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第二十五話なのにハーレムが全く形成できてない…

「これで後はなんとかすんだろ」


空中を螺旋階段を駆け上がるように高度を上げるくろごまの背に乗りながら地上を見下ろす。

くろごまのらぶりーぼいすで魔族側は逃げ回りムルク側は突撃を開始していた。

戦局が変わったのを確認してからすぐにくろごまに雲の上に行くよう頼んだ。

これ以上ここにいる理由は無い。さっさとトンズラかましてのんびりしよう。

そう考えていた。


ん?


何か違和感を感じる、

なんだろう



頭の中が変な事になってる気がする。

俺の脳内はおpp世界平和を願う気持ちでおpp一杯の筈なのに。


ん?…脳内?


それが蔵書から感じる物だと気づき、検索をかける。

結果、一つのページが浮かび上がり自動的に蔵書が出現

ページが開かれる。

それを見て



「…まあ、アフターサービスも大事か…」


予定を変更した


数時間後、魔族軍は北の領土に完全撤退しムルク側の勝利となる。

消息不明だった姫姉妹の帰還、そして異世界の勇者の活躍によりムルク国は救われ、民は歓喜の声をあげていた。

そして今、フロトラム城の王の間は貴族や将兵で埋め尽くされており、その中心に勇者とその仲間、そしてシエルとティアラがいた。


玉座の正面10m程の位置でヒデトとその仲間達は膝を着いていたが、シエルとティアラはその横で直立不動のまま、何を見るとも無く、ただ前を見ていた。


玉座に座る王が口を開こうとした時、見物人の一人が人ごみから抜け出てシエルに歩み寄る。


「ああシエル、とても心配したよ。君のその美しい顔をまたこの眼に収める事が出来て、僕はとても嬉しい!」


金髪青眼、顔立ちは整っていて、白を基調とした洋風の礼装服を着ている


「これマルクスよ、場を弁えよ」


王が苦笑しながら注意する

マルクスと呼ばれた青年は王に体を向け膝を着き、


「申し訳ありません陛下、しかし私自身この気持ちを抑えられないのです!」


そう言って再び立ち上がりシエルに詰め寄った。


「君が居なくなってから僕は気が気じゃ無かったよ。君が居ないせいで食事も喉を通らず毎晩星を見ては君の無事を祈った。ムルクに立ち寄る旅人から君の情報を何度も聞いたり……」


マルクスがシエルに一方的に話をしていると使者の様な者がマルクスの横に来て耳打ちする


「すまない、少し用が出来てしまった。すぐ戻ってくるから後でゆっくり話をしよう」


そう言って王に一礼をして部屋から出て行った。

その間シエルは一瞥する事無く前を見ていた。


「見苦しい所を見せたな。あやつはワシの妹の息子でな、子供の頃から娘を好いておる。今でも場所を考えずにあのような行動をとる、全く困ったものじゃ」


「いえ、行方不明になっていた姫君様達が帰還されたのです。無理も無いと思います」


ヒデトが体勢を変えず、顔だけを王に向けながら応える。


「さて、では改めて良くやってくれた勇者ヒデトよ!そちとその仲間達、そして盟友バウムの勇敢な兵たちの御蔭で魔族を撃退できた。ムルクの住人を代表して礼を言うぞ!」


部屋中に拍手が鳴り響く


「いえ、僕もみんなも当然のことをしたまでです。それに僕たちだけでなくムルク国の姫君達や、皆さんの奮闘あっての勝利だと思っています」


「うむ、そうじゃの。これからも皆で力を合わせていけば魔族等恐るるに足りんということが良く分かったの」


うむうむ、と首を縦に振る王、それを聞いていたティアラの感想は一言だった




茶番






撃退できたのは紛れも無くあの人の御蔭

姉が敵陣に突撃をかけた時、既におびただしい数の魔族が骸と化しており、その中には敵の指揮官の様な者も居たとの事だった。

神龍が突然出現した位置、姉の見た人影、それらを考えるとあの人の仕業という事は疑いようが無いだろう。

この王はそれらを無かった事にし、あくまでムルクとバウムの力のみで勝った事にしたいのだろう。

自身はただ城で怯えていただけのくせに。

父ではなく王としてこの男を見ただけでここまで印象が変わるものか…そう思っていた。



「はい、その事について王様に一つお願いがございます」


「おうおう、救国の英雄の頼みなら聞かぬ訳にはいかんな。さぁ、どのようなことでも申すが良い!」


「姫君様方の実力は噂で聞いていましたが、実際に見てとても素晴らしいものだと感じました。是非その力を魔神討伐の為、私に貸して頂けないでしょうか?」


「そうか!魔族共も今回の件でしばらくは大きな行動を起こせまい。盟友であるバウムの力と我が国の将兵が協力すれば娘達がおらずとも魔族は十分防げよう!何よりムルクを救った勇者の頼みとあれば是非も無い!喜んで我が娘達を旅の共に加えさせよう!良いな二人とも?」







