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第二十一話 ブラックホールは身近にある

ログスの街を出て、さらに街道を北に進む俺達三人

目的地はムルク国フロトラム城

俺が召喚されたバウム王国はウルジアの南西にある大陸のさらに南西に位置する

ムルクはそこに隣接する二つの国の一つだ




移動には馬車を使っている

国境近くまで行くという商人に乗せてもらったのだ

かわりにそこまで護衛をするという条件で


ガラガラと車輪の音をたてながら馬車は進む

ある程度街道は整備されているが車に慣れている所為か揺れは大きく感じる

俺は馬車の荷台の屋根上でティアラと向かい合っていた


この馬車は後ろに手すり付きの小さいスペースがあり、そこで見張りが出来るようになっている。

そこからさらに簡素な梯子が上に伸びていて、そこにも見張りが立てる簡単な手すり付きスペースがある。

荷台の入り口は前にしかないので俺達側からは入れないようになっている。

防犯も兼ねてるんだろうな


今日も気温は高すぎず低すぎずの丁度良い感じだ

肌に感じる風が気持ち良い


シエルには荷台後ろで見張るように言ってある

さっさとこいつに聞いときたいことがあったからだ



「化かし合いを長々するのは嫌だ、はっきりさせておきたい」


「何でしょう?」


ティアラは正座しながら聞いている

座布団もひいてない木の板だってのによく出来るな


「何が目的だ?」


これ以上無いくらいの直球

回りくどい言い方は煙にまかれそうだからな


「信用できませんか?」


「あたりまえだ、ちょっと気が向いて手助けしたら美人姉妹が「生涯御仕えします」なんておかしいと思わないほうが不自然だろ」


どこのエロゲのシチュエーションだっつーの

そんな事が実際に起こるなら男なら誰でも死ぬ気で解呪法探すわ


それこそ――――――――


ん?


ああ、そういうことか…なるほどな


ティアラはうつむいた

なんか耳が赤くなっている

なんだよ美人なんて言われ慣れてるだろが

私、照れてますアピールか?

十分考えられる


「腹でも痛いのか?」


「い、いえ、大丈夫です」


ティアラは姿勢を正して顔を上げる


「先にお聞きしたいのですが、なぜ私一人にお聞きなさるのですか?」


質問に質問で返すなよ


「お前はシエルのサポート役だろ?お前らの接し方で大体分かる。

裏があるならお前が考えたって思うのが妥当だ」


これは半分本当だ

もう半分は情報屋から聞いたからだ


「確かにその通りです。ですが今回の事については本当に裏はありません。

私も姉も本当にジン様に感謝しているのです」


「それは分かってる、だけど恩返しならもっと他の方法があるだろ?

それが終わりゃお前らは自由の身じゃねーか。

なんでよりによって一生かけて、なんて言うんだよ。

奴隷に逆戻りしたいのか?」


「それについて最初に言ったのは姉なんです」



「それならなおさらだろうが。姉が自分から奴隷になる何て言えば肉親なら普通止めるだろ」


「確かに最初は不安もありました。ですが姉の話と実際にお会いした事で、それも杞憂に終わったと思っています」


過去形ですか


「ジン様が姉を守るために戦ってくださった時、まともに動けない姉を体を張って守ってくださったそうですね」


にこりと笑う


あの時スタングレネードを使って奇襲を仕掛けたが、距離があった奴には余り効果が無く、効いてる奴も無茶苦茶に武器を振り回していた。

で、シエルの近くにいた奴が彼女に向かったりもしたので、間に入りながら殺っていた。

あの時目が見えて無かったと思ったんだが見えてたのか

体を張ったと言っても頚動脈をCutして回っただけなんだが


「興奮しながら話してくれました。その後も見ず知らずの自分の為に丁寧に手当てをして街まで運び、優しくベッドに寝かせてくれたと」


んだよ、気づいてたのかよ

寝たふりしてんじゃねーよ




だけどあんな事やこんな事をしなくて良かったと思うとちょっとホッとした


俺の考えてる事の一部が分かったのかティアラは微笑みながら言う


「意識はぼんやりとあったらしいのですが、体は動かせず目も開けられなかったらしいです。騙していたわけではないのでお叱りにならないであげてくださいね」



交渉手慣れてるな

笑顔の下で何考えてる事やら


「質問に答えろ」


「そうですね。一言で言うなら姉を信用しているからです」


ちょっとなに言ってるか分かりませんね


「姉は天然でおっちょこちょいでのんびり屋で世間知らずで不器用ですが、人を見る目は私が知っている誰よりも確かです。

その姉がジン様について行くと言ったのです。

無論多少は心配していましたが改めてお会いして間違いではないと思いました」


さりげなく自分の姉をすごいDisってるな


「それがわかんねーんだよ、別に特別な事なんてしてねーだろ」


「そうですか?不可能と言われた呪いを解いて姉を助け、私を無償で奴隷から解放した上で私達を再会させて下さいました。この服も、私があの事件に巻き込まれないようにとお考えの上での事ですよね」


