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第三十ニ話 今更のプロローグ そして笑撃のJIJITU

辺り一面、地平線の先まで白おんりーの何にも無い空間にいた

いや、目の前に女が一人だけ立っていた。

年は17~8くらいで髪型はおかっぱで色はピンクだ

服は絹で出来たようなきめ細かく特に装飾の無いシンプルな白のドレスを着ている

シエルでもティアラでもない、あちらの世界の知り合いでもない、全く知らない女だった


まぁある程度予想が付いたので、取り合えず延髄蹴り(威力は通常の0.125倍)をかました


「ぴぎゃっ!」


む、多少よろめいただけか…加減しすぎたな。

もう少し強めに蹴っといたほうが良かったか。


「い、いきなりなにするんですか!?」


首を抑えながら眉を吊り上げ女は叫ぶ


「初対面の女性に手を上げるなんて何考えてるんですあなたは!!」


「手なんて上げてない、蹴っただけだ」


「同じ事ですっ!!」


ぎゃーぎゃーと喚き散らす女


「女性には優しくしなさいってご両親に教わらなかったんですか!?」


「だから膝蹴りと金的は遠慮しただろうが」


「まだやる気だったんですか!?」


うっさい奴だな


「なら蹴られるような心当たりは無いと……自分は完璧に被害者だと言うんだな?そう胸張って言えるのなら素直に謝ろうじゃないか」


張れる胸は無いみたいだがな


うっ、と言葉を詰まらせ、途端に女は静かになる


「…そ、それは……」


「大体『何考えてるんだよ』はこっちの台詞だっての…こういう事はこっち着てすぐやるイベントだろうが。

こんだけ時間たって漸くプロローグとかどんだけ斬新なんだよ」


「こ、こちらにも色々と事情があってですね…」


「ほう…そのJIJYOUとやらを詳しく教えてもらおうか…無論本人の意思とは無関係に異世界に飛ばされても仕方無いと思えるような理由があるんだろうし…なぁ?」


そう言うと最初の勢いはどこへやら、女は完全に意気消沈していた

ちょっと涙目になっている気がする





「え、えっと…ま、まず私は貴方が飛ばされた世界『ウルジア』の管理者…

神のような存在…でした…そして貴方をウルジアに呼んだのも私…です…」


語尾が消え入りそうなほどか細くなっている


「つまり今は神じゃないわけか」


「ぅ…さ、3000年くらい前、ある日突然出現した神…魔神にその役目を奪われてしまったんです…」


じわっと涙目が酷くなる


「わ、わたし一生懸命がんばってたんですよ!?みんなが暮らしやすいように

毎日天候に気をつけて飢饉が起きないようにしたり、生活に役立つ知識を伝えたり土地が痩せないように精霊や妖精を作ったり!」


まくし立てるように語りだす。なんか良く分からんが必死さは伝わってくる


「…なのにあいつは『おぬしの様な者が神ではこの世界の住人が哀れでならん』とか言っていきなり神の座を奪ったんですよ!!」


「良く分からんが神の座ってのは簡単に奪えるもんなのか?」


そう言うと女は居心地悪そうに目を泳がせ始め、両手を遊ばせる


「その…私が三時におやつを食べに席を外してる間に…」


「……」


神の座ってそういう意味なの?

椅子取りゲームしたらとんでもないことになるな





ちょっと準備しとくか…アレを使うのは久しぶりだからな

そう思い立ち、利き足の素振りを始める


「あ、あの…何してるんですか…?」


不安そうに聞いてくる女


「大した事じゃない。48ある殺人…〔殺神〕技の一つ、『マムシ』の準備運動だ」


むぅ、やはり久しぶりに使うせいか感覚が思い出せん…もう少し角度をつけないとダメだったか?


女は途端に取り乱し、慌てて弁明し始める


「だ、だってだって!評判の『ととや』のシュークリームだったんですよ!?