ジン様はここまで予測した上で私達を降ろしたのでしょう






国が救われれば私達は英雄として祖国に戻れる

帰郷を許されずとも、実力を見込まれ勇者の一向に加わる事になれば、おのずと国の私達への見方も変わるだろうと





私達を無事に祖国に帰れるようにする

何の関係も無い赤の他人だった私達の為に








だから私たちの答えは決まっている





「「お断りします」」


示し合わせていたわけではない

ただ自然に同じ言葉が重なった


「な、なに?」


王は予想外の答えに思わず二人に聞き返す。


「今回ここに来たのは主人の御好意により『この国』に育ててもらった恩を返す為です。それも今回の戦いで済みましたので私達はこのまま主人の下に戻ります」


ティアラの言葉によって王の間がざわつき始める


「しゅ、主人だと?」


再び王は聞き返す


「姉の呪いを解き、奴隷に身分を落としていた私を救って下さった御方です」


「お、おお…な、ならばその者をここに連れて参れ。

父として娘達の命の恩人に十分な礼をせねばならんからな」



「結構」




静かに、だが強い口調でシエルが口を開く

いつの間にか先程までの周囲のざわつきは消えていた




「貴方にその様な事をしてもらう義理はありません」


「な、なんだと!?」


「赤の他人にその様な事をしてもらう理由は無い、と言ったのです」


「ち、父に向かってその口の利き方はなんだ!!」


そこで初めて二人は視界を王に向けた


「親子の縁を切ったのは貴方の方でしょう?」


シエルの言葉を聞いて王は口を詰まらせる。


「あの時、貴方が私をこの城から追放した時から、私達は貴方とは何の関係も無い赤の他人です。他人にそんな事をしてもらう必要など無いでしょう?」


特に感情を込める事も無くそう言った


「それになにより」


ティアラはヒデトに顔を向け目を開き、


「勇者サマにはあの方のような魅力を欠片も感じませんから」


薄い笑みを浮かべ、そう言った


ヒデトは状況が理解できず、仲間の女性陣は想い人を侮辱されたと感じ、怒りによって一気に顔を紅潮させた



「それでは失礼します」


「御機嫌よう」


二人は軽く頭を下げる

王に背を向け、部屋の出口に向かおうとする


「ま、待て!」


二人の背に向けて、王が声を張り上げた


「そ、その様な身勝手な振る舞いは許さん!二人には今後勇者ヒデトの共を命ず!これは王命である!!逆らうのであればたとえ娘であっても容赦せぬぞ!」


王の宣言と同時に入り口に兵が集まり二人の道を塞ぐ


暫しの間王の間に静寂が訪れる


「容赦しない…?」


静寂を破ったのはティアラの冷たく静かに呟いた一言だった

王に振り返り、視線を向ける

射抜くような、強い敵意のこもった視線

王は怯み、ごくりと生唾を飲み込んだ


沈黙が部屋を覆う中、ティアラは続けて口を開く


「それはこちらの台詞です。先程姉の言ったように貴方とは既に親子の縁は切れています」


「そして今はこの国に縁もゆかりも無い人間です」


前を強く見据えたままシエルは言う

その眼の先には入り口を遮る兵達

彼らもまた視線を向けられ、今にもここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだった


「その上で邪魔立てすると言うのであれば」


少し間を置き、


「相手が誰であろうと容赦はしません」


部屋中に聞こえるくらい大きな、そしてはっきりとした声で二人はそう言った


「こ、こやつらは乱心しておる!何をしておる!た、ただちに拘束せよ!!」


王の悲鳴のような命令を受け、王の間の将兵が一斉に動き出した




ティアラは軽く溜息をついた



後はここから出るだけですね、ジン様を早く追いかけなければ…

きっと今頃どこかでご飯でも食べてのんびりしているんでしょうね

いつものように頭に神の名を冠する小龍を乗せながら…

私達が目の前に現れたらどんな顔をするか今から楽しみですね


ふふ…姉さんのことを言えませんね。私も相当あの方に参っているようです

さて、それではさっそく邪魔者を排じょ




体が強張る

突然強烈な負の気配が噴き出したのを感じた

一体どこから?

集中して気配の発生源を特定する

この部屋ではない、けれど間違いなく城の中から感じる

これ程強い負の気配はそう簡単にできるモノじゃない




この城に『ヒトでは無い何か』が居る







「道を開けなさい!」





姉が声を張り上げた、姉も気づいたようだ

怒声に兵達は怯み、道を開ける

駆け抜け、扉を開け、そのまま王の間を出た



王の間から色々と聞こえたがそんなことはどうでもいい



姉は迷う事無く進んでいく

気配に敏感な姉は、既に場所を特定出来ているようだ



背筋に悪寒が走る


さっきとはレベルの違う異質な気配

負の感情なんていう生易しいものじゃない




もっと単純で




桁外れに強い






『殺意』






私達に向けられたものじゃない

なのにこんなにも強く感じる

その上でこの気配は隠蔽されている

熟練の戦闘職でも察知できない程巧妙に

こんな芸当が出来るのは…


「魔人クラス…?」


走りながら思わず口から零れた。


魔族にはWKが実に4種程度しか確認されていない

だがそれによって階級と戦闘能力、危険度が決まっている


最下級で魔物とも混同されがちな『魔族』


『魔族』より強力な身体と力を持つ『魔獣』


魔獣より更に強い身体と力、そして『知能』を持つ『魔人』


最後にそれらの頂点に位置する『魔神』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



人に害なす生物の危険度ランクはE→D→C→B→A→S→SS→SSS     


E一般人でも数十人掛りならなんとか倒せる程度


D初心者戦闘職でも頑張ればなんとか倒せる程度


Cある程度の戦闘経験が無いとあぼん


Bかなりの経験と才能が無いとあぼん


A伝説級の実力が無いとあぼん


こっから上は遭遇したら出会った自分の不幸を呪え!ヒャッハー!