「さっきも言った通りちょっとした気まぐれだ」


「それで十分です。気まぐれでもここまでして下さる方は滅多にいませんから」


ティアラは微笑む

その顔には自分の、自分達の判断が決して間違っていないという確信に満ちていた



「そんなに自分達の目に自信があるのかよ」


マサイ族もびっくりの視力とかあんのかよ

あいつら6.0とかあるんだぞ


「本当に極悪人でしたら自分の事を悪人と言いませんし、そもそも最初に

チョーカーの装着を御命じになるはずですよね」


当人の意思で奴隷になる事も当然可能だ

その場合当人と主人に当たるものが奴隷商館に行って簡単な手続きを行うだけでよい


「私達の行動の自由を奪うつもりはない、嫌になったらいつでもいなくなって構わない。そうお考えなのではないのですか?」


「当然だ、恩の感じ方なんて人によって幾らでも変わる。今は一生かけて、とか言ってても、何時かはもう十分返したと思って逆恨みされて寝首かかれてもおかしくない。そういう可能性のある奴らについて来られても迷惑なだけだ」


人の気持ちは変わっていく

絶対と思っていても、それは時と共に薄れていく


女心と秋の空

これはちょっと違うか?


「私も姉も一度した誓いを反故にするような事は決して致しません。生涯御仕え致します」


結局最後はそこに行き着くのか

自然とため息が出た

これ以上聞いても同じ事の繰り返しか


まあいい

城に行けばどのみち解決するしな


「私からも質問させていただいてよろしいでしょうか」


ふむ、NOと言える人を目指す俺としては断りたいが、美女だしいいだろう


「なんだ?」


「ジン様は龍騎士なのですか?」


頭の上のくろごまを見る


「違う」


相変わらず丸くなって寝ている   かわいい


「ではその子龍は…?」


適当に言っておくか


「笛吹いたら飛んで来た、で、頭撫でたら懐いた。 

ついでに言うとこいつ子龍じゃないぞ、たぶん」


蔵書の事は感づかれたくないからな

あれはこの世界での俺の切り札だ

無論その中の物も


「笛?それに、この大きさで子龍ではないと?」


「もうすぐ分かる」


「そうですか、ではもう一つ」


ティアラは少し姿勢を正し


「ジン様は召喚された方ですね?」


「そうだよ」


「…お隠しになられないのですね」


「隠してないからな、どこで分かった」


「図書館で読んでいた本はウルジアでは子供でも知っている基本的なものばかりでした。ジン様程の年齢の旅人ならその様な事をいまさら学ぶ必要は無いはずです。それにバウムが最近勇者を召喚したという噂を聞きました。姉とジン様が出会った場所はエルベリア城下町とログスの間の街道近く…後はジン様のその変わったお召し物で推測しました」


エルベリア城というのは俺が召喚された城の事だろう

この服装変わってんのかな

こっちの世界に馴染んでると思ったんだけど


「先に言っとくが俺は世界を救うとかそういうことは一切するつもり無いぞ。

それは一緒に召喚された奴の仕事だ。

俺はただ、この世界で面白可笑しく生きたいだけだ」


色んなとこに行きたいなあ

森の中とか草の中はどうでもいい

あの子のスカートの中とか部屋の中とか布団の中とか谷間の中とか

ああー夢が膨らむなー


「それで良いと思います。バウムの人間の都合で召喚されたのに、この世界の為に戦う必要はありません。ジン様の人生はジン様のものですから」


「意外だな、勇者らしく魔族と戦えとか言うと思ったんだけどな」


「確かにバウムの人間ならそう言うでしょう。しかし実際にはこの世界に魔族と戦う国や組織は多数おります。人間は勿論、異種族も合わせればかなりの数になり、その中には勇者、英雄と呼ばれる者も多数おります」


異種族か、街で見たエルフとかドワーフとかのことか


種族全員美女とか巨乳とかそういうのはいないのかな

いたら草の根分けてでも探し出して(俺の為に)完璧に保護するんだが


「ならなんであそこは召喚なんてしてるんだ?」


「簡単に言えば見栄を張りたいのです。バウムは周りを険しい山と海、友好国に囲まれている為、戦闘が余り起きません。その様なところでは強靭な戦士が生まれにくく、周辺国から軽視されやすいのです。いざという時の戦力がおりませんから。

そこで偶然出来たと言われる召喚術に頼っているのです。

もっともその召喚術も色々と制限があるらしく、何十年かに一度程度しか使えないようですが」


見栄で召喚される身にもなって欲しいわな

まあ分かるわけねえか

せめてなんか褒美くれよ

女の子のスカートの中に自由に行き来できる権利とか

女の子の布団の中に自由に行き来できる権利とか

女の子の谷間の中に自由に行き来できる権利とか


「くだらねー理由だな」


「私もそう思います」


「ああ、一応聞いとくけど元の世界に戻る方法とか知ってるか?