すごい人気で予約しても100年に一度くらいしか食べられないスイーツなんですよ!」


マムシとは、腿の外側に飛び膝蹴りをかます事である

まともに食らうと我が子が愛する妻と間男との間に生まれたことを妻の誕生日サプライズの為に内緒で早めに帰ってきて、寝室でピロートークをしているのをドア越しに偶然聞いてしまった父親並みに立ち上がれなくなる技…業であり、

同時に立ち上がれる頃になると相手に同状況並みの殺意を芽生えさせる大変危険な業なのだ

なので素人は絶対にマネしないようにお願いします

マネして万が一何かあった場合、一切の責任は取りませんのでご了承願います

(玄人でも7回に1回は失敗します)



「話聞いてますか!?」


一度ため息をつく


「要するに、だ…自分の尻拭いをさせる為に別世界の…それも何の罪も無い一般人を本人の意思を無視して何度も連れてきた訳か」


素振りをしながら推測を言うと当たっていたのか益々居心地悪そうな顔になった


「あーあー可哀想にな…家族や恋人と突然離れ離れにされ、訳も分からんまま戦う事を強いられて…それでも帰ることを夢見て死ぬ物狂いでがんばって…みんな死んでいったんだろうな…」


遠い目をしながら呟く


「こんなの事をするのが神なのか…所詮神も人間と変わらない自分本位な生き物なんだな…神を信じてる人がこんな現実知ったらどう思うだろうな……」


「ぅ……」


「まぁ仕方ないか、本来の神なんてこういうのばかりなんだろうな…俺も神の身勝手でここでのたれ死ぬんだろうなぁ…」


「う…うぇ…うぇーーーーーん!!」


ついに泣き出した


「わ゛…わ゛たじだっで!…ひっく…わるい゛どばおもっでばす!…でも、っく…でも、ほがに方法がないんでずもん!!…うぇ…うぇーーん!」


うぜぇ

自業自得って言葉を辞書で調べろ


「良く分からんが知り合いの神に倒すの手伝って貰えば良いんじゃないのか?」


「たぐざんの、ぐすっ…がみが、ぜがいにかんしょうじでじまえば…ひっく…うるじあがごわれでじばいばず…ひっく…」


「なら元々自分の世界なんだしこの世界の奴らに何とかさせろよ」


「ひっく…ぜがいのがんり゛じゃであるがみに、うぇ…じゅうにん゛ば、

 ご…ごうげぎでぎないんでず…あ゛るじょうげんが以外でば…うぅ…」


「その条件下ってのが管理対象から外れる別世界の人間と共に戦う場合って訳か」


手で涙を拭いながらこくりと頷く


「だったらせめて事前に本人の許可取るなり準備期間あげるなりしてやれよ…なんの用意も無く連れてこられる方の身にもなれよ」


「う゛っぐ、ごべ…ごべんなざい…」


「まぁ過ぎた事はしょうがない…幸い完璧巻き込まれただけの俺はこの世界が気に入ってるからアンタの行動には1000歩譲って目を瞑ってやる、アンタは本命の、えっと、か…か…かるめら君だっけ?彼はアンタの期待通り行動してるんだし、出来るだけ彼を助けてやれば良いんじゃないのか?」


「ぢ…ぢがう゛んでず…ぐす…」


「なにがよ?」


「わ゛、わ゛だじがぼんどうによびだがっだのは…あ゛なだのほう゛な゛んでず…」




無言で女に背を向けしゃがみこむ


「な゛、なにじでるんでずが…?」


「いや、ちょっと野球ボールくらいの鉄球落ちてないかなって」


「ぞ、ぞれぐらいならだぜまずげど…なににづがうんでずが?」


「俺のトルネード投法から放たれる200km越えの全力ストレートで飛び散らせてやろうかなと」


「な、なにをでずが!?」


「肉片」



神の肉って(キロ)いくらなんだろうな







「つまり…俺は狙って召喚されたわけだ」


「ぅ…はい…ごめんなさい…」


多少時間が経ち、落ち着いたのかようやく泣き止んだようだ


「以前呼んだ方が亡くなってしまい、新しい候補の方を探していたんです…

そうしたら今までの人とは比べ物にならないくらい強い力を感じて…」


「それが俺か」


こくりと頷く



「召喚するようバウムの姫の枕元で言い聞かせて、私は貴方とウルジアとの道を繋げたんです…あ、召喚術っていうのは『道を繋げる』、『扉を開ける』のニ行程で出来ていて、バウムに伝えたのは『扉を開ける』の方だけです。