(「ギルド公式魔族魔物危険ランク」より抜粋)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



魔族は一般的に良く見られる魔族のことで、下級魔族とも呼ばれ魔族軍の兵はこれらで構成されている。

基本的に殆どの固体に知能は無く本能で行動する。

(以前書いたがAはこのランクだったが知能を持っていた、稀にその様な者も存在する)

だが中には強い個体も存在し、油断すれば戦闘経験豊富な者が死ぬ事も珍しくない。

ちなみにコレと良く混同される魔物とは何かしらの原因で生物や物が異常変化したものである。

危険度はおおよそEからB(魔物も同程度)

     


魔獣は辺境の地やダンジョンの奥深くで見かけるもので基本的に魔族よりも大型なものが大半である。

並大抵の冒険者なら、会った瞬間死を覚悟しなければならない。

一匹の魔獣を退治する為に騎士団が壊滅しかけた、とまで言われている。

これも基本的に知能が無く、本能で行動するものが大半だが、ごく稀に知能を持つものも存在する。危険度はAからSS



そして『魔人』


上級魔族とも言われており、その名の通り上記の二種とは一線を画すもので、遥か昔一人の魔人が一夜で一国を焦土にしたとさえ言われている。

大きさ、外見は文字の通り人と殆ど変わらない。

危険度はSSS

又、魔人のみ稀に固有のWKを持つ者もいるらしいが詳細は不明

その存在が確認された国では直ちに戦時級の警戒態勢を取る。






しかし魔人が魔界から出たというのはここしばらく聞いたことがない。

それが戦争が終わったこのタイミングで何故ここに現れたのか?

疑問が浮かんだが、それを考える前に目的地に到着した。


姉は愛剣を発現させる。私も自身の杖を手に発現し、警戒する

ここはただの客間、中からは何の音も気配もしない

『殺意』は既に消えていたが、ここから発せられたものだという事は姉の顔を見て理解できた。


姉と呼吸を合わせてドアを開け、中に入る。



部屋の中は明かりがなく、手元も見えないほど暗かった。

窓は閉められ、カーテンがかけられていた。

だが部屋の奥の窓が一つだけ開いているようで、そこから月明かりが僅かに差していた。

姉は部屋の奥に進んで行く。

私も後について行こうとしたが




視界の端で何かが動くのを感じた。

警戒しつつ魔法で指先に小さい明かりを灯し、そこに近づける。



"ソレ"は昔から姉に恋慕し、付きまとい、気持ちの悪い愛の言葉をささやき、勝手に婚約者を自称し、先程王の間を出て行ったマルクスだった。


だがマルクスが王の間を出てから僅かな時間しか経っていないのに

目の前に居るソレはまるで別人だった。


金髪だった髪は色素が抜け、完璧な白髪になっている。

頬は痩せこけ白目を剥いており、体全体が異常なほどに青白くなっていた。

時折痙攣のように体を動かす程度で生きてはいるようだが声も出せないようだった。


マルクスに何が起きたか分からなかったが、横に落ちていたメモを見て、私は"この男"の状況を把握した。そしてそれとほぼ同時に


「あーちゃん!!」


部屋の奥の開いている窓から外を見ながら私を呼ぶ姉、

私は魔法を解き、急いでそちらに向かう。

姉はこの男に気づいていない、なら伝える必要は無い。

そう思い開け放たれている窓から夜空を見た。



満天の星空、その空で一つの星が帯を掃きながら夜空を翔んでいた。



それは月明かりを反射し、まるで光り輝くかのように闇を切り裂いて翔んでいる銀色の龍だった。




龍は城から一直線に離れていく



姉と共にそれを見ながら考える。

ここで何が起きたのか、完全には分からない。

でも一つだけ確実なのはあの方がここに居たと言う事。



「行こうあーちゃん!早く行かないと置いていかれちゃうよ!」



姉が嬉しそうな顔をしながら言う

さっきまでの事を全て忘れているかのように。

それ程に姉の中であの方の存在が大きくなっているのだろう。


そしてそれは私も同じ、ここでの用事が"全て"終わった以上迷う事など何も無い。

あの方はもう私達と会うことは無いと思っているのでしょうけど思い通りにはさせません、えぇさせませんとも。


「ええ、戻りましょう姉さん」


私達は窓から外に飛び出した






ふふ…絶対に逃がしませんよ、ジン様

次回で多分姫姉妹編のようなものは終わりです。

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