若しくは今までに戻った奴がいるかどうか」


「分かりません。召喚された方々が活躍したというのは多少聞きますが、

広い世界なので、その後どうなったのかは分からないのです」


まあそうだろうな

地図を見たが地球よりも一回りか二回りくらい大きそうだった

そんなとこで数人の人間がどうなったとか分かる訳ないか


「分かった、最後に俺が召喚された人間という事をシエル以外に言うなよ。

シエルにも誰にも言わないように言っておけ」


隠すつもりは無いが自分から言う気も無い

つまらん事に巻き込まれるのはごめんだ


「はい、かしこまりました」


そこで話を打ち切って下に下りた

ティアラには上から見張りをするように言っておいた

さて、ムルクとの国境までのんびりとするかね


「お話しは終わりましたか?」


シエルが話しかけてきた

やはりでかい


「ああ、異常はないか?」


横に座りながら聞く

極力谷間に視線が行かないように気をつけながら

実はさっきティアラと話してる時もかなり注意していたのだ


ブラックホールって宇宙だけにあるものだと思ってたぜ

こんな身近にあるとはな

常識って簡単に崩されるもんだな


「はい、魔物が来てもこの辺りは弱いので、私一人でも大丈夫です」


すごい良い笑顔で答える

元気良いなあ、何でそんなに明るいんだ


「そういあシエルもティアラも武器持ってないな」


最初に会った時の剣を持っていない

こいつを運ぶ時に剣は辺りに見当たらなかった


「いえ、わたしもあーちゃんもちゃんと持ってますよ」


そう言うとシエルの右手に剣が突然現れた

柄と鍔に黒と赤の細かい装飾が施されている

刃は諸刃で普通の物とは明らかに違う質の高い物だ

そしてこいつティアラをあーちゃんって言ってるのか

確か最初の時はティアラって言ってたよな

あの時は死に掛けてたからなんだろうか

しかし最初の時と違ってなんか子供っぽいな

打ち解けた相手にはこうなるんだろうか

だとしたらもっと人を疑う事を覚えた方がいいぞ


「私たちの武器はちょっとかわってるもので、じぶんの意思で出し入れできるんです」


俺の蔵書みたいなもんか

利便性は比べるまでも無いが


「ティアラは何を持ってるんだ?」


「杖です、すごく綺麗なんですよ」


やっぱりティアラは魔法使いか

あいつの事だから奴隷商人に見つからないようにしてたか、もしくは取り出せても魔法が封じられてたから出さなかったか


「あの、ジン様…」


考えてるとシエルが少しうつむきながら話しかけてきた


「なんだ?」


「ムルクが滅びかけてるというのは本当なのでしょうか?」


「ああ、随分前に魔族の侵攻が始まったらしくてな。んで国側は連戦連敗、フロトラム城付近にまで攻め込まれてるらしいぞ」


「そうなのですか…」


魔物は世界各地に占領地があり、そこから人間の国に侵攻してくる。

こちらから攻めようものなら手酷い反撃を受けるので国境で小競り合い程度になっている所がほとんどだ。

ムルクもその一つだったのだが、とある事情により戦力が激減し、隣接している魔族の領地との拮抗が完全に崩れている


バウムの方からも援軍が行ってるらしいが余り持ちそうにないらしい


「俺達があっちにつくのは5日後くらいだ、それまではさすがに持つだろうな」


これは嘘だ、実際は3日くらいで着くようにする

フロトラム城はバウムとの国境から2日程度の距離

ログスから国境付近までは約3日

普通に向かってたらそのくらいなんだけどな

まあ国境に着く前にこいつらが居なくなればそれはそれで良い


俺が言葉を止めるとシエルはさっきまでの元気はどこへやらうつむいたままになってしまった


まあ自分を追い出したとはいえ故郷が滅びかけてるんだ

思うところが無いと言えば嘘になるんだろうな


そう思いながら周りの風景を楽しんでいた

今日もいい天気だ

昼寝したくなるなあ

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