私が道を繋げてからでないと術自体が発動しません、一応バウムには神の啓示が降りて来た時以外に使えば災厄が起きるって言ってあります」


「バウムに伝える必要あるのか?全部自分でやりゃいいじゃん」


「…今の私は神では無いので色々と力が制限されているんです…」


「で、その後イレギュラーが起きた?」


「…召喚術が発動した時に外部からの強い力で道が歪み始めたんです…

慌てて修正しようとしたんですけど歪みは完全には直らなくて、気が付いたら召喚陣に二人居て…しかもどちらが私の見つけた人なのか分からなくなっちゃってて…」


「俺の姿は知ってたんだろ?」


「私が見たのは貴方の持っていた力だけなんです、だけど歪みの所為かその力も隠れてしまって…」


それで今まで分からなかった、と







神の術に割り込める程の奴か、そんな知り合いは……一人しか居ないな。


微笑んでいるあの人の顔が浮かんだ






「…取り合えず冷静に時間を掛けてしっかり見極めようと思っていたら、ちょっと目を離した隙に貴方が居なくなったしまっていて…祝福を渡さないといけないのに…」


「祝福ってなんだ?」


「この世界で超人的な力が使えるようになる神力の一種です。ただ今の私では複数作る事が出来ず、しかも渡した人が死なないと次の人に渡せないんです。

本来は『道』を通っている時に渡すのですが…」


「要するにチートか…召喚術が何十年かに一度しか使えないのはそういう訳か」


……ん? あれ?

つまりそのチートが無けりゃ俺はこっちでもほぼ変わらんのだよな?

なら俺のWKが特殊なのは……やっぱり生き方か?そんなに好き勝手生きてるか?それとも……いいや


「…まぁつまりここに来たのはその見極めが完了してチートを俺に渡す為って訳か」


「…そ、それが…」


「違うのか?」


「その…あちらの方がとても優しくしっかりした方でしたので…」


「渡した後か」


かるめら君の顔を思い出しているのか顔が赤くなり、僅かに口がにやけている。

恐らく惚れたんだろう

全然冷静じゃないなコイツ

あれか、恋は盲目って奴か



「お…怒らないんですか…?」


怯えながら上目遣いでこちらを見てくる


「別にそんなもん無くても生きていけるしな…俺は魔神倒すつもりもないし、

でもそれなら益々俺よりかるめら君の手助けをした方が良いんじゃないのか?」


女は首を横に振る


「だ…ダメなんです……彼程度の力を持った人なら今まで何人もいました。

それに祝福はあくまで元々の力を強化するものなので…」


「弱い奴にやっても上昇値は低いって訳か」


「……はい…」


「…ちなみになんで俺が居なくなる時目を離してたんだ?

スイーツ食ってたとか言ったらジョルトでハートブレイクショットかますぞ」
























目がクロールしている

俺は対金魚戦を思い出しジョルトブローのフォームの確認を始めた

狙いは心臓、スクリューも加えといた方がいいな。


再び取り乱す女


「だ、だって、だって…」


「お前馬鹿なの?阿呆なの?ホント神なの?」


「だって…『ととや』の…」


「そんなにスイーツ好きならそこに転職しろ。

丁度無職なんだろ?だったら履歴書書いて突撃しろよ」


ちなみに俺は男女平等主義なのでこういう事は女だろうと容赦しない

俺が優しいのはあくまで自分の女と(可愛い)動物のみなのだ

まぁコイツがいくら泣き喚こうがそもそもの被害者は俺なんだから加減する理由が無いのだが


「うぅ…」


あ、眠くなってきた…そろそろ起きる時間みたいだな


「んじゃ時間みたいだし俺はもう行く、がんばってかるめら君に協力してやれ。

俺はのんびり異世界ライフを満喫する」


「えっ…あ、あのぅ…」


「ああ、そうそう…もし神に戻れた後、勝手に元の世界に帰したら顔潰すからな」


最後の一言を極めて冷徹に言っておく


今の俺にはこの世界で生きる理由がある

どんな形であれ、それを妨害するなら神でも潰す




それだけ言うと視界がぼやけていった








「ん…」


目を覚ますと天井があった、そして左右には見慣れた二人の顔

服は寝巻き、といっても下着のようなのを着ているだけだ

あの時こんなの買ってたのか


「おはようございます、ジン様」


「おはようございますっ!」


いつも通り抱き寄せて頭を撫でる

なでなでなでなで


そうしていると顔面に何か落ちてきた


「ぎぅ」


どうやらくろごまが腹ダイブしてきたらしい

うむ、今日も平和だ


「おふぁよ」


久しぶりのギャグ回でした

色々溜まっていたものが少し出てすっきりした気がします

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