとこいつは恐らく変装している賊。
目的は今言ったことを私に広めさせて城内を混乱させ、その隙に魔神様を害するというところか。
そう頭の中の考えがまとまった瞬間、私は魔族、いや侵入者に向け爪を振り上げ飛び掛った。
「な、何を!」
侵入者は慌てながらも私の爪を紙一重で回避していた。
「黙れ!そのような戯言を信じる者などこの城、いや魔族の中にいるものか!正体を現せ!」
「…」
私がそう叫ぶと侵入者は顔を下に向けた、
ふん、観念したか。
そう思っていると、侵入者は懐に手を入れ何かを取り出し私が何かをする暇を与えぬ速度で
「ぐ!」
それをそのまま自分の二の腕に突き刺した
取り出したのはナイフ、それをそのまま自分の二の腕に深々と突き刺したのだ。
そしてその侵入者は顔をこちらに向け言い放った。
「信じていただけないのは承知の上!それでも!このままでは魔神様の身に危害が及んでしまいます!信用のあるジウレスカ様だからこそ難なく魔神様の御前にまで辿り着けてしまいます!そうなれば最悪の事態も考えられます!お望みならばこの四肢切り落としていただいてもかまいません!どうか信じてください!!」
腕に刺さっているナイフをもう片方の腕で握り締め、そういいながらこちらを見る魔族。
刺さっている箇所からは青い血が滴っていた。
青い血…それは魔族の証、いくら人間が姿形を変えたとしても血の色までは変えることはできない
そしてこの魔族の必死に訴える目。
先程までの自分の考えが歪んでいく…私は間違っているのか?
この魔族は真実を訴えていたのか?
「何故…下級魔族に過ぎない貴様がそこまでするのだ?」
私は気がつけば構えを解き、そんな問いを投げかけていた
「確かに私は下級魔族、ですがそれでも誇り高き魔族の一人!
その私の神である御方の危急を知っていながら何もしないなどできるはずがありません!
そして神を御守りする為にどうして自らの命を惜しみましょう!」
その魔族はゆっくりと、しかしとても強い思いを込めながらそう言った。
私は…なんということをしてしまったのだろう。
この新入り…いや…誇り高い戦士を疑ってしまうとは、軽率な考えでこの戦士の命を奪ってしまうところだった…自分自身の無能さに恥ずかしくなる。
私は素直に正面にいる魔族に頭を下げた。
「すまなかった、お前…いや、貴公の言うことはもっともだ。
私とて貴公と同じ立場ならなんとしてでも仲間に伝えよう」
「では・・・」
「うむ、貴公の言うことは信じがたい事だが、私はそれを真実として受け止め行動しよう」
「あ、ありがとうございます!」
その戦士はそういいながら、がばっと頭を下げてきた。
礼を言うのはこちらのほうだ、貴公のおかげで私も魔族として大切なものを思い出すことができた。
「さて、ではどうするか、ということになるが…我等のような者が上級魔族の方に言ってもこのようなことは信じていただけまい。
また、下手に先にこちらが行動を起こせばその人間も動きを変更してくる恐れがあるぞ」
私は下級魔族を指揮する立場にはあるがそれでも階級的には精々下の上くらいだ、
とても上の方には信じてもらえない。
二人で悩んでいると何か閃いたのかその魔族は顔を上げ、
「ならばこういう方法はいかがでしょう」
私は彼の提案に賛成した、現状で我々にできるのは確かにこれが限界だ、だがこれならば魔神様への危険性はグッと下がるはずだ
「うむ…確かにそれが私たちにできる最良の行動だろうな」
私はそう答えた、すると彼は以外にも、
「ありがとうございます…ですがその前に1つやっておきたい事があるのです」
と、彼はもう1つ提案をしてきた。
「私はこれからジウレスカ様の元にお伺いしようと思います」
「何を言う! 危険すぎる!」
「あの人間がいつ合図をだすかは分かりません…が、ジウレスカ様が受け取った"何か"を奪うことができれば事態は未然に防ぐことができます。
何も起きなければそれに越したことはありませんから」
「貴公は…」
「もとよりこの命は魔神様のものです。
それに私が消えたとしても、私の事を信じてくださったあなた様がいれば私は安心して逝く事ができます」
彼は死ぬ気だ、死ぬ気でジウレスカ様の下に行く気なのだ。
「ただ新入りですのでジウレスカ様のいらっしゃる場所が分かりません。
申し訳ありませんが教えていただけないでしょうか?」
そう恥ずかしげに聞いてくる彼を私は心の底から美しいと思った。
私はジウレスカ様の居場所を教えてから無言で彼に握手を求めた。
私は彼に同じ魔族として尊敬の念を抱いたのだ。
「その手は戻ってきてから握らせていただきます」
そう言って、来た時と同じように小走りをしながら廊下の奥に消えていった。
私は彼の背を見ながら天に祈った。
どうかあの誇り高き勇敢な戦士と再び再開できますように、と
だが無情にもこの願いが聞き届けられることはなく、Aと彼が再会することは二度と無かった。