第十六話 余計なお世話だ、マジで
やること済ませて飯食って(おばさんは女を見て特に何も言わなかった)
あれか、『ゆうべはお楽しみでしたね』とでも思ってんのか
泊まったのはついさっきだよ
地図に書いてある道具屋に向かう
くろごまは今回部屋に置いてきた
悲しいがあいつがいると目立ってしまうのと女の護衛が必要だったからだ
果物は置いていったから食事には困らないだろう
くろごまにはおばはん以外の侵入者が来たら建物に被害を出さないように消せと言っておいた
元気に返事をしてくれたから大丈夫だろう
その時の可愛さに思わず5分程なでなでしてしまった
大通りで俺がくろごまを頭に乗っけてるのは結構見られてるから目立たないようにおっさんマントを頭から纏って宿をでた
大通りからそれた道に進んでいく
そう人通りの少なくない場所にその店はあった
出来て結構な年月がたってるのか少しボロイ印象を受ける
ドアノブには〔営業中〕と書かれた札がぶら下がっていた
開けると少し暗めの部屋に所狭しと色々な物が置いてあった
ガラクタみたいなのも有るけどこれも売り物なんだろうか?
「いらっしゃい」
そう思っていると奥のカウンターから声をかけられた
視線を向けるとおっさんが椅子に座りながら頬杖ついてこっちを見ている
「何が御入用で?」
「宿の店主に紹介されて来た。聞きたい事がある」
「なんだ、そっちの客か」
そういうとおっさんはカウンターから出て俺の横まで来てドアを開け〔営業中〕の札をひっくり返してドアを閉めた
「で、何が聞きたいんだ?」
おっさんはカウンターの中に戻りながら尋ねてくる
「この街で荒っぽい方法で奴隷を集めてる奴と王族クラスの姉妹が行方不明になった国がないかの二点」
「ふーん…それなら1000でどうだ?」
おっさんは最初の時と同じようにカウンター内の椅子に腰掛け、頬杖ついてこっちを見る
ポケットに手を突っ込みおっさんに向けて小袋を投げる
おっさんはそれを片手でキャッチして中を覗く。
「ほう…」
「釣りはいらん、その代わり」
「分かってる、出し惜しみはしないしあんたの事は誰にも漏らさない、それでいいかい?」
袋に入れておいたのはG4貨3枚、つまり3000Gだ
こういう奴は最初にケチるとろくな事にならん
まあ宝物庫にG5G6貨は大量にあったしケチる必要もないんだが
「ここで話をすれば外の奴に聞かれるんじゃないのか?」
「それは無い、この家は音を外に漏らさない造りになってる。その辺は考えてるよ、信頼が大事だからな。
ちなみにドアの札ひっくり返すと外からは開けられない様になる」
防音設計なのかこの家
ファンタジーでもそんな家あるんだな
「んじゃ早速本題に入ろう」
おっさんは胸のポケットからメガネを取り出し、耳にかけて両肘をカウンターに着け、顔の前で手を組みながら話し出す
「この街で裏の奴隷商人は一人しかいない、レッペっていう奴だ」
奴隷になる人間は大抵金が絡んでいる
生活が苦しくなり家族を売る
借金のかたに身売りする
他にもあるがその辺の人間を扱う奴隷商人は結構普通にいるしそれは法でも認められている
だが表があれば当然裏もある
珍しい種族や身分の高い者など、高額になる商品を非合法な方法で売買する奴もいる
「どんな奴だ?」
「金のためなら何でもかんでも…っていえばわかるだろ?」
当然だ、そういう性格じゃなきゃそんな商売しないだろう
「店の位置は?」
「ちょっと待ってな…あったあった」
そういっておっさんは奥のガラクタを漁ってこの街の地図を持ってきてカウンターの上に広げた
「ここだ、裏通りの一軒家。だけど実際は地下にだだっ広い部屋があって奴隷を管理してる」
そういって地図上の一点を指差した
街の端っこの細い道を何本も進んだ先
大通りからは間違ってもたどり着けそうに無い
ま、こんな所でもないとんな商売できねえだろうな
「ただ、当然普通の奴は入れないようになっててな、常に入り口に見張りがいる。入るには見張りに『海ウサギは元気か?』と言いな、それが合言葉になってる。
ただ見張りの奴も主人に似て欲深いからな。
いくらか握らせないと入れないぞ」
「奴隷の人数は?」
「50は下らないと思うぞ。結構な身分の奴や希少種族も扱ってるらしいぜ」
ニヤリと笑う
こっちの目的に目処がついてるんだろう
おっさんが笑うな気持ち悪い
豆腐の角に足の小指ぶつけて死ね
「にしても、犯罪しまくってるってのに捕まらないんだな。
ハロー石ですぐわかるんだろ?」
「あんなもん何の抑止にもなっちゃいないさ、いくらでも誤魔化す方法がある。
誰もあてにしちゃいないさ」
「へぇ」
まあどの世界でも犯罪者ってのは法の目潜ってんだし珍しい事ではないのかもしれんな
「話が逸れたな、んでもう一つの方についてだが――――」
その後も幾つか話を聞いてから店を出た
地図は頭に残ってるので目的地にはすぐ着いた
予想通り大通りからかなりの距離がある
日はまだ落ちていないのに路は薄暗く、空気も濁ってる感じがする
例の建物の入り口には情報どおり見張りのような男がいた
いかにも下っ端っていう感じの筋肉質にスキンヘッドの男が扉に寄りかかっていた
俺と目が合うと
「何だ兄ちゃん、痛い目合いたくなかったらさっさと消えたほうがいいぜ」
とほざいた
良し、消そう
決定するのに時間は必要なかった
近づいてG2貨を一枚握らせ
「海ウサギは元気か?」
男は俺が渡した硬貨を見ると
「入んな」
そう言ってドアを開けた
ああ、なんかもうくろごま触りたくなってきた
そう思いながら俺は奴隷商人の店に入った