第二十話でようやく名乗るってどうなの?
俺は今街の図書館に居る
情報を仕入れるためだ
釣りの件で益々情報の大切さを思い知った
あの後も釣りを続けていたら人並みの大きさを持つ金魚みたいなのが釣れたのだ。
ただこの金魚、なぜか両手足がついていた
まあ魚には変わりないので(走って)襲ってきた金魚をジョルトカウンターではったおして刺身にしてみたがびっくりするくらいまずかった
なので残りの身を川に捨てて宿に戻ったのだが次の日に飯屋の人に聞いてみたらその金魚は結構上等な食材で、身ではなく四肢がうまい。とのことだった
んなもんわかるわけねーだろうが
どこの世界にアイスキャンディーより棒のほうがうまいなんて思う奴が居るんだよ
くそうくそうと思いながら本を見ていると龍騎士についての事が書いてあった
・龍騎士 上級職
・WK龍使いと中級職騎士のジョブを持ち、長きに渡る修行を乗り越えた者、若しくは大きな功績を挙げたものが転職できる
・扱える龍は子龍の頃から自らの手で世話をした一匹のみ
・龍は生涯自分の乗り手以外を乗せる事はしない
・龍が人間を乗せて飛べるほどの大きさになるまでの期間は約5年、大きさは2m程で成長が止まる
・龍が死亡した場合、また一から龍を育てなければならない為、龍騎士は自分の龍をとても大切にする
・龍が主人が死亡した場合野生化する
修行やら功績って言葉があるって事はジョブには経験値みたいなもんがあんのかね?
一定値を越えると上級ジョブになれるみたいな
大きな経験値が一度に入ればすぐなれるとか
WKも同じ感じなんだろうか
で、特定のWKとジョブの組み合わせでないとなれないジョブがあると
龍の絵も書いてあるが、くろごまと違い、プテラノドンの様な鳥類が混じったような外見だった
ていうか成長して2mなのか
じゃあやっぱりくろごまは普通とは違うのか
当然か
こんなに可愛い龍が他にいてたまるか
いたら俺は萌え死にしてしまう
それはそれで本望だが
そう思いながら他にも色々本をパラパラと読んでいると腹が減ってきた
朝飯食ってからすぐここ来たが、気がつけば既に昼過ぎだった
何食おうかな、と考えていると
なにやら背後から寒気がした
殺気や敵意では無い、が、振り向いたら愛と勇気と友情の大冒険が始まってしまうような予感
なんだその背筋が凍るような人生は、絶対ごめんだぞ
俺はいつでもやりたいようにやるんだよ
喰いたい時に喰って寝たい時に寝て愛でたいときに愛でる(くろごまを)
蹴りたい時に閃光魔術して、盗みたいときに潜入んで、殺りたいときに虐殺るんだよ
大体そっち方面はイケメンの分野だろうが
俺に話持ってくるなよ
適材適所って言葉しらねーのかよ
よし、結論
逃げよう
「あの」
と思ったら行動を起こす前に声を掛けられた
なん…だと?
先手を取られた、だと…?
気配は確かに後ろからするのに
コレが噂の残像か
こやつ、やりおるわー
わけ分からん冗談はおいといて、おおよその見当はついている
というかあいつら以外考えられん
手切れ金が足りないとでも言いに来たんだろうか
だとしたら揉んで逃げよう
揉み逃げという奴だ
流行りそうな言葉だ
面倒ごとに巻き込まれたくないし白切るか
どっちも俺の顔しっかり見たわけじゃないし
本を閉じ、振り向くと思わず引いてしまった
昨日の二人が居るのは計算の内なんだけど
二人ともDO・GE・ZAをしていた
いや、良く見ると親指人差し指中指をついている
所謂三つ指ついた体勢で頭を下げていた
妹の方は昨日俺がおばさんに渡しておいた服を着ていた
何、この羞恥プレイ
周りの利用客がじろじろこっちを見ていた
「おれに なんか よう ですか?」
表面上は特に変わらず応じる
畜生これも計算の内なら揉むだけじゃ許さんぞ
「昨日は本当にありがとうございました。貴方様の御蔭で体に憑いていた呪いが消え去ったばかりか、諦めていた妹との再会も果たす事ができました」
姉の方が頭を下げたまま言う、話し方や体の色からもう問題はなさそうだ
そして二人とも手を突きながら上半身を上げこちらを見る
おい、だからお前ら凶器を見せ付けるな
なんでそんな物標準装備してんだよ
なんでそんなとこにそんな深い谷間があるんだ
投身自殺したくなるだろうが
ちなみに二人の首元には指輪がほのかに輝いていた
そう、俺は指輪を見ているんだ
決してブラックホールよりも吸引力のある谷間など見ていない
くっ、気を抜くと吸い込まれそうだ!
「私の名はシエル、妹はティアラといいます」
「人違いじゃないですか?全く身に覚えが無いんですが」
昨日は金魚と死闘を繰り広げていた事しか覚えてない
そう自分に言い聞かせるんだ
「私達姉妹の運命を救っていただいた方を見紛う事などありません。
貴方様が立ち去られた後に宿屋の主人から貴方様の事を聞き、街中を探しておりました」
運命とか知らんよ大業な
「いや、だから」
「頭に子龍を乗せている方は今まで聞いた事も見たことも有りません」
貴方様以外、と続ける
くろごまは相変わらず頭の上で丸くなって寝ている
なんということだ、時代を先取りした素敵ファッションのせいで見破られたというのか
くそうくそう、自分のセンスが恨めしい
はぁ…白切っても誤魔化しきれんっぽい…やめるか
「あーうん、元に戻れて良かったね。それでなんか用かい?」
片手で頭をかきながら軽薄っぽく言う。
あんまり丁寧に受け答えしてしまうと『是非恩返しを』って事になりかねん
お礼だけ聞いてさっさとどっかに行ってもらおう
「どうか是非、私達に御恩返しをさせて下さいませ」
どっちでも同じでした
えー
恩返しするために羞恥プレイを強いるのか?
「別に恩に感じる必要なんて無いぞ。たまたま気が向いたからやっただけだしな」
コレは本心だ、あの時見たのが男なら無視していた
男なら自分の身は自分で守れ
できないなら死ね
イケメンは守れても死ね
ていうか殺す
「たとえそうでも私達が貴方様から頂いた御恩は物や行動で返せるものではございません。故に私達の残りの人生を賭けて返させていただきたいのです」
お堅い言い方だ、出自が割れるぞ
「そんな事簡単に言っていいのかよ。これから先俺の言う事に絶対服従するってのか?それこそ奴隷とかわらんだろ」
「かまいません」
ノータイムで答えてきた
「貴方様は全く面識の無い私や妹を救い、何の見返りも求めず立ち去られました。その様な方が主なら私達も安心して命を預ける事ができます。
この命は貴方様に救われた身、どうか如何様にもお使い下さいませ」
なんか人生簡単に決めすぎじゃねーか?
裏がありそうな気がするな
「主とか言われても俺特に偉い人でもなんでもない唯の旅人だぞ?
仕官したいのならどっかの城行った方がいいんじゃないか?」
「国に仕えるだけが道ではありません。
心服した方にお仕えできる事が自らの幸せにも繋がる、と私は思っています」
思うところがあるような言い方だな、見当つくけど
「と、姉は言ってるけどそっちはどうなんだ?」
妹の方は頭が切れる、姉がこんな向こう見ずなこと言えば止めると思うんだが――――
「私も姉と同意見です。姉の命どころか奴隷であった私を解放して頂き、さらに姉と再会までさせて下さった貴方様なら安心して御仕えすることができます」
なんか考えてるような感じだな
どうするか
この調子だとなし崩し的にパーティ組む事になりそうだ
俺は一人と一匹で十分なんだよな
いや、美女はそりゃあ大好きだよ?
美女で凶器装備してりゃ男なら大歓迎だろう
美女が嫌いな男なんてニューカマーな奴らぐらいだろ?
でもさ、そういう奴らが近くに居ると大抵トラブルに巻き込まれるんだよね
奴は大切な物を盗んでいきました
あなたのベッド下の秘蔵本です
盗んだタイトルは残されたカードに全部書かれてました
ばら撒かれてます
おいやめろ洒落にならん
ま、こいつらの行動も計算の内だけどな
裏があろうが無かろうが関係ない
「分かった、ならついて来い。行きたいところがあるんだ」
「「はい」」
なんで嬉しそうにすんのかね
まあそれもすぐ消えるだろうけど
「あの、その前に」
ティアラが口を開く
「お名前をお伺いして宜しいでしょうか?」
そういやこっち着てから一度も言った事なかったな
言う必要もなかったし、聞かれなかったし、なんとなく言いたくなかったしな
「ジンだ、呼びたきゃそう呼べ」
苗字まで言う必要は無い
「「はい、ジン様」」
そのまま俺は続けて言う
「行き先はムルク国フロトラム城」
途端に二人の顔が強張る、
「滅びかけてる国がどんモンか、見てみたいと思わないか